第二話
第二話
蛇神像の陰に誰かがしゃがんだ格好で頭を垂れていた。ピンク色の浴衣にお花の柄。肩にかかる癖のある髪が垂れ下がる。
輪に混ざれなかったのかな。
「君、どうしたの」
参道に膝をつき、膝を抱える少女まで頭を下げる。すると少女はひょっこりと顔を上げる。まつ毛の長いくりりとした瞳に、ふっくらとした頬が提灯の明かりに照らされた。
「まいごせんたーの人?」
「えっ」
随分としっかりした物言いに、屈んでいた足元が崩れる。
「迷子センターの人ではないかな」
かなって言っちゃった。疑問に疑問で返しちゃったなぁ。
「どうしたの、気分悪くなっちゃった?」
少女はすくっと立ち上がり、僕を見下ろす姿勢になった。
「ゆうかい?」
「えっ、ちが・・・」
僕が言葉を発すると同時に、少女は思いもよらない速さで鳥居の方へ走っていった。いきなりの事で体が固まり、しゃがんだまま呆然としてしまう。
やっちゃったなぁ。
「ううっ」
重い腰を上げ、姿勢を伸ばす。
外壁が波に揺れた。恐らく結界が反応したんだろう。
脈を目で追い、揺れの大元をたどる。ゆっくり、ゆっくりと指し示す方向に導かれ、鳥居に足が向いた。
目線を下にすると、ピンク色の浴衣が蠢いていた。
「なんっで、なんでっ、とおれないっ」
先ほどまで渦くなっていた少女だった。両手をばたつかせて、揺蕩う空間に足蹴りをする。
「あー、やっぱりかぁ」
小さな肩が大きく動く。くるりとこちらに顔が向けられる。
「ごめんね、結界を張っているから出られないんだよ」
片手を鳥居の中心部に伸ばし、ぶよぶよした空間を掴む。
「ちなみに僕も出られない。あはは」
先ほどにも増して、少女の肩が震えた。
多分生きている子だよね。体が透けていないし、この状況に溶け込めていない。生きている子が紛れ込むなんて、父さんに言ったらどうなるんだろう。
急に肩が重くなる。
「お祭りが終わるまで出られないや。ごめんね」
次第に少女は目元に涙をためた。両手は拳を作り、浴衣の裾を固く握りしめる。
膝を曲げ、今にも泣きだしそうなその子に目を向ける。
「ままぁっ」
「はぐれちゃったのかぁ」
先ほどまでの強気な態度が一変する。その様子に少し可笑しく思えた。
「ふふっ」
かわいいなぁもう。
「なんかわるい?」
「ふふっ、別に」
泣き張らしていた目元を拭い、少女は頬を膨れ上がらせた。そして肩を振るわせながら、鳥居の柱に向かって大きく腕を振り下ろす。
ミシッ。
嫌な音がした。
「あーこらこら」
少女の両脇に手を入れて持ち上げる。
「離せなよなよ」
「なよなよ⁉なよってないもん。ほら」
身軽になったのか、細い足が空中で暴れまわる。それを抱えながら円を描くように回し上げた。
だけど、それも長くはもたなかった。二週目に差し掛かったあたりで腕が下がる。
「はぁっ、はぁっ」
「なよなよじゃん」
暴れまわる少女が、祭事の準備で疲弊した体を容赦なくすり減らせた。重いからだが下に向き、口から空気が絶え間なく吐き出される。嫌にでも、自分の体力のなさを実感した。
これがきーちゃんだったら、無限にできただろうな。
少女は呆れたかのように、大きくため息をこぼした。
「まあ、祭りが終われば出られるから」
「えー」
信じられないといった面持ちだ。相当怪しまれているのだろうか。
膝に手を付けながら立ち上がる。
「ごめんだけど、しばらくは僕とお祭り回ろう。ねっ?」
「ねっ、ってそれしかないんでしょ」
「君しっかりしてるねぇー。今どきの子はみんなそうなのかな」
少女は眉を下げながら、またため息を落とした。