第八話
ボーーーーン。
ボーーーーーン。
鐘の音が祭りの終わりを告げた。
それが境内を走り回っている子供たちにも伝わったのか、皆一斉に鳥居へ向かって歩き出す。賑わいの音が止み、足音のみ響く参道は、何度見ても異様な雰囲気だった。ぞろぞろと一直線に鳥居に向かう列を背景に、提灯の明かりだけが闇夜を照らしだす。
『祭り』は『祀る』と、よく言ったものだ。毎年この頃になるとため息交じりに告げられる父の一言が、今になって現実となって露わになった。先ほどの賑わいは、皆の笑った顔は、ただ僕にしか見えていない幻想なのかもしれない。それでも伝統だからやらなければならないのだろう。
先ほどの温かい空間と打って変わって、静寂を取り戻した境内に、ぽつりと残されたそんな気がして、背筋が寒くなった。呆然と立っていると、少女が鼠色の袴を掴んだ。袴から伝わる振動で手が震えているのがわかった。
「大丈夫だよ」
落ち着かせるように、頭に手を置く。それでも震えが止む気配がない。そりゃあそうだろう。大丈夫だと言われてもこの光景じゃ、奇妙の言葉以外出ないだろう。僕自身もそうだ。きっとこの少女が居なければ、去年と同じように震えていただろう。
「うぉいっしょっ」
少しだけの強がりをして見せる。少女の脇に手を入れて胴を持ち上げる。反動で細い足が小さい下駄を投げ飛ばした。
「うえっ」
膝の裏に腕を回し、抱きかかえる形に落ち着く。唸り声をあげたが終始少女は胸元にしがみついたままだった。そうやって誰もいなくなった参道を二人、とぼとぼと歩いていく。
「お兄さん、力あったんだね」
「どれだけひ弱に思ってたの」
肩に顔を付けたまま話し出す。胸に当たる体温が、先程の子供たちとは違う、ちゃんと生きている人間だと再確認される。
誰もいなくなった縁日。屋台と提灯の明かりで照らされて、鳥居までの道筋が一本のカーペットみたいに見えた。少女の顔色を窺えば、僕の腕の痺れをよそに僕の肩に顎を乗せて、後ろの風景に見とれているようだった。
震えが止んだ体を抱え、ほっと一息ついた。
「ねぇ。君の名前教えて」
背中を軽く叩く。
「沙織」
つぶやくように返す。
「沙織ちゃんかぁ。かわいいね」
明後日の方へ向いていた目がギッとこちらを睨んだ。
「こーゆうのは、そっちが先に言うんじゃないの」
「あははは」
右頬をぎゅっと引っ張られた。
「夏彦です。咎松 夏彦」
ご機嫌を伺おうと目線を合わせるが、また後ろへ顔を向けられてしまった。
「ふうん」