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十五。
更に翌年になって、私も学園に入学した。
ヒロインちゃんの名前は、事前に名簿でしっかり確認してるわよ。
彼女の名前はラビア・トゥルーラちゃん──私は自分の名前でプレイ派だから、デフォルト名知らなかったんだけどね。トゥルーラって名前には聞き覚えがあるからきっと間違いないわ!
シナリオ通り入学式に遅刻してきたみたいだから、まだ顔を合わせたことがないのよね……クラスも違ったし。
広い学園内で迷子になったヒロインちゃんは、色んな攻略対象とすれ違うのよね、確か。
戦隊モノの仲間集めの初回みたいな感じ?
そんな訳で、嫌がらせもそろそろ潮時ですかね?
とうとう泣き顔は見られなかったけど。
美少年の悔しくて真っ赤な顔とか、泣く直前の涙目とか、貴重なものを間近で見られて幸せだったわ!眼福眼福!
やりたいことはほぼほぼできたし。満足だわ。
──でも、ちょっと寂しいかしら……。
いやいやいや。何言ってるのよ私!
アレは、どう足掻いても私のモノにはならない。
所詮は他人のモノだわ。
もうそろそろ解放してあげなければね──それは分かってるのよ?
ただ、市井落ちも国外追放も視野に入れていたけれど、やっぱり大っぴらに断罪されるのは馬鹿みたいだしごめんだわ。
穏便に解消できればそうしたいわね。
えーっと……もう少し様子を見て、ヒロインちゃんがジェラルドとの仲を深める感じだったら、すかさず私から提案してあげればいいのかしら?
悪役令嬢だからか、空気を読むのがちょっと苦手なんだけど頑張ってみるわ!
それよりジェラルドはどこかしら?先生から言伝を頼まれたのよね。
あっ!あの後ろ姿は──。
「あ、でん──……」
私は言葉を飲み込んで気配を消し、サッと物陰に身を隠した。
何故かというと、視線の先でジェラルドが女生徒と二人きりで話をしていたからだった。
ジェラルドは背中しか見えないけれど、女生徒の顔はバッチリ見えた!まさしく『フォル恋』のヒロインちゃんだ!
テンプレヒロインのふわふわピンク髪、ぱっちりとしたタレ目気味の藍色の瞳、薄く色付いた頬、思わず守ってあげたくなるような華奢な身体──間違いなく彼女はヒロイン、ラビア・トゥルーラだ!
私と系統は違うけど、すんごい美少女!
同じ学年だけど、ゲームと違って別のクラスだからか、今までほとんど接点がなかったのよね!
うわぁぁぁっ!
めっちゃ可愛い!ちょー可愛い!
あれは惚れるわ!
「ふむ……」
人気のない廊下で二人きりということは、何かのイベントかしら?
転生してから十五年経ってるからなのか、残念ながらもうあんまりゲームのイベントについて思い出せないのよねぇ。『フォル恋』の異世界編、結構好きだったからやりこんだはずなんだけど……今やジェラルド以外の攻略対象もうろ覚えだもの。
老化って怖いわね!──って、この世界の私はまだ十五歳の乙女だったわ。
ここからだと声は聞こえないけれど何か手渡してるみたいだわ。
手作りお菓子を渡して仲良くなっちゃおうイベみたいな感じかしら?
ただ、もしかしたら手作りお菓子は食べないかもしれないわね。何と言うか……お茶会の度に色々仕込み過ぎて、ジェラルドは食べ物に対しては警戒心MAXなのよね。
まぁ、とにかくヒロインちゃんがジェラルドにまとわりついているという話は少し前から聞いてた。お節介な周りの人達がわざわざ教えてくれるのよね、それはそれは嬉しそうに。でもこれでジェラルドルート確定ってことでいいのかしらね?
私はヒロインちゃんをいじめてないから、それ関連のイベントは起こらないはず。それでも、悪役令嬢モノのウェブ小説だと転生ヒロインが悪役令嬢に冤罪をふっかける展開になるんだよね、確か。
だけど、今のところ冤罪をかけられそうな気配はない。転生ヒロインだったとしても割とまともな方だと思っていいのかしら?
まぁ、私がいじめてたのはジェラルドだからね!
だったらジェラルドに断罪されるのかというと、そうはならないんじゃないかな~って、希望的観測。
ほら、男ってどこの世界もカッコつけだから、まさかジェラルドの方からヒロインちゃんに泣きついたりはしないと思うのよね。私にいじめられていた分、ヒロインちゃんに思い切り癒してもらえるといいわね、ジェラルド。
「──はっ!」
じゃあ、やっぱり穏便な婚約解消さえできれば、私が断罪される可能性はほとんどないんじゃないかしら?
──あら?
私も幸せ、ジェラルドも幸せ、ヒロインちゃんも幸せ!
ああ、何て素晴らしい!
そうと決まれば早めに退場の準備をしなくちゃ!
まずは婚約解消の件をお父様に相談ね!
私はウキウキと、スキップを踏みながらその場を後にした。
スキップする転生悪役令嬢。
次話で本編はラスト(多分)ですが、番外編で別視点差し込みます。