第七話
ささやかなおやつタイムを終わらせた後、再び参道に舞い戻る。始まってから数時間たったが、子供たちの様子に変化は見られない。ああでもなじんでいるのだろうか。射的屋に居座っていた坊主頭の男の子は、取り巻きの子らを連れて仲良く金魚すくいをしているようだ。これはいい変化。
「あれやりたい」
珍しく少女の方から言い出される。この子も場になじんできたのだろうか。少女の指し示す先に、白いひもが何本も束になっている、透明な箱が置かれていた。
「千本釣りかぁ」
射的屋と同じように、机の横には『ひとり1かいまで』と書かれていた。少女が一つ手を伸ばし、丸く曲がっていた紐を引っ張る。
「ん」
穴から楕円形の、白蛇のお面が顔を出した。それは蛇特有の鱗模様が薄く全体に、真っ赤な瞳が目についた、リアル感が押し出されている面だった。
リアリティーがありながらも、ポップな感じでかわいいかも。
対する少女は顔をしかめていた。
「なに、これぇー」
気持ち悪いと言い放ち、苦い顔をしながらテーブルに置いた。
「ヘビのお面だね」
「えー」
「ヘビ嫌い?」
薄目を開き、蛇面を睨む。賑やかな通りを後ろ背に、少女の唸り声に耳を澄ました。
「かわいくない」
そう言って再び、面に背を向けた。
僕もやってみようか。
腕を出し、端っこの少しよれていた紐を引っ張る。穴に引っかかるように、小さい何かが音を立てながら這い出てきた。
「根付、かな」
木を削って作られた、千鳥のストラップ。木目調がいい絵柄となって、可愛らしい鳥を引き立たせていた。端についている小さな鈴が周辺の物音と共鳴し、ささやかなメロディを作り出している。
手に収まるほどのそれを見ていると、隣から恍惚とさせる視線が送られる。
羨ましいと言ったところだろうか。
「これ、もらってくれないかな」
「いいの?」
苦い顔が一転して明るくなる。少女の歓声に同調するように、千鳥につけられた小さな鈴が声を上げる。
「僕がこれを持ってても、どうしようもないしね」
少女が面と根付を交互に見やった。どうやらこの面は手元に置きたくないようだ。
「あ、じゃあこれ」
机に置いておいた面を手に取る。
「これと交換ってことで」
「いいよ」
やわらかな声と共に伸ばされた腕は、年相応の幼心が垣間見えた。