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放課後の教室。出会い

 西日に赤く照らされた、放課後の教室。


 その窓際の席に、ひとりの女生徒がぽつんと座っていた。


 まるで西洋人形のように、煌びやかな金色の髪と白く透き通った肌をもつ、幻想的なまでに美しい少女だ。


 彼女の名前は『西澄(にしずみ)アリス』。


 日本人の父とフランス人の母をもつハーフで、類稀なるその容姿から男子たちの目を引いてやまない美少女である。


「……ぐすっ」


 彼女が、小さく鼻をすすった。


 なにかを堪えるように窓の外を眺めていた美少女は、こぼれ落ちそうになった涙を指先で拭ってから、緩慢な動作でカバンを手に取った。


 アリスは酷く落ち込んでいた。


「……ふぅ」


 ため息をついてから、のろのろと席を立つ。


「帰ろう……」


 消え入りそうな掠れ声で呟いてから、彼女は出口に向かって一歩足を踏み出した。


 そのとき――


 ◇


「……西澄ぃ!

 西澄アリスってやつ、いるかぁ?」


 ガラガラッと大きな音を立てて、教室のドアが開かれた。


 大声で彼女の名前を呼びながら部屋に入って来たのは、アリスにとって見覚えのない男子生徒だった。


 男子はアリスの姿を見つけたかと思うと、美しさに目を奪われたように、はっと驚く。


 だが彼はすぐに思い直したように頭を振った。


 こほんと咳払いをしてから、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ、真剣な顔で尋ねる。


「……なんだ、お前。

 泣いてんのか?」


「……泣いてません」


「でもお前……。

 目が真っ赤じゃねぇか」


「……夕陽のせいです」


「いやそれは無理があるだろ。

 って、さっき廊下で妙にスッキリした感じのイケ好かない男子とすれ違ったけど、あの野郎になんかされたのか?」


 アリスは応えない。


「……ちっ。

 ちょっと待ってろ!

 さっきの野郎、取っ捕まえて――」


 言いながら男子が踵を返す。


 だがそれをアリスが制した。


「……待ってください。

 本当に、なんでもありませんから」


 呼び止められて振り返った男子は、もう一度アリスの顔をみて今度は別の意味で驚いた。


「お、お前……」


 アリスはもう目の赤さが引いていた。


 それどころかさっきまで泣いていた彼女は、いまは死人みたいな無表情である。


 不気味さを感じた男子は、どんな態度を取ればいいのかわからなくなって、その場に立ち尽くした。


「……それより、あなた。

 わたしの名前を、呼んでいましたけど、なんの用ですか?」


「あ……。

 お、おお!

 そうだ、そうだ」


 固まっていた男子が、金縛りが解けたように動き出し、忙しない仕草でズボンの後ろポケットを(まさぐ)りながら、財布を取り出した。


 それを見て、アリスの目がほんのわずかにすっと細まる。


 だがその変化は、あくまで目の前の男子に悟らせない程度の小さなものだ。


「噂を聞いたんだよ!

 たしかお前、500円払えばなんでも言うこと聞いてくれるんだってな?」


 アリスは返事をしない。


「ほら、500円!

 いままでだって、色んなやつのお願い聞いてきたんだろ?

 なら、俺も頼むよ!」


 男子は彼女の手をとって、無理やり500円硬貨を握らせた。


 アリスの表情が、今度こそはっきりと歪んだ。



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