第六話
参道を歩いていると、横からお腹が鳴る音が聞こえた。それを横目でたどれば、少女がお腹をさすっていた。
「おなかすいた」
「うーん」
少女は先ほどまで屋台に見向きもしていなかったが、腹の音を皮切りに目線がそっちに行っていた。顔が上に向き、少女の瞳が屋台の明かりに照らされる。
僕もお腹がすいた。祭事前におにぎり食べたんだけどなぁ。
「あっ、ちょっとまって」
ふと思い出し、懐に手を入れる。
「ちょっとしかないんだけどね」
出したのは赤い袋のビスケット。何日か前に氏子さんからもらったものを、家から出るときにくすねてきたものだ。
少女はじっとそれを見、大きくため息を吐いた。
「ないよりはマシだと思ってさ」
幼さをかき消すように、少女の目元にしわができた。何度も見たそれは、不服感を前面に押し出している。つまるところ、マシなものじゃなかったみたいだ。
境内に少し移動し、石階段に座る。
「やきそばがよかった」
そうつぶやきながら小さな口はビスケットを齧る。ふくふくとした軟い頬がしっかりと咀嚼しているのを露わにする。
焼きそばね、それは同感。僕も焼きそば食べたい。だがこれは幻想。つかめるだけ、口にするだけで味も食感もない。去年串焼きを口に入れたが、ただただ無味無臭のなにかを噛んでいるようで、つまらなかったのを覚えている。
「うーん。おいしくないからかな」
あやふやな答え方をした。
食べたことで問題はないのだけれど、空気を食べるみたいになるからなぁ。この子はそうではないだろうけど、それで騒がれでもしたら場が混乱するだろうし。なんかいい答え方はないものか。
そうやって腕を組み、悶々と考えいると、チョンと、腕に何かが触れた。目を開けると、少女がビスケットの袋をこちらに差し出していた。それをよくみると、二枚入っていたビスケットの袋には一枚だけ残っている。
「元はお兄さんのだからさ」
俯きかけだった頭が上がる。きっと僕のあいまいな返答に気を使ったんだろう。僕が不甲斐ないばかりに。
「お構いなく。僕は後でごはん食べるから」
精一杯見栄を張らせた。しかし空しく、お腹の音が鳴る。
「まだ時間はあるんでしょ」
やや強めの口調ながらも、誰かを気遣える子なんだな。
強がりを諦めて少女の好意を受け取り、ビスケットを受け取った。