プロローグ 転移の夜
初投稿です。
リアルが落ち着いて、書き溜めてから。
……なんて思っていたらなかなか始められず、はや半年。
この際、思い切って投稿を始めてみます。
今はもうサービス終了してしまった、
あのブラゲに愛をこめて。
血と汗と涙を流し、週1投稿を目指します。
どうぞよろしくお願いします。
その日。
平日の午後3時。
多くの人にとっては、なんでもない日。
でも、彼にとっては特別な日。
彼女とのデート記念日とか、家族の誕生日とか、尊敬してた恩師の命日だとか、そんなんじゃない。
そんなんじゃないけど、特別な日だ。
FBWの、サービス終了の日、なのだ。
FBWとは、MMORPG、『ファンタジーブラゲワールド』の略だ。
アイテム課金型のオンラインゲームで、俺はサービス開始から遊んでいたから、かれこれ5年の付き合いになる。
その5年の間に引っ越しを2回したし、仕事も2回変わった。5年もの間、変わらずにやり続けたのは、FBWくらいのものだ。
あ、いや、一度キャラ削除してサーバーも変えたから、変わらずというわけでもないか。まぁ、最初のは黒歴史というか、お試し期間と考えて、ノーカン、ノーカン。
ともかく、俺とFBWは、それほどの付き合いになるのだ。
しかし、それも今日で終わる。終わってしまうのだ。
サービス終了の経緯は、ごくありきたりのものだ。
サービス開始から5年。レベルキャップや新スキル、新ダンジョンの開放、新たな強化法やらなんやら、時間固定イベントに、課金専用装備、ペットと、コンテンツがどんどん飽和していき、イベントボスはハイパー上級者向けとなり、PVP真っ盛り、初心者キラーも登場し、運営が機能せずプレイヤーによる自治、謎ルール(オレさまルール)の横行、などなど、もうありきたりなオンラインゲームの展開をフルセットでたくさんたくさん経過して、新規参入する初心者がほとんどいなくなって、たまに初心者がきたかと思ったらだれかのサブキャラで、過疎化が進む。そこから加速度的に、運営による資金回収用のバランス崩壊課金アイテムの乱発、大安売りがはじまって、あっという間にサービス終了決定。
似たようなシステムで、新しいゲームを開発したから、そっちに乗り換えてください。
はい、終了~~~~~~!
ってなもんだ。
事実、もう乗り換え始めた人ばっかりで、同じギルドの人や、固定野良を組んでいたフレンドも、ほとんど移行してしまっていた。
でも、俺はそういう気分になれなかった。
FBWに愛着もあったし、無課金プレイを極めて立たせたプレイヤーキャラクターや、そのペットとも離れがたかったのだ。
そういうわけで、俺は、数少なくなってしまったゲーム内の友人たちとの別れを惜しんでいた。
6人分。
オンラインゲームには、色んな楽しみ方がある。
効率を最重要視し、攻略や成長、一番手を目指すガチ勢。
別名効率厨。
リアル事情などをのほほんとおしゃべりするのが主眼ともいえる、チャット勢。
俺のプレイスタイルは、「無課金ロールプレイ」にあたる。
課金をしない中で、最大限楽しむ、というコンセプトだ。
課金専用のアイテムは、自分で買うことはできない。リアルマネートレードもしない。
だが、方法はある。
ゲーム内通貨を、ゲーム内の手段で稼ぐのだ。
ゲーム内のオークションに出品したり、直接他のプレイヤーと交渉して、課金アイテムとゲーム内で入手可能なレアアイテムとを交換する。
そうやって商売すれば、不可能ではないのだ。
結局カネの代わりに、レアアイテムを手に入れるために費やす労力や時間を必要とするわけだが、
そんなことは問題じゃない。
それがゲーマーとしての誇りなのだ。
効率とは違うところに、美学があるのだ!
……無課金について熱くなりすぎてしまった。
もちろん、課金者がいて成り立つゲームなのだが、こういったゲームはにぎやかす人数も大事なんだ。だから俺は誇ってプレイしている。
特に俺が誇っているのはロールプレイだ。
俺は、徹底したロールプレイを心掛けていた。
FBWで作成したプレイヤーキャラクターは、全部で6人いる。
各IDごとに3キャラクター作成したから、同時に操作できるのは2人までだが、そのどのキャラも、自分でいうのもなんだが、キャラが立っている。
ゲームの全盛期には、某掲示板で俺のキャラクターに対するうわさ話、例えば、「ぶれない」「さすがです」「ウザい系かと思ったら、中身は割と常識人」「最初は礼儀知らずと思ってたけど、そういう口調キャラなんだな」こういった書き込みを見ては、ニヤニヤしていたものだ。
当然、口調は崩れない。
キャラ変更をしても、間違えたりしない。
1度でもそれをやると、台無しになってしまうからだ。
俺は、それぞれのキャラを独立して運用していたから、全員が別々のクランに所属していた。
だから、あるキャラクターのクラン内チャットで、俺の別キャラクターに関するうわさ話を聞くことなんかも頻繁にあった。
思わず、「実はそれも、私なんですよ。俺なんだぜ」みたいに、名乗り出てしまおうかとしたこともあったが、それは一度やってしまったら、取り戻せない。今の今まで打ち明けることなく、サービス終了の日を迎えてしまった。
もうサービスは終了するのだし、全部のキャラが同一人物だと、全茶で告げてもいいのだが……。
俺は、淡々と、それぞれのキャラとして、普通に別れの挨拶を告げて、ログアウトした。
パソコンも切り、しばらくぼーっとしていた。
気が付くと、すっかり日も暮れていた。
「もう終わっちゃったのか……。むなしいな……。
まだ熟練度もカンストしてなかったのに……。もっと遊びたかったなあ」
ぽつりと、そんなことを呟く。
もちろん、誰もその呟きに応えるものはいない。
「寝よう……」
何をやる気も起きないまま、俺は部屋の電気を消し、就寝した。
俺の呟きに応えるものはいなかったが、聞き届けたものがいたことを知るのは、まだ少し先のことになる。