マッハの中の人、反乱軍について考察する
ひげもじゃたちと山頂で別れ、街に帰ってきた。
ギルドに入って完了報告をしながら、次のクエストを検討する。
ダンジョンに潜るのは早計だから、短時間で終わるやつがいい。なんかないかな……。
お。反乱軍か。
もうそんな時間か。これにするかな。
俺は反乱軍討伐クエストを受注して、アイテム倉庫に向かった。
アイテム倉庫の中身も無事だな。
この辺の整理は、そうだな、この夢が続くようなら、腰を据えて考えないといけないが、今は戦闘や冒険を楽しもうじゃないか。
MMORPGをやってきたと思ったら、VR化しちゃったんだから、楽しまないと損だ。
反乱軍討伐クエストは、デイリークエストの1種だ。
1日に3回まで受注でき、完了すれば、上級職へ転職する際に必要な勲章を集めることができる。
このクエストは、昼から夜にかけて、8時間しか発生せず、時間が過ぎると反乱軍は消滅する。
出る場所も、3箇所と決まっている。
8時間の定時勤務。残業なし。転勤なし。
倒しても倒しても湧いて出てくる。
いったい何に反乱しているのか。
何を為そうというのか。
全てが謎の反乱軍である。
俺は彼らに対してどうすれば良いのか。
もちろん、黙って討伐するだけだ。
何も考えず。作業のように。日々3回。
それでいいのか俺。
それでいいのか反乱軍。
それでいいのかこの国。
余談だが、時間、場所固定のクエストだから、混雑時には、予約制になっていた。
定型文は、こんな感じ。
「13時からの反乱PT募集します@4。魔職以外。島にて」
基本は、3回倒すまでのセットだ。4名募集。
ただし魔法職は相性が悪いから冷遇されている。
島にて、というのは、どこの反乱軍を鎮圧するのか、を表している。
フルメンバーで挑むことを推奨されている。
何故なら、時間がかかると、他のPTがその分挑めないからだ。
自治ルールだから、プレイヤーが守るべき強制力はない。
初心者がソロで挑んで時間を喰った挙句に返り討ちに遭ったり、横入りしたりといったことで定期的に諍いが起こるが、ゲームのシステム上、早い者勝ちだし、自治ルールに従う必要性はない。
では俺は自治ルールガン無視していたかというと、普通に守っていた。
というか、混まない時間帯で適当に済ませていた。
ここで争っても、面倒事が増えるだけだ。
別のところで組む機会があるかも知れないのに、わざわざ敵を作ることもない。
かといって、自治ルールを教えたり、といった動きをするでもない。
ゲームシステム上できることを制限するのは、ゲーマーとしては不適切だと思っているからな。
殺伐とした奪い合いも、楽しめる分にはいいと思う。
この辺は不特定多数がログインしてるゲームでは、解決しづらい命題だろうな。
競争を楽しめる人もいれば、思う通りに行かなくて嫌な思いをするやつもいる。
全部、やりたいようにできたら、さぞ楽しいだろうと思ったこともあった。
ただ、ね。
過疎を経験した身からすると、いくら狩り放題になっても、他の人がいないんじゃ、寂しい気持ちになっていくだけだ。
ガチ勢だって、後方にワイワイやってる人たちや、負けてる人がいて、優越感に浸ったり、自慢したり、楽しめる面もあるわけで、思いやりや自治ルールを押し付けても、なんもいいことはない。
競争と、譲り合い。
住み分けできたら、ストレスフリーだけどな。
ま、ちょっとしたスパイスで、衝突があるくらいなら、刺激があっていい。
恐いのは、そういう衝突がリアルに影響を及ぼすケースだ。
住所バレしたり、RMTや、海外で殺傷事件に発展したケースも、記憶に新しい。
金や時間をつぎ込むからこそ、そういった、純粋に楽しむのとは方向性の違った展開が起きてしまうのだ。
おっと、やめよう、やめよう。
こんなことばっかり考えていたら、せっかくのVRMMOが楽しめない。
ここはひとつ、何も考えず、ただ殺そう。
それでいいのか?
それでいいのだ。