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「駿馬」

作者: 弘せりえ

 相葉駿は待ちの合わせの

時計台の下で、ずっと練習していた。



―相葉さんじゃ、どこかのグループの

アイドルみたいだから、下の名前で・・・-




「相葉さーん」


 

 突然、彼女が現れた。

クリスマス・パーティで出会った、

安田マナ。

 いや、正確にいうと、

駿のプレゼントを抽選で

受け取った女の子。


 北岡まいという姉御肌の先輩は、

彼女のプチ情報を、すでに駿に漏らしていた。



「私と奈美が、トイレいったとき、

泣いてたのよ、彼女。

きっとあのパーティで誰かに


振られたんだわ」


 

 あのパーティで、デザイナーの

アリサに振られたのは、駿も同じだった。


だから、アリサのために用意した

プレセントを、抽選に回したのだ。


 そして、この出会い。


駿は、マナに再会して、こう言った。


「相葉じゃ、どこかのグループの

アイドルみたいだから、

下の名前で呼んでくれる?」


 マナは一瞬固まった。

そしてつぶやいた。


「・・・無事是名馬」


 不思議な再会が幕を開けた。




 近くのカフェでとりあえず

お茶しようと、駿は、マナを誘った。


「あのパーティ以来ですね。

でも、まだそんなに経ってないか」


マナはコートを脱ぎながら言う。


「本当、不思議だね、 

あのパーティがなければ、こんな再会もない」


 

 マナはホットミルクティを、

駿はアメリカンを頼んで、語り始めた。


「メールでも書いたけど、

私、安田マナ、美大の3回生です」


「へぇ、美大? すごいじゃん。

なに専攻してるの?」


「美術です。絵描きになりたくて。

でも、駿さんも、企画会社で、

コピーライターのお仕事してるんでしょ?」


「いや、そんな大層な・・・チラシに

見出しつけたりしてるくらいで・・・」


「でも、私、駿さんのチラシのフレーズ、

憶えてます」


 駿は、自分のフレーズより、

先輩が考えた’のほうがインパクトが

あったような気がしていたので、驚いた。


 マナはちょっと得意そうに言う。


「駿さんのフレーズ。

‘クリスマスに友の家に帰ろう。

君は一人じゃない。みんなここにいる’」


 フルでフレーズを憶えていたマナに、

駿は、驚く。


「へぇ。本当に憶えててくれたんだ」


 二人はお茶を飲みながら、更に語り続ける。


マナはちょっと恥ずかしそうに言う。


「あの・・・駿さんって、あの方たちの

お友達ですよね?」


「・・・誰のことかな?」


「華やかなお姉さんと、おっとりしたお姉さん」


「あ、まいさんと奈美のことだね。

友達兼、同僚だよ」


「同じ会社の人だったんだ・・・」


  

 少し考え込むマナを、駿は不思議そうに見つめる。

マナは意を決したように言った。


「じゃあ、聞いてますよね、

私が化粧室で泣いていたの」


 駿も一瞬とまどうが、正直にうなずく。


マナは駿を見つめて続けた。


「あのとき、好きだった人に振られたんです。

ひとりこっそり泣いていたら、

華やかなお姉さんに、バシッと肩たたかれて、

言われたんです」


 駿は、まいを思い浮かべ、

マナの話に耳を傾ける。


「‘大丈夫、男はひとりじゃないわ!’って」


いかにもまいが言いそうなことで、

駿は腹を抱えて笑う。


 そんな駿に、まいは言う。


「そしたら、駿さんと出会った」


 二人はしばし見つめ合うが、

駿は照れ隠しのように、言った。


「・・・あのさ、さっき言った、あれ、何?」


「え?」


「無事これなんとか、って」


マナは思わず破顔する。


「ああ、ごめんなさい、再会してすぐに、

駿さんが下の名前で呼べっていうから、

思わず思い出したの、中国の故事」


「中国の故事?」


「‘無事、これ、名馬’。

戦場で、名誉の死を遂げるより、

無事に生き延びてこそ、名馬だっていう

中国のことわざ。

駿って名前で、駿馬って言葉を思い出して、

なんとなく結びついたの」


「再会した瞬間に?」


「再会した瞬間に」


駿は、ふっと笑う。


「いい言葉だ。それに、なんだか、

もっとマナちゃんと話したくなってきた」


「・・・私も」


 二人は飲み終わったお茶を

後にして立ち上がった。


「さぁ、メシ食いに行こう。

これからが話しの始まりだ」


 マナはうれしそうにコートを着てうなずいた。






                 了

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