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「夏」 来年、此処デ待ツ  作者: 杉本 美由
8/12

第八話


 ボーーーーン。

 

 ボーーーーーン。

 

 鐘の音が祭りの終わりを告げた。

 それが境内を走り回っている子供たちにも伝わったのか、皆一斉に鳥居へ向かって歩き出す。賑わいの音が止み、足音のみ響く参道は、何度見ても異様な雰囲気だった。ぞろぞろと一直線に鳥居に向かう列を背景に、提灯の明かりだけが闇夜を照らしだす。

 『祭り』は『祀る』と、よく言ったものだ。毎年この頃になるとため息交じりに告げられる父の一言が、今になって現実となって露わになった。先ほどの賑わいは、皆の笑った顔は、ただ僕にしか見えていない幻想なのかもしれない。それでも伝統だからやらなければならないのだろう。

 

 先ほどの温かい空間と打って変わって、静寂を取り戻した境内に、ぽつりと残されたそんな気がして、背筋が寒くなった。呆然と立っていると、少女が鼠色の袴を掴んだ。袴から伝わる振動で手が震えているのがわかった。

 「大丈夫だよ」

 落ち着かせるように、頭に手を置く。それでも震えが止む気配がない。そりゃあそうだろう。大丈夫だと言われてもこの光景じゃ、奇妙の言葉以外出ないだろう。僕自身もそうだ。きっとこの少女が居なければ、去年と同じように震えていただろう。


 「うぉいっしょっ」

 少しだけの強がりをして見せる。少女の脇に手を入れて胴を持ち上げる。反動で細い足が小さい下駄を投げ飛ばした。

 「うえっ」

 膝の裏に腕を回し、抱きかかえる形に落ち着く。唸り声をあげたが終始少女は胸元にしがみついたままだった。そうやって誰もいなくなった参道を二人、とぼとぼと歩いていく。

 「お兄さん、力あったんだね」

 「どれだけひ弱に思ってたの」

 肩に顔を付けたまま話し出す。胸に当たる体温が、先程の子供たちとは違う、ちゃんと生きている人間だと再確認される。


 誰もいなくなった縁日。屋台と提灯の明かりで照らされて、鳥居までの道筋が一本のカーペットみたいに見えた。少女の顔色を窺えば、僕の腕の痺れをよそに僕の肩に顎を乗せて、後ろの風景に見とれているようだった。

 震えが止んだ体を抱え、ほっと一息ついた。

 「ねぇ。君の名前教えて」

 背中を軽く叩く。

 「沙織さおり

 つぶやくように返す。

 「沙織ちゃんかぁ。かわいいね」

 明後日の方へ向いていた目がギッとこちらを睨んだ。

 「こーゆうのは、そっちが先に言うんじゃないの」

 「あははは」

 右頬をぎゅっと引っ張られた。


 「夏彦です。咎松とがまつ 夏彦なつひこ

 ご機嫌を伺おうと目線を合わせるが、また後ろへ顔を向けられてしまった。

 「ふうん」


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