零章 回想(4)
俺たちは校舎に入り、カプセルに乗って教室の前まで移動した。
人の気配がない、静かな教室。
「すみません、遅れました」
全く心のこもっていない謝罪と共に教室へ入る。教室は無言のままだった。
この学校では教師は基本的に落ちこぼれなどには気を配らない。落ちこぼれるのは本人に能力が無いのと、努力をしないのが原因であり、そんな怠け者に取り合うなど時間の無駄…そう教育されている。その方が効率が良いから。だがたまに、前時代的な考え方を持つ教師もいる。先ほどの学年主任など、その典型だ。
しかしまあ、あんなタイプは本当に一握りなので、気にすることはない。
画一的な教師らから画一的な考え方を刷り込まれたクラスメイト達は俺と を侮蔑の混じった冷めた目で一瞥し、前へ向き直った。
「あ〜あ、 のせいでまた遅刻じゃない。勘弁してよね、私まで巻き込まれるの、迷惑なんだから。」
勘弁しても何も、そっちが勝手に待っているだけだと思うのだが、そう言うとまたキレそうなので黙っていた。
自分の席へ座ろうとした時、自分の端末にメッセージが入っていることに気付いた。差出人は不明、件名は無かった。
今さら授業を真面目に聞く気など起きていなかったので、迷わず開いた。
メッセージには一言、“人類は間もなく死に絶える。”と書かれていた。
「へぇ…。」
面白いな、それ。と横から突然声をかけられた。
咄嗟にそちらを振り向くと、見たことのない生徒が座っていた。すっきりとした中性的な顔立ちの生徒。茶色がかった髪を後ろでポニーテールにくくっている。ぱっと見は男子生徒に見えないこともないが、女子の制服を着用していることで女子だとはっきり分かった。
その席はてっきり空席だとばかり思っていたのだが…。
いや、壁だったと思うのだが…。
「おやおや、私は最初からこのクラスに在籍していたよ?」
しれっとした顔で俺の疑問にそいつは答えた。そして、教室を見回しながら言った。
「ほら、よく見てごらんよ。座席はきちんと並んでいるだろう?」
言われてみれば確かに、机は彼女の前にも並んでいる。数えてみたが、残念ながら俺はクラスの正確な人数を記憶していなかったので、人数が変わっているか分からなかった。
「まあまあ、記憶違いなんてよくあることさ。気にしない方がいい。」
チェシャ猫を連想させるにやにやとした笑みを浮かべながら、彼女は言った。
違和感はあるが、面倒だったので考えるのを止めた。思考停止。
ところでこいつ、誰だっけ?
「ふふふー。その様子では名前も覚えていないだろう。私はサクサキサケだ。検索の索に、最先端の先、花が咲く、と書いて索先咲。改めてよろしく頼むよ、ヒョウマ君?」
へぇ、変わった名前だな。ところで俺、いつ名乗ったっけ。
「え?あぁ、その調子だと覚えていないのか。」
彼女は癖なのか、人を小馬鹿にするような笑みを再び浮かべ、俺の問いをはぐらかした。
まあ、別にどうでもいいが。
そのあとのことはあまり覚えていない。まあ、記憶に残すほどのことはなかったのだろう。あったとしても、そのうち忘れてしまうのだから大差無い。
授業が終わり、クラスメート達が帰る準備をし始めた頃、聞き慣れない音楽が大音量で校舎に流れた。