彼とみんなの聖女の彼女(学園の生徒視点)
話に聞いて想像していた女性と大きく違う。
控えめな印象の淡い色素の少女。
外に出ないという貴族の令嬢も真っ青の肌の白さに、折れそうなほどの華奢な体。それでいて男たちの視線を嫌でも集める胸部。
視力のせいか動きがゆっくりで品があるように見える。
あどけない表情で、どう見ても同じ年の少女に見えない。
まあ、彼は決して自分から姉の話をしなかった。
あまり人に話をしない彼から姉の話を聞きだしたのは、いつも底抜けに明るい彼女だった。孤高の彼は、彼女には心を許しているのだろうと思われた。その彼女から北話で彼の姉はどんな人物かを知ることができた。
いつまでも幼いころの過ちを彼に突き付けて、将来有望な彼の足枷となっていると。
彼はぶっきらぼうで、無愛想な少年だった。愛想と反比例するように顔が特別綺麗で、人目を引くのに全く周囲なんて興味がなさそうだ。入学後すぐに、ギルドに所属して授業以外はギルドで仕事をしているという。友達も殆どいなくて、遊びに夢中なクラスメートから明らかに浮いていた。
ギルドで仕事しているからといって実技だけに偏っているわけでもなく、座学もそれなりにできる嫌な奴だ。
突っかかっていく同級生も一瞥しただけで取り合うこともなく、己の生活リズムを変えることもない。
そんな普遍の態度に大人びていると女子生徒からは人気があった。勿論、顔もあると思う。
そんな彼がある日から熱心にとある教授のところに通い始めた。
美貌の未亡人で妖艶な美女だ。彼女の専門は複写・念写技術だ。
当然のごとく学園中の噂になっていたが、本人は気にしていないようでというか周囲が見えていないように通い詰めていた。
長期休暇前には生徒を相手にしないといわれていた彼女がほだされたという噂が上ったほどだ。
彼女に熱心に何かを告げて長期休暇に旅立つ姿が見られたという。
長期休暇から帰ってきたら顔に締まりなく、教授と目くるめく世界を堪能したのだという噂も流れた。
何故か、長期休暇の後には教授の下に通うのをやめて、以前より熱心にギルドで仕事をするようになった。そして、肌身離さず首から防水性のある薄い平べったい皮の袋をぶら下げているようになった。
そこには、教授から貰った高価な宝石が入っているのだともっぱらの噂だ。
そして、短い熱病だったと噂されるようになる。
寮の同室の生徒は時折、紙を眺めて嬉しげにしている姿も目撃されていて、きっと恋文なのだろうと推測された。彼は、それをとても大事に扱っていたのだから。
学年が上がると成績優秀者には寮の一人部屋が与えられる。
特別棟といわれるところだ。
貴族の子女が多くいる場所で庶民で入寮するのは快挙といえる。
それにすら興味ないようだが、多くの貴族の子女たちが彼に興味を持った。
部屋には寝に帰るだけという生活をしている彼は神秘的で年頃の彼らからすれば非常に魅力的に映った。
同じ学年でも飛びぬけている美貌と成績のグループが彼に構うようになった。
さすがに彼らに逆らって面倒なことになるのを嫌った彼は最低限の話をするようになった。
互いの有益な話を持っていく貴族ならではの会話に、興味を覚え、利益があるならと少年もまあ、受け応えをするようになったのだ。最初は話すだけで彼らの自尊心を満足させたが、そこにいる少女はそれだけではなく、彼の心をも欲するようになった。
彼と学園で唯一、対等に話が出来る女性という称号だけでは足りなかったのだろう。