第四話
「ヨーヨーあるよ。ヨーヨー」
切り替わろうと乗り気じゃない少女の手を引いた。少女が怪訝そうな表情で訴える。
「よくもまぁ楽しそうに」
パイプ椅子の上に置いてある紙の箱から、釣りひもを取っていく。
「楽しまないと損だよ。ほら君も」
しゃがむと同時に小さな口はため息をこぼす。
紐の先が、うまい具合にゴム紐に引っかかった。それをゆっくりと水面から上げる。
屋台の明かりに照らされる赤いヨーヨーは、中の水に当たって。まるで手に収まる提灯のように見えた。
「やった、ほらっ」
楽しむ僕を横目で睨み、少女はつまらなさそうに針先をつついた。
「お兄さん、へんなかっこうだね」
「ああ、これは袴だよ。僕はこの神社の神職をしているからね」
理解できないと、少女の首が傾いた。屋台裏から木の枝を一つ拾い持つ。
「こんな字」
さらさらと棒を動かす。
『神職』
「神様ってこと?」
独特な解釈の仕方に、思わず吹き出してしまった。
「僕が神様にはなれないよ。神様の元で、お仕事をするってこと」
「ふうん」
つまらなさそうに少女は首をかしげる。興味なくなっちゃったかな。
「って言っても高校生だからね。土日とか学校終わりとかしか、できないけど」
「前にすれ違ったお姉さんは赤かったけど」
「もしかしてあの子かな。乙女剣宮神社の」
きーちゃんだなきっと。
少女は再度首をかしげる。
「わかんない」
「赤い袴は巫女さんだね」
隣に『巫女』と書く。
「巫女さんは神職じゃないんだ。神職の手助けをするのが仕事。でもちっちゃい神社とかは、神職の人が巫女の仕事をやったりするんだよ」
「ふうん」
聞かれてもないことを口に出す。
「僕のところも巫女さんいないから、僕が来てくれた人を案内したり、お守りを渡したりするんだよ」
面倒になったのか、少女の相槌がまばらになる。
「今日はここの管理が仕事。なんだけど・・・」
肩が急に重くなって膝を抱える。
「迷い子が出てしまったし、怒られるんだろうなぁ」
父さんに叱られるんだろうなぁ。あと何時間かで来るであろう今後の出来事を憂いた。
「なんでさ。私がはぐれたのは、お兄さんのせいじゃないじゃん」
俯いていた顔がゆっくりと上がる。
「うーん。そう、なんだけどね」
どういったらいいのか。