マッハ、酒場に行く
楽しかった。
なんか、久しぶりに過疎化する前のような楽しみ方ができた。
以前は、毎日こんな感じだったなぁ。
……でも、サービス終了しちゃったんだよな、本当は。
きっと、あまりの寂しさに見てる夢なんだろうな。
そんな風に思うけど、微妙にゲームの世界と違うところもあった。
日が暮れている。
FBWの世界ではいつも昼で、日が暮れるということがなかった。
ここは普通に日が暮れている。
半裸PTの魔法士たちも、今日は店じまいだってことで、街へ帰っていった。
……。
俺も、宿にでも泊まろう。
これで、このロスタイムともお別れかも知れないな。
完了報告を終え、どことなくもの悲しくなりながら、とぼとぼと向かいの宿屋に向かう。
もう冒険、終わっちゃうのかな。
ふぅ。
……。
ちょっと、酒場にでも行こうか。
俺は踵を返し、ギルドに併設された酒場に向かった。
酒場に入り、向かって左奥、2人掛けのテーブルに、店内が良く見えるように座る。
ゲームの中そのものな風景。
こんなのも、これで見納めかも知れないと思うと、ついつい目に焼き付けたくなる。
カウンターの傍に座った楽師が、リュートを弾き鳴らしながら歌っている。
砂漠にある大迷宮で、王の秘宝を手に入れた英雄たちの歌だ。
「千年の眠りより解き放たれた、古代の王族たち。冒険者たちは、彼らの眠りを妨げ、その怒りに触れてしまったのだ。
千年分の呪いが降りかかり、成す術もなく眠りに落ちる冒険者たち。目覚めたその時、ある者はミイラの包帯に巻き取られ、またある者は壁の隙間という隙間から現れ出でた甲虫に連れ去られていた。
王の呪いを避ける方法はただひとつ。大迷宮の王の間に至る、迷路の奥のそのまた奥。隠された玄室に眠る一体のミイラは、かつての王の愛人か。
その胸に輝くタリスマンは、ありとあらゆる呪いより、たった1度、その身を守るという。
互いに眠らぬ者同士、3つの夜と昼を越え、相争う。
残りしものは躯なり。秘宝とともに眠るなり。
残りしものは躯なり」
歌は、ちょうど最後のボス戦のシーンを歌っていた。
そうそう。
玄室のタリスマンを手に入れてないと、開幕で全員眠らされるからな。
この呪いばかりは、抵抗値を上げていても必ずかかるから、素直にタリスマンを取ってからボスに挑むべきだ。
砂漠の大迷宮で手に入れたものは、外に出ると全て砂と化してしまうが、大迷宮突破の報酬として、高級素材がもらえる。
楽師は、一休みして、今度は別の迷宮の歌を奏で始めた。
酒場はそれなりに賑わっている。
デカいジョッキになみなみとエールを注ぎ、楽しそうに飲み交わしているヤツもいれば、端っこでチビチビとグラスを嘗めている猫人もいる。
夕飯時だからか、チャーハンを食べている客が多いな。俺もチャーハンにするか。
「お~い! 注文頼むぜ!」
「あいよぉ」
俺の呼び掛けに応え、するするとテーブルの合間をぬって、ウェイトレスがやってきた。
ついでに空いたジョッキを回収したり、おっさん冒険者のセクハラハンドをかわしている。
こいつできる。
「海鮮チャーハンとパインジュース」
「あいよぉ。海鮮1丁パイン1丁」
注文を取るや否やウェイトレスはすいすいと厨房まで戻っていく。素早い。
「ボクちゃん、お酒は飲めましぇんか~? パインジュースでしゅか~? ママのおっパインジュースの方が良くないでしゅか~?」
よっぱらいだ。
感傷に浸って、ちょっとマッハらしくない振舞いだったかもな。
ここはいっちょ、暴れたるか。
「うるせえ! やるかコラ!」
「なんだとコラ! やるぞコラ!」
「よ~~し! 後悔させてやっからな!」
「あや~~、お客さん、お店こわしたら弁償ものよ」
ウェイトレスが心配して寄ってきた。丁度いい。
「おい! 海鮮チャーハン大盛り3人前!」
「あいよぉ?」
「なっ……正気かてめえコラ!」
「おうともよ! まさか逃げるわけねえよな?」
「誰にも腰抜けなんていわせないぞコラ! 大盛り4人前だコラ!」
「あいよぉ! お残しは許しまへんでぇ?」
よっぱらいは、俺の向かいにどっかりと座って、臨戦態勢だ。
さあ、明けない夜の始まりだ!