目覚め
どれくらい気を失っていたのだろうか。
目を覚ますと、そこは自室だった。
ああ、私はまだ生きているのか。絶望が再び私を覆う。
ほぼ無意識にいつもの習慣として、ベッドサイドのベルで侍女を呼んだ。
バタバタと騒がしい足音がする、と思えばバン!と大きく扉が開いた。
私は夢を見ているのだろうか?
「お姉様!目を覚ましたのね!」
「セイラ様!子女ともあろう貴女がノックも無しにお部屋に入ってはなりません!」
そこには私の太陽、セイラが生きて立っていた。たしかに冷たくなったその身体を見届けて、葬儀をしたはずなのに!
「セイラ、セイラ!!」
思わずベッドを抜け出すが、うまく脚に力が入らず惨めにも床に転んでしまう。
「「お姉様「お嬢様?!」」
そんな私を囲む様にセイラも侍女達も慌てて寄ってくる。お構い無しに私はセイラへと抱きついた。
温かい!生きている!
思わずわんわんと泣き出した私に釣られる様に、なぜかセイラも泣き出す。
天真爛漫で、衝動的なセイラはともかく。普段おとなしい私の突飛な行動に、周りはオロオロと戸惑うばかりだ。
次第に騒ぎが大きくなり、さらに人が集まった頃には私はもう一度気を失った。
一度目覚めてから3日経ち、私は状況を理解した。
セイラは生き返ったのではない。私が、過去に戻ったのだ。
それも10年前なので私が17歳、そしてセイラが15歳の時に戻ったらしい。15歳ということは社交界へのデビューがまだ、つまり彼女は全ての元凶となる、皇太子とはまだ出逢ってない。
これは嬉しい事実だ。
17歳の私は風邪をこじらせ、熱を出して寝込んでいたらしい。
3日前の私のおかしな行動は、熱のせいでセイラが死んでしまう悪夢をみたからだということになった。
悪夢ならどれだけ良かっただろうか、しかしあのおぞましい未来はたしかに存在したのだと、現実を突きつける証拠がある。それは私の秘密の日記だった。
6歳の時に父からプレゼントされた鍵付きの三年日記。美しい丁装がお気に入りで、書き切っては同じ物を買って、毎日日記をつけることがすっかり習慣となっていた。
今の私は17歳だから4冊目のはずなのに、日記の隠し場所である床下には8冊置いてあったのだ。
書かれている筆跡は間違いなく私のもので、一番最後の日記にはこう書き殴られていた。
『許さない。自分もあの悪魔も。叶うことなら時が戻って欲しい。セイラの笑顔をもう一度見たい。』
力が入りすぎたあまり、ページが少し破れている。書いた記憶もある。
なぜこんなあり得ないことが起きたのか。少し寒気もするが、今はその奇跡に感謝するしかない。
過去に戻ったことを確信した私がまずししたことは、このまま未来だと起こりうる出来事を紙に書き出し整理することだ。
セイラの死は私の責任でもある。
「…何がなんとしてでも防がなくちゃ。」
先の見えない戦いへの不安から目を逸らす様に、握りしめたペンに力をこめた。