物語の終わり。全ての始まり。
その日は、まるで今の状況を表すように暗く重たい雲が空を覆っていた。
今にも雨が降りそうだが、まだ降り出してはいない。そんなところもピッタリだ。
「いや、いやよ!セイラ!」
後ろから母の泣き叫ぶ声が響く。
ああ、セイラ。私達の太陽。
頭上に広がる曇天のように、私達の太陽も隠れてしまった。ただ空とは違うところが一つ。私達の太陽は二度ともう一度顔を見せてくれないということ。
全て私のせいだ。私があんな意地悪をしなければ。絶望が私を襲い、足元から存在が崩れていくような心地だった。
まるで眠っているようなセイラの身体が入った棺へと、墓守が土を被せていく。
半ば呆然とそれを見守る私の肩に誰かが手を置いた。
「アン。」
その声に鳥肌が立ち、全ての感覚が痛いほど戻ってきたことを感じた。ポツポツと雨が降り出したことがわかる。
ゆっくりと振り返ると、どうしても許し難いアイツが立っていた。なぜ。なぜ、
「なぜ貴方が悲しい顔をしているの!!!!!」
皇太子アシュワルト。
濡鴉のように艶やかな黒髪に、アメジストのような瞳がぴったりな美しい皇太子。
死んでしまったセイラの夫。悪夢の元凶。
悲しそうな表情をしているが、その仮面の奥は何も感情が灯っていないことを私は知っている。その冷酷さを知っている。
「殺す。ころしてやる!!!」
こんなにも人を憎いと思ったのは初めてだった。細胞の1つだって許さない。
今にも飛びかからんばかりの私を、皇太子付きの護衛が地面へと押さえ付ける。
その様子をみて、悪魔の瞳が興味深そうに歪んだのを私は見逃さなかった。
「アシュワルトおおおおおお!!!!」
そう叫ぶと同時に雷鳴が轟く。余りの激昂に、自分の意識が遠くなる。
ぼやける視界に、最後に写ったアシュワルトは確かに笑っていた。