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「夏」 来年、此処デ待ツ  作者: 杉本 美由
7/12

第七話


 ささやかなおやつタイムを終わらせた後、再び参道に舞い戻る。始まってから数時間たったが、子供たちの様子に変化は見られない。ああでもなじんでいるのだろうか。射的屋に居座っていた坊主頭の男の子は、取り巻きの子らを連れて仲良く金魚すくいをしているようだ。これはいい変化。


 「あれやりたい」

 珍しく少女の方から言い出される。この子も場になじんできたのだろうか。少女の指し示す先に、白いひもが何本も束になっている、透明な箱が置かれていた。

 「千本釣りかぁ」

 射的屋と同じように、机の横には『ひとり1かいまで』と書かれていた。少女が一つ手を伸ばし、丸く曲がっていた紐を引っ張る。

 「ん」


 穴から楕円形の、白蛇のお面が顔を出した。それは蛇特有の鱗模様が薄く全体に、真っ赤な瞳が目についた、リアル感が押し出されている面だった。

 リアリティーがありながらも、ポップな感じでかわいいかも。

 対する少女は顔をしかめていた。

 「なに、これぇー」

 気持ち悪いと言い放ち、苦い顔をしながらテーブルに置いた。

 「ヘビのお面だね」

 「えー」

 「ヘビ嫌い?」

 薄目を開き、蛇面を睨む。賑やかな通りを後ろ背に、少女の唸り声に耳を澄ました。

 「かわいくない」

 そう言って再び、面に背を向けた。


 僕もやってみようか。

 腕を出し、端っこの少しよれていた紐を引っ張る。穴に引っかかるように、小さい何かが音を立てながら這い出てきた。

 「根付、かな」

 木を削って作られた、千鳥のストラップ。木目調がいい絵柄となって、可愛らしい鳥を引き立たせていた。端についている小さな鈴が周辺の物音と共鳴し、ささやかなメロディを作り出している。

 手に収まるほどのそれを見ていると、隣から恍惚とさせる視線が送られる。

 羨ましいと言ったところだろうか。

 「これ、もらってくれないかな」

 「いいの?」

 苦い顔が一転して明るくなる。少女の歓声に同調するように、千鳥につけられた小さな鈴が声を上げる。

 「僕がこれを持ってても、どうしようもないしね」

 少女が面と根付を交互に見やった。どうやらこの面は手元に置きたくないようだ。

 「あ、じゃあこれ」

 机に置いておいた面を手に取る。

 「これと交換ってことで」

 「いいよ」

 やわらかな声と共に伸ばされた腕は、年相応の幼心が垣間見えた。


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