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「夏」 来年、此処デ待ツ  作者: 杉本 美由
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第五話


 少女の視線をたどると、黄色い服に目が行く。その子は真剣なまなざしで、腕に輪をかけていた。

 「わなげやりたいの?」

 小さな肩が大きく震えた。顔を見ようと腰を曲げると、すこし暗い表情を見せた。

 「あの子、最初に話しかけられたから」

 黄色い浴衣姿のツインテールの少女は一人黙々と輪を投げていた。気になって駆け付けてみると、ピンク色の漫画本に投げつけているのがわかった。


 もしかして。

 「あー最新刊だ」

 少女の手が止み、くるりとこちらへ向いた。

 「えっ知ってるの?」

 「読んでるからね」

 会話が進む。

 「ヒロインの子のプロポーズ断ってたよねー」

 「あれさー、何で断るんだよってなったよねー」

 ぱちりと瞳が開かれ、小さな体が飛び跳ねる。

 女子の会話に男子が混ざっていた。

 「ねぇ、さっき会ったよね」

 「う、うん」

 少女の目線がやや下がる。袴を掴み、僕の後ろに身を隠した。

 気恥ずかしいのかな。

 「二人は友達だったのかぁ」


 気に障ったのか少女は顔をしかめ、僕を睨みつけた。

 「ねぇ、『天の川のおうせ』ってマンガ読んだことある?」

 高く結われた髪束を揺らしながら、ピンク色浴衣の少女へ目を輝かせる。少女はちらりと景品棚を見、指を指しながら、ぶんぶん頷いている方へ言い放った。

 「少女マンガとか読まないから」

 少女はプイッと顔を逸らす。

 「えー」

 今どきの子は読まないのかな。

 ふとクラスメートの女子に借りた少女漫画の束を思い出す。ああ、明日返す約束をしてたっけか。


 くるりと、引っ付いていた少女の顔が上がる。

 「お兄さん、少女マンガ読んでるの?」

 「うん」

 答えると少女は途端に嫌そうな顔をして見せた。

 「ええーっ」

 「えーって」

 「お兄さんいい年じゃん」

 鼻で笑われる。

 見かねてか、ツインテールの子が話を遮るように前へ出た。

 「でも面白いよ」

 庇うかのように同意を求めてきた。

 「ねー」

 顔を見合わせ、互いの趣味に共感した。


 ほとんど二人だけの空間ができてしまったことで、輪に混ざれなかった少女が頬を膨らませた。

 ツインテールの少女が後ろで隠れているその子に、輪投げ用の輪を差し出した。

 「ほらあそこ」

 少女の指す方を見てみると、ひな壇の一番上に、ピンク色の単行本が置かれていた。

 「今からでもおそくないよっ」

 ツインテールの少女は、先ほどよりもテンションが上がった。

 布教活動のように少女は勧誘する。


 ああでも楽しそうだな。ちょっとやってみるか。

 ひざ丈ほどの台に束になって輪が置かれている。それをひとつかみ程手に取り、適当に輪を投げてみた。

 「全然当たっていないじゃん」

 ツインテールの子に捕まっていた少女が、呟くように笑って見せる。

 しかしこの後、人のことが言えないことを知ってしまう。



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