表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

零章 回想(2)

事件、と言っても、それは大々的に報じられることは無かった。

ある一体のアンドロイドが、一人の人間を殺した。死に至らしめた。

本来なら大ニュースになるはずであろうその事件は…。

アンドロイドの採用に一番反対していた、他ならぬ政府によって揉み消されたのだから。

これだけでは何のことやら分からないだろうが、まだ詳細を話すわけにはいかない。

先にまず、この世界の説明をした方がいいだろう。

時は正暦50年。正暦というのは、世界の生物が人間のみになった年を一年とする暦のことである。

世界が人類だけのものとなったのは、お分かりのように、最近のことだ。とはいえ、俺が生まれる前のことなので、俺もよくは知らないが。

ちなみに俺は正暦33年生まれの十七歳だ。


部屋の扉が開く音がした。誰が来たかは大体推測できるため、無視をした。しばらくすると破壊音がした。

そちらを見ると、無残に壊れたドアの後ろに人影が見えた。どうやら彼女は俺がドアを開ける気がないことを知り、ドアを蹴破ったようだ。全く、脳筋なヤツめ。

俺がねぐらにしている物置のドアを平気で蹴飛ばした彼女は、ドアの残骸を超えて俺の前に仁王立ちになった。

「こらヒョーマ!今何時だと思ってんの!?」

「うん?ミマリか。」

白々しく彼女ーー未茉に今気づいたというフリをしてみた。

「ほら、教室行くよ!ボヤボヤしないで!」

華麗に俺の演技をスルーしたミマリに怒鳴られ、俺はしぶしぶ体を起こした。

制服はかなり前から替えておらず、いつから着ているか覚えていない。

リュックに端末とペンを突っ込み、ポケットから小さなプラスチックのケースを出す。中に入っているサプリメントを数粒出し、掌の上で転がした後口に放り込む。

「早くしないと置いて行くんだからね!」

ドアの前で仏頂面で突っ立っているミマリに急かされ、慌てて俺はミマリの後を追った。

どこの学校でもそうだが、俺たち生徒は実力別にクラス分けされ、自分のレベルに合ったカリキュラムを適用される。

俺たちの両親の時代には、年齢でクラス分けされる、馬鹿馬鹿しいシステムがあったらしい。一番出来が悪い者に常に合わせる。なんとも効率が悪いやり方だ。

「そう?私は、今のシステムのが嫌。だって、周りが皆上のクラスに入るために必死な嫌な人ばっかりだもの。年齢で分けた方が、もっとゆったりしてて、人として必要なことが学べると思うけど。」

知らずのうちに口に出してしまっていたのか、横から口を挟まれた。

「人として必要なこと、ねぇ…?そんなものあるのか?」

「あるに決まってるでしょ!まず、アンタは、そう考えてる時点で間違ってるの!

皆、分かってないよ…。」

はっきりとそう言い切られてしまった。険しい表情が一瞬だけ途切れた気がしたが、すぐに再び険しい表情を作った。


「別に間違ってても人じゃなくても生きていけるだろ。」

「勝手に言ってれば?ってヤバい!本気で遅れる、早くして!」

慌てて急かす彼女の時計を盗み見ると、一時間目が始まる時刻になろうとしていた。

あ、と思った瞬間、大音声で学校のチャイムが聞こえてきた。

「…よし、諦めるか。」

「諦めがよすぎる!もう少し急いだりしなさいよ!

…もう!ほら、走る!」

無理やり俺の腕を引いて、ミマリは走り出す。

「あ〜、景色が流れていく〜。」

「ふざけてないで少しは自分で走んなさいよ!」

曲がり角を曲がったとき、前方に教師が立っていた。どうやら待ち伏せされていたらしい。

「今、何時か分かっているんだろうな?」

押し殺した声で、教師にそう訊かれ、俺は答える。

「さあ?生憎、今時計を持ち合わせていないもので。」

「ふざけるな!もう授業は始まっているんだ、分かっているのか!?」

「分かりました。では、授業に向かいたいので通して下さい。」

俺なりに誠意を見せたつもりだったのだが、学年主任がさらに怒鳴るのを見て、首を傾げる。

「おかしいな、先生がさっき、授業が始まっていると仰ったので、それに向かいたいので通して下さい、とお願いしているのですが…?」

「だからそれに対する反省を…!」

「先生、もう結構ですよ。」

学年主任の後ろから、突如、場違いな涼やかな声が響いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ