第3話_Plowの学園ルール
カロンを先頭にデネブ寮の集団は学園の中へと歩みを進めていく。
Plow学園の室内は”学校”というより"城”に近い構造になっていた。壁は石造りになっており屋敷内を照らす明かりは全てがロウソクだった。その発光量は室内を薄暗く感じさせ、石壁は気温を肌寒く感じさせた。ゲームの舞台は18世紀。絵本に出てきそうな城の中をアスカは一歩一歩、内観を確かめるように進んだ。
「アスカちゃんさ、さっきからずっと口が開きっぱなしだよ。」
突如、隣の生徒から声を掛けられその顔を確認するとそこにいたのは。
「レイ!」
いつの間にか隣にはレイの姿があった。
アスカはその姿を見るや否や寮服を受けとった時の謎の笑みや、ロイの腰を殴った事件を思い出しその途端、レイに対する怒りが腹の底から込み上げてくるのを感じた。その炎を口から吐き出そうしたその矢先、先手を打ったのはレイだった。
「意外だったよ、君がデネブ寮を選ぶなんて。アスカちゃんの心はベガ寮の一択だけだと思ってたからさまぁでも、この世界から脱出するには懸命な判断だったんじゃない?」
そういっているレイの顔はこの展開を楽しんでいるかような笑顔で明らかに嫌味を含んだその表情はアスカの炎をより大きなものへと増徴させた。
「違う!!!私はちゃんとベガ寮を選択したつもりだったの!なのに...なのに...」
「デネブ寮になっちゃったの!!!」
アスカの怒りは頂点を越え丘を下るように急速に悲しみへと変わっていった。そんなアスカが面白いのかレイはケタケタと笑い始めた。
「おっかしい、知ってたよ、君がベガ寮を希望していたことくらい。だけど君は今、デネブ寮に配属されてしまった。その意味が君に解るかい?この世界の"異様”が。」
レイが見せた真剣な眼差しはこの世界で初めに見せたそれと同じだった。
レイの言葉を探るようにアスカはこの世界で起きた不可思議点を頭の中で洗い出だす。確かに言われてみれば、ロイの登場シーンは明らかにゲームの本編と異なっていたし、ソーンが祝辞を読み上げる シーンに途中で他のキャラクターと会話をする下りはなかった。さらに極めつけは、アスカ自身が配属寮の決定権を 持っていないことだ。自分の身に起きたゲームの本編とは異なる展開に思考を巡らせているとレイが続けて口を開く。
「もう気が付いているかもしれないけど、この世界のストーリーは”迷路”によって構成されている。つまりこの世界のシナリオは”迷路”によって書き換えらているんだ。そして今後の展開を左右するのは君自身の行動だ。」
迷路によって作り変えられたシナリオ。
つまりゲーム本来の内容と全く異なる展開は アスカの予知するものではないことを意味していた。
「つまり、この先に起こる展開は私が知っているゲームの内容とは違うってこと?」
アスカの回答にレイは深く頷いた。
「その通り。この世界で築き上げる人間関係は君が思っているものとは全く違う。もっと言ってしまえば......まぁそれはいいや。とにかく、僕も含めこの世界の展開は誰にも分からないんだよ。"迷路”以外はね」
レイは途中で何かを言いかけて話をするのをやめてしまった。その内容が妙に気になったアスカはそれを確認しよう口を開くがそれを遮るようにカロンが大きな声で叫び出した。
「ここが食堂だ。」
アスカはレイと話し始めてからすっかり屋敷内を観察することなくここまで到着していた。
カロンの言葉に反応し目の前に広がった景色を見やると、そこには教会のように空高い天井と四方を囲む色とりどりステンドグラスが印象的な大食堂がそこにはあった。木製の長椅子と長テーブルは規律よく10列程配置されておりその長さは30メートルを超えている。そのテーブルの先にはステージのような空間があり、その背後を一面に覆うステンドグラスはまさに見る者の目を奪う美しさだった。口を開け食堂の内装にざわつく新入生をよそにカロンはずんずんと食堂の中心へと歩き進んだ。
「さっきロイ先生も言っていた通り、この食堂は朝の6時から夜の20時の間いつでも利用可能だ。食事を取るもよし、休憩をするもよし、まぁここは多目的スペースのような場所だ。学期末の表彰式もここでおこなわれるんだ。最初は利用しづらいと思うが気にせず有効活用してくれ。次はデネブの寮室へ行くぞ。」
そういうとステージの目の前まで行ったカロンは別の列へ入り食堂の出入口へ向かってUターンをしてデネブ寮の長蛇の列は食堂を後にしたのだった。
食堂を出て右手に10メートルほど歩くと正面玄関の大広間にやってきた。玄関から伸びた赤い絨毯は大きな階段へと続いており階段は右に2段、左に2段、計4つの階段に枝分かれしていた。大広間の天井は吹き抜けになっていて、下から上を見上げると差し込む光が眩しくてその全貌を確認することができなかったがパッと見ただけでも7、8階はあるように思えた。大広間の中心で吹き抜けに目を奪われている新入生に再びカロンが呼びかる。
「ここがPlow学園の正門だ。食堂を出て右手に10メートル。まずはこの場所を覚えるんだ。食堂や寮室への帰り方が分からなくなった場合は、この場所を目指してくるといい。そして俺たちの寮、デネブ寮は正面玄関から向かって左上の階段を昇れば到着する。いいか、左手2段目の4階へと続いている階段だ。間違えるなよ。」
そういうとカロンはくるりと在校生に背を向けてデネブ寮へ続く階段へと歩き始めた。その階段はまさに”お城の階段”という言葉がふさわしく今にもお姫様が下りてきそうなものだった。後ろの石壁には直径20メートルを超えるステンドグラスの円窓と彫刻されたPlow学園の校章が異彩を放っていた。アスカの目は巨大彫刻に捕らわれたまま寮へと続く階段を上っていくと前の生徒にぶつかった衝撃で列が動きを止めていたことに気が付いた。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててその生徒に謝罪をするとデネブ寮の一行は階段を上った先の廊下の行き止まりに集まっていた。なぜこんな廊下の途中で止まっているのか不思議に思っているとカロンはマントの下から魔法の杖を取り出し、行き止まりの壁に向かってその枝先を振りだした。
「アブレ ラ プエルタ」
その言葉を聞いたかのように行き止まりだった壁は消え、廊下の続きが現れたのだった。その光景を見た新入生はざわめき出すがそんなことなど気にもせずカロンはそのまま話し始めた。
「新入生は全員杖を持っているだろう?まず杖がないとこの隠し扉は開かないからな。まさかとは思うが、杖を持っていない奴はいないよな?」
その声を聞いた新入生は一斉に自分の杖を取り出した。だがしかし、アスカは魔法の杖を購入した記憶など一切ない。胸の鼓動が急に高鳴りだし嫌な汗が身体を湿らせていく。徐々に青ざめていくアスカを横目に 涼しげなレイがアスカの腰を指さした。
「そこ。」
アスカは指摘されたあたりを手で探ると装備した覚えのない杖が腰の杖指しベルトにしまわれていた。しかも、その杖はなんと。
「ロイ先生の杖!」
あまりの大きな声に周囲の生徒は一斉にアスカの方を向きその異様さにカロンも気が付いた。
「なんだ、どうした?」
まさか、まさかのロイの杖の登場に驚きを隠せなかったアスカだが、周囲の生徒からすれば ただ杖を持っていたに過ぎない。
「あぁ、何でもないです!杖は持っています!」
アスカがそう返すとカロンは少し不思議そうな顔をしたものの何事もなかったように話を続けた。
「よしっ、新入生は全員杖を持っているようだな。見ての通り、ここがデネブ寮へと続く隠し扉だ。この扉を開くことができるのはデネブの寮生のみだ。先ほどソーンも言っていたが俺たちは真実の泉と契約の下、このデネブ寮に所属している。その権利を持っていない者は魔法の呪文を唱えたとしてもこの隠し扉を開けることはできないんだ。そしてこの隠し扉こそ唯一デネブ寮へ続く入口となっている。一見ただの行き止まりだがこの場所を 覚えておくように。
「では、これから念のため新入生は1人づつ隠し扉を開けることができるかテストするぞ扉を開けることができた者から寮の中へ入っていけ。では、お前からだ。」
カロンの一声で次々と新入生は隠し扉に呪文を唱え扉の奥へと姿を消していく。その順番が着々とアスカに近づいきた。
「次だ。」
その声に促されるままアスカはロイの杖を隠し扉目掛けて勢いよく振ったのだ。
「アブ、アブ、アブレ ラ プエルタ!!!」
テンポよく開閉を繰り返していたその扉はうんともすんとも、一切の反応を示さなかった。気まずい空気が流れる中、カロンの呆れた声がアスカの背後から飛んできた。
「おい、恥を捨てろ、どもるな。呪文ははっきりと正確に唱えなければその効果を発揮しない。はっきりと、正確に。もう一度だ」
22年の生涯で魔法の杖を片手に呪文を唱えたことなど生まれてこの方一度もない。だがしかし、豪には豪に、設定には設定に従わなければならないのだとアスカは悟る。実年齢など関係ない。この世界では16歳の魔法少女なのだ。心に宿った羞恥心を払いのけ再び枝先を壁に向かって振り出した。
「アブレ ラ プエルタ!!」
すると行き止まりだった壁は消え、寮部屋へと続く道が現れた。
「やればできるじゃないか。さあ、中へ入れ。」
そう促され寮へと続く廊下を進むとアスカの目の前には談話室が現れた。
入口の斜め前には暖炉があり、その向かい側にはボンボン時計が振り子を揺らしていた。部屋の四隅には大きめの1人かけソファーが4つ無造作に置かれていてその光景はグリム童話に出てきそうなファンシーなものだった。部屋の景色をゆっくりとした眼球の動きで180度見渡していると寮の入口からカロンが入ってきた。
「全員、デネブ寮の扉を開くことに成功したな。」
「改めて、ようこそ新入生、ここがデネブの寮室だ。これからの学園生活はここを基盤に活動することになる。個人部屋は広くないが1人部屋だ。まず部屋を案内する前に寮生活のルールを説明しておく。Plow学園の寮生活では3人1組のスリーマンセルを組み、生活指導は班単位で管理をしている。メンバーは各学年1人づつから構成される。3年生には昨日、自分と同じ班になる2年生、1年生の名簿を渡しておいた。1年生は個人部屋の位置やそのほかの細かい校内ルールは担当班のメンバーに聞いてくれ。それではここで解散だ。」
そういい終わると3年生は次々と自分の班の生徒を呼び出し始めた。徐々にボリュームを上げる雑踏の中、アスカは自分の名前を呼ぶ声に耳を澄ました。
「香山アスカ、いるか?」
誰かがアスカの名前を呼んだ。その声に反応し声の主を見やるとそこにはカロンがいた。アスカの視線に気付いていないカロンはキョロキョロと周囲を探している。そこへ小走りで駆け寄って行った。
「はい、私が香山アスカです。」
「あぁ、お前はさっきの奴じゃないか、俺はカロン = イーストだよろしくな。あとは...」
「レイ=エドワードはいるか?」
カロンが呼んだ2年生、それは紛れもなくレイだった。
談話室の人混みからひょいと現れたレイを確認するとカロンは一度談話室の外に出るように促した。
「まずはアスカに個人部屋を案内してやりたいところだが、今は激しく込み合っている。個人部屋の案内は最後だ。まずは校内を一通り説明してやるから着いて来い。レイ、お前は付き添いだ。」
3人で屋敷内を探検する気満々のカロンにレイが意外な一言を発した。
「カロン先輩は寮長で今日は新学期初日だ。事務仕事がたくさん溜まっているんじゃないですか?校内の案内は僕一人でも十分ですよ。」
思いがけないレイの言葉に返答を迷うカロンだったがレイはさらに後押しを続けた。
「大丈夫ですよ、2時間もあれば屋敷内は回れるしその後に3人でランチを取るのはどうですか?」
できることならばレイの誘いにYESと答えたいのだろうが、アスカの手前それをためらうカロンは ちらりとアスカの様子を伺った。カロンの瞳からアスカはその本心を察する。校内見学はガイドが1人いれば十分だ。
「私はレイがいれば大丈夫です。」
2人の後押しを受けたカロンは申し訳なさそうな顔をしながらも素直にその勧めに従ったのだ。
「そうか...すまないな。おい、アスカ、お前をないがしろにしている訳ではないぞ。」
意外なカロンの回答にアスカは思わず笑ってしまった。
「わかっています。大丈夫です。」
「ではレイ、頼んだぞ。アスカ、後ほど食堂で会おう。」
その言葉にアスカが大きく頷くとそれに応えるかのようにカロンは小さく頷いた。そしてカロンは寮の出口へ姿を消していきその後ろ姿をなんとなく見送っているとレイが話をし始めた。
「じゃぁ、僕は寮服に着替えてから行くからさっきの噴水の前に集合ね」
「え?」
「君が寮服に着替えたいのなら僕の部屋に案内するけど...男子部屋だし嫌でしょ?荷物だけ預かっておいてあげるよ。ほら、貸して」
一方的にそう言い終えたレイはアスカの手から寮服を受取り人混みの中へと消えてしまった。
スリーマンセルと言われた直後、1人行動を余儀なくされたのはこの学園でもアスカただ一人に違いない。 突然の一人行動に得も言われぬ思いが胸に灯ったが愚痴をこぼす相手もいないアスカはひっそりと寮室を後にしたのだった。寮を出て廊下にやってくると校内は屋敷見学をしている新入生の班でごった返しておりその賑わいは学園際を思わせる雰囲気だった。
「うわぁ...めっちゃ人いるやん」
その雑踏は屋敷内を早く探検したいというアスカの好奇心を刺激した。高まる気持ちを抑えつつ正面玄関へ続く階段を下ってそれを左手に曲がり少し歩くと先ほどの食堂が見えてきた。
開きっぱなしになっている扉から中の様子をチラリと覗くと食堂内には既に食事を取っている学生や、上級生から食堂の説明を受けている班で賑わっていた。魔法学園で出される学食とはどのようなものなのだろうか、空腹で今にも鳴き出しそうな腹をさすりながらアスカは 食堂を後にした。廊下を直進し続けると外に繋がる中庭が徐々に見えてきた。
その場所はつい先程まで組み分け式が行われていたとは思えない程、のどかな静寂に包まれていた。生徒たちは屋敷内の見学に集中していて中庭を散策している者などいなかったからだ。中庭から見える屋敷の外観はまさにお城そのものでその圧巻のたたずまいに太陽の眩しさも忘れアスカはどこまでも続く城壁を見上げた。視線を横にスライドすると太陽の直射日光が視界のすべてを支配して急激な鼻のムズムズに襲われた。中庭に人が居ないこと良いことにアスカはダイナミックなくしゃみを発射した。
「ハックション!!」
「ふふっ、大きなくしゃみですね。」
聞き覚えのある声にアスカの身体はビクリと跳ね上がった。 恐る恐る背後を確認すると先程まで誰も居なかったはずの庭にロイの姿があったのだ。
「ロイ先生ぇぇえ!!」
「あぁ、あなたは先ほどの。こんなところに1人で、どうしたんですか?」
またもやロイに醜態をさらしてしまった自分を恨みながらも赤面する顔を必死に抑えロイとの会話に集中する。
「今、先輩が学服から寮服に着替えていて、それをここで待っているんです。」
「そうですか、あなたを待たせているその先輩は誰ですか?」
「レイです。」
そういうとロイは軽く右手を顎にあて少し悩むポーズをとったもののすぐにその名前を思い出す。
「あぁ、レイ=エドワード君ですね。というは、あなたはデネブ寮になったのですね」
「はい、本当はベガ寮が良かったのですが...」
ついつい漏れてしまったアスカの本音をロイは不思議そうな顔で確かめる。
「ベガ寮がよかったんですか?何かベガに魅力がありましたか?」
そう質問するロイは純粋そのものだったが、不純なアスカの本心など口が裂けても言うことができなかった。
「ほ、ほら、ソーン会長が所属している寮なんて、なんだか興味があるじゃないですか!」
自分の本心を隠しつつ、なんとなくそれらしい回答を返すと納得したロイは小さく頷いた。
「確かに、彼はとても優秀な生徒です。大人の私も彼の言動には関心してしまいますから」
「希望が通らなかったのは残念ですが、デネブ寮も素晴らしいですよ。」
「何せデネブ寮の監督主は私なのですから。」
「......っえ!?」
あまりの衝撃発言にアスカはロイの顔を2度も見返してしまった。ゲームの本編ではロイはベガ寮の監督主なのだがこの世界ではデネブ寮の監督主なのだという。まさかの事実にアスカはもう一度真相を探るように質問を投げかけた。
「ロイ先生は......デネブ寮の監督主なんですか?」
「えぇ、そうですよ。」
「今年度からですか?」
「え?...いや、私はこの学園に赴任してきてからずっとデネブ寮を担当しています。」
「なんと!!!!!」
「何かおかしいですか?」
この世界の悲劇が大きな転機へ変わった瞬間だった。この世界の支配権は真実の泉が握っている。
アスカは泉に羽を入水させるとき頭の中で思い浮かべたのはベガ寮というよりロイだった。その事実をつなぎ合わせると自分がなぜデネブ寮に配属になったのかが理解できた。そう、ここはあくまでゲームの世界。プレイヤーの意志を無視することなどできるはずがないのだ。信じられない事実にアスカはあふれ出す幸せを抑えることができなかった。
「よくわかりませんが、なんだか嬉しそうですね。」
「はいっ!とっても幸せです!」
この会話はロイにとって不可解なものだったに違いなかったが、今のアスカはそんなことなどお構いなしだった。 すると2人きりの庭にもう一人の人物が現れた。
「おまたせ。」
その言葉でロイとアスカが後ろを振り向くとそこにはデネブの寮服を身にまとったレイが立っていた。
白を基調としたベストセーターの胸元にはデネブ寮のトレードロゴである白鳥の刺繍が施されており、ズボンはデネブのトレードカラーである緑を基調としたガムチェックのものだった。その姿はまさに学生。だがしかし、アスカはどことなく魔法学園の制服に違和感を感じた。レイはマントを羽織っていなかったのだ。
「あれ?マントはつけなくていいの?」
そういったアスカの質問に答えたのはロイだった。
「ええ、マントは正装を求められる時のみ着用すれば良いのです。基本的には任意着用なんです。」
「へえ、そうだったんですね。」
だから先ほどソーンはマントを着用していたのか、と自分の中で納得しているとロイが校内に向かって歩き始めた。
「レイ君も到着しましたし、私はこれで。」
3度目となるロイとの別れ、何度見ても彼の後ろ姿はアスカをもの悲しい気持ちにさせた。
校舎の暗い廊下へ徐々に消えていくロイの姿をじっと見つめるアスカに対し、蚊帳の外からレイがアスカを呼びつける。
「ねぇ、アスカちゃん、そろそろ行こう」
その声で我に返ったアスカはもの凄い勢いでレイのそばへと駆け寄った。
「ロイ先生はデネブの先生だったんだよ!」
「はぁ?」
「ロイ先生はデネブの先生だったんだよ!!!!!!」
あまりの興奮で日本語が上手く喋れていないことを自分でもわかったが、それでもレイにその内容は伝わった ようでまたもや謎の含み笑いの顔をした。
「そうだよ、知らなかったの?」
「えっ......」
「僕は知っていたよ、ロイ先生がデネブ寮の監督主だって。」
「え!?なんで教えてくれなかったの!」
「人生に起こるハプニングは自分で解決するから楽しいんじゃないか」
「あらかじめすべての事実を把握している人生なんて詰まらないでしょ?」
またもやレイの口からこぼれた意味深な言葉。その言葉はこれから起こるこの世界の展開をすべて知っているかのように思わせる。レイは一体何者なのか。そんな暗鬼な心がアスカへ灯る。
「さぁ、学園内を案内するよ。ようこそ迷路が作りしPlow学園の世界へ」
そういってレイはアスカに左手を差し伸べた。その瞬間、アスカはレイがものすごく遠くにいる存在のような気がした。レイはゲームの世界の案内人だった、しかし、この世界での彼の役割は何なのだろう。
そんな気持ちを抱えつつアスカはレイの手を取ったのだった。