俺を無能扱いしてパーティーを追い出した勇者がダメな子過ぎて、 最後には俺に泣きついてくるので何度でも許してしまう俺。 ~いい加減この沼から抜け出したい~
俺を無能扱いしてパーティーを追い出した勇者がダメな子過ぎて、 最後には俺に泣きついてくるので何度でも許してしまう俺。 ~いい加減この沼から抜け出したいです~
「カズサ、お前はこのパーティーには必要ない!今すぐ出て行ってくれ!!」
勇者カエサルが声高に叫んだ。ああ、はいはい。了解です。
「ほんじゃまぁ、行くわ。カエサル、元気でな」
俺はさっと荷物を纏めると、勇者パーティーが拠点にしている屋敷を出て行った。
見送る使用人たちが物言いたげにこっちを見ていたが・・・俺は気にしない。無視だ無視。
馴染みの古書店に寄って、店主お薦めの禁書を数冊購入した。この店はほんと穴場なんだよな・・・。
個人で借りている部屋に戻って、とりあえず飯を食う。はぁ~卵かけ飯、うまぁ。
完璧主義者のカエサルの前では、だらけた生活ができないからな。息抜きできていいわ。
東の国のゲンマイ茶を淹れて、長椅子に足を延ばしながら座る。買った禁書と茶菓子も用意して完璧だ。
「もう今日は、何もしねぇ」
お・・・ほうほう。・・・この本、おもしれぇ。
「あの店主は、いいとこ突いてくんだよな。お?へえ・・・」
気になった個所に付箋を挟んでいく。そのまま3日間、俺は本の虫になった・・・。
***************
バンバン!!!と激しくドアを叩く馬鹿野郎がいる・・・・俺は夢の中だ・・・知らねぇ・・・
「カズサ!!おい!出てこい!!」
バンバンバン!!!
「おい!!カズサ!緊急事態なんだ!!出てこいったら!!」
バンバンバンバン!!!
は・・・っ近所迷惑だ・・・誰かにうるせぇ!って怒鳴られたな・・・乙。
トントン・・・ドアが控えめにノックされる。
「お~い・・・カズサさん?起きてますか?お願いしたいことがあって・・・ドア開けてください」
・・・ぐ~~~~ZZZZZ・・・
「いい加減起きろって!あ、すんません!・・・ゴホン。西のダンジョンで、カエサルが困ってんだよっ」
「・・・俺には関係ないだろ」
欠伸をしながら、ドアを2cm開く。ふぁ~・・・眠・・・。
「お前、寝癖が酷いぞ・・・ちょっ寝るなってっ」
朝っぱらから・・・あ?もう昼過ぎだって?知らね。煩く俺を呼んでいたこいつは、タンク役のガイウス。
まぁ、脳筋肉だるまだ。あ?口に出てたか。悪い悪い・・・。
「・・・」
「・・・西のダンジョンでナメクジラが出た」
「ああ、ぬめぬめした液を出しながら地を這う魔物な。腹減ってきた・・・何かあったかな」
冷蔵棚を覗いても、調味料しか入ってねぇ。買出しに行かないとな・・・
「ん?・・・ああ、サンキュ」
ガイウスが干し肉とチーズを差し出してきたので、お礼にレモン水を渡す。うむ・・・しょっぱめだな。
「そのナメクジラにカエサルが溶かされた」
ちらりとガイウスに目をやる。どうせ、お気に入りの装備を溶かされたとかだろ?
「・・・どこまでやられた?」
「・・・兜と胸当て。昨日買ったばかりのシャツ。火傷は軽症だが、ユリウスが治した」
「で?」
俺にどうしろと?
「カエサルがお前を呼んで来いと・・・泣いている」
「あ~・・・」
ぐしゃぐしゃと寝癖の付いた髪を掻き回す。行かないって、突っぱねるのもありだけどなぁ。
「・・・昨夜から泣きっぱなしだ」
「はぁ~・・・食い終わるまで、ちょっと待ってろ」
俺は干し肉とチーズを少しだけ急いで食べながら、ダンジョンに潜る準備を始めた。
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西のダンジョン内25階層、階段裏。
ヒーラーのユリウスは困り果てていた。
昨夜から宥めても何をしても泣き止まない、勇者カエサルに手を焼いていたからだ。
「勇者カエサル・・・どうか涙を止めてください。敵はまだ目の前にいます。あ?!カズサが来ましたよ!」
「っ!!」
それまで丸くなって泣き続けていた勇者カエサルが、涙に濡れた目を大きく見開いて、飛び起きた。
「カズサ!!僕が悪かった!どうか僕のパーティーに戻ってきてくれ!!」
「うおっ・・・冷てぇ!」
カエサルがギュッと俺にしがみついた・・・俺の肩に、顔を擦りつけるんじゃねえ。あぁ・・・くそっ。
16で勇者になって村を出てから、2年はまぁ上手くやってた。3年目に入ってタンク役のガイウスとヒーラーのユリウスが固定メンバーになってからだな、カエサルの追放プレイが始まったのは。
だいたい一か月か、長くて3か月に一回は「お前を追放する!」と叫ぶカエサルに付き合って、出戻りが今回で9回目。そろそろこの沼から抜け出たい。正直、飽きてきた。
「あ~カエサル。俺がパーティーに戻るのは、今回で最後な。次は無いから」
カエサルが顔をクシャっと歪めて、泣きたいのを我慢してるようだが・・・知らね。いい加減、甘えんな。
俺は魔法でカエサルの装備と、お気に入りのシャツとやらを直してやった。リカバリーってやつだな。
ついでにでろでろになった顔も綺麗にしてやると、カエサルは頬を染めて、破顔した。
「よし皆、行くぞ!このまま最下層まで攻略するんだ!!」
復活したカエサルは強かった。まぁ、本物の勇者だからな。強くて当然だ。
ナメクジラに復讐を果たした俺たちは(主にカエサルな)最下層のボス戦に挑んだ。
「カズサとユリウスは後方支援を頼む。ガイウス行くぞ!!」
眼前には巨大なハエの魔物が一匹。赤い目をギョロつかせて、上空から俺たちを見下ろしていた。
「うえ・・・蠅の王か。早く帰りてぇ」
6本の脚から繰り出される、巨大なくせに速度のある攻撃は、全てガイウスが受けている。
「くっ・・・一撃が重てぇ!!」
俺は手の中で練り上げていた魔力を放ち、短く詠唱した。長く喋んのめんどいからな。
「氷の楔よ穿てice Wedge!」
鎖のついた氷の楔に貫かれ、拘束された蠅の王にカエサルが聖剣を突き立てた。
「悪魔よ、煉獄に還れ!LIGHT OF MOBIUS!!」
・・・うん、まぁ、こんなもんだな。ボス戦はあっけなく終わった。過剰戦力なんだよな。
「聖剣の光に浄化され、不浄な魂が煉獄に還って行きましたね!!」
ヒーラーのユリウスが、何か言ってんな・・・お前、出番無かったもんなぁ。
「やっぱり、このパーティーは最強だ!!ありがとう!僕の仲間たち!!」
カエサルが良い笑顔でガイウスの肩を叩き、ユリウスと握手してから、俺に抱きついてきた。
暑苦しいわぁ・・・。
「さあ、次は南のダンジョンを攻略しに行くよ!皆ついて来てくれ!!」
おい宝箱どうすんだ?あ、貰っていいの?どれどれ・・・オリハルコンでできた虫の羽だわ。いらね。
同じ村出身の、そこそこの付き合いの幼馴染・・・程度の俺とカエサルの関係も、今回までだ。
次に「追放」って言いだしたら、いい加減許さねえからな。
おわり。
朝、目覚めた瞬間に思い浮かんだ話です・・・。
技名を考えるのが恥ずかしかったです・・・。
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