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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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第二章 接近  2 side 麻生聖~3 side 出雲響

 2 side 麻生聖


 どうして素で接してしまったのだろう?

 学生証に書いてあった生年月日からして一年生。その辺で会う可能性だって有るのに。

 あの男の子……響君だっけ。何か変わってたな。どうして学校で私服だったんだろう?

 地理の教科書を開きながら考える。ノートは取らない。板書だけ写したって仕方ないし、先生の話と一緒に記憶してしまうのが一番手っ取り早い。


「ねえねえ知ってる?」

 放課後にクラスメイトの下平亜香梨ちゃんと江口美香子ちゃんが声をかけてきた。同じグループの二人だ。

「何?」

 知らねぇよ。と悪態を付くわけにもいかないので、笑顔を作って尋ねる。

「明日転入生がうちのクラスに来るんだって。しかも男の子」

「そうなんだ」

 成程。

 響君が転入生なのか。という事は、今日は学校見学だったのね。小学生扱いされて頭に来たから、思わず蹴り入れちゃったけど……同じクラスなのか。

「噂によるとかなりカッコいいらしいよ」

 転入生のイメージは日本全国美男美女で統一されている。実物は大体において想像に劣るけれど。

 ああ、でも響君はそこそこいい線いってるな。

 固そうな髪質。切れ長で少しタレ気味の目。色はどちらも真っ黒だ。むすっとされたらかなり迫力のある威圧を放ちそうな顔立ちだが、何かちょっと抜けてる感じがして迫力はまるっきり感じなかった。

 あれなら明日、目の前に居る二人もきゃあきゃあ騒ぐだろう。

「聖、今日は時間有る?」

 女の子の話はコロコロ変わる。

 私を含めて彼女達は別に飽きっぽい訳ではない。男の子とは脳の構造が違うのだ。

 女は、同時に幾つかの思考を平行して行う事が得意なように出来ている。その分、男は一つの事を集中して考える事が得意だ。

 狩をして男が外で戦っていた間、女は沢山の人に囲まれて支えあって生きてきた。沢山の人の中で上手く立ち回るのは、一度に一つの事を集中して考えていたら間に合わない。そんな太古昔の習慣が遺伝子にすら組み込まれ、私達の脳にも影響している。

「え? どうして?」

「皆でクレープ食べに行こう。美味しい所見つけたんだ」

 他愛も無い会話。

 まぁ甘いモノは大好きだから良いんだけど。


 クレープは美味しかった。

 けれど、甘いものが好きだとか言った割にシーチキンクレープを頼んでしまった。何故かレストランに行っても定番商品を頼めない性質なのだ。

「それじゃあ、またね」

 五人のクラスメイトと分かれて海沿いを散歩してからスーパーへ向かう。一人暮らしなので夕飯の買い物をしなくてはならない。

「ああ、今日は洗濯機も回したいなぁ。って、まだ十五歳なのに所帯地味てるよなぁ」

 溜息を吐きながら、今日の朝見た新聞広告のスーパーのチラシの内容を思い出す。チラシの内容は丸ごと覚えてる。あんまり役に立つとは思えないけど、ここ一年間位の新聞とチラシの内容なら一語一句間違わずに言う事が出来る。


 歩いていると、朝の天気予報通り雨が降ってきた。

「洗濯は明日か」


 3 side 出雲響


「えっ? 前金で払うんですか?」

「はい。当ホテルではその様な決まりになっております」

 駅前のビジネスホテル。ここは麻生聖抹殺の為の拠点にする予定になっていた場所なのだが、鞄を無くして無一文なのでホテルの前金を払う事が出来ない。

 暫くフロントで揉めたが、結局ホテルでの宿泊は諦める。いざという時の為に、野宿などの訓練も一通り受けている。

 ホテルを去ろうとすると、フロントから俺宛ての荷物を渡された。

 その小さいダンボールには荷物には見覚えがある。確か三ヶ月前に俺をタイムスリップさせるテストとして荷物の一部を二〇一〇年に転送したのだ。

 これ以上泊まる事も出来ないホテルに居るのも気まずいので、荷物だけ受け取ってその場を去る。


 行く当ても無いので、取り敢えず真田高校へ向かう事にする。

「おっ、公園か」

 歩いている途中で小さな公園が目に入る。シンプルに木で作られた滑り台と砂場、そして鉄棒がある。入り口の近くにある木製のベンチに腰掛ける。

「荷物の中身って何だったか?」

 荷造りは自分でした。しかし、締め切り前日の夜にどうせ実験だからと適当に物を詰め込んだ気がする……。

 何だかんだ言っても二五一〇年の救世主とまで呼ばれた俺様だ。意外としっかりしているはずだ。

――ペリペリ

――ガバ

「…………」

 ……しっかりして無かった。

 真田高校の制服と教科書位しか入ってない。それは上司から必ず入れろと言われた物だ。他には何にも入ってない。

「自分の事だから分かってたけど、俺ってこういう奴だよな」

 精々、溜息をつく事位しか出来ない。

「ん?」

 ダンボールの底に見覚えの無い封筒が入っている。

「何だこれ?」

 白い封筒を開けると、二〇一〇年で使われている壱万円札が五枚入っていた。

 俺は入れてない。封筒にはメモが入っていた。

『お前は少しボーっとしてるから心配だ。――橘零』

 嗚呼、素晴らしい。

「女だったら惚れてます。もう本当に俺二十六世紀に足向けて寝られないな」

 しかし、五万円を宿代につぎ込むわけにはいかない。二五一〇年と連絡を取れないと麻生聖を殺しても未来に帰れない。長期戦になりそうだ。二五一〇年と連絡が取れるようになるまで、どうやって生活すれば良いんだ?

 そもそも、ただ殺せば良いってモノでもない。

 例え麻生聖が破壊神だとしても、後の人類に多大な影響を与えた事に間違いない。そういった時代の重要人物に、他の時代からのアプローチがあった場合、時代が再構築され、別の未来になってしまう可能性も有る。特に麻生聖の発明で人類は地下へと追いやられた。殺せば確実に未来は変化するだろう。

 俺は時代の再構築が始まる前に未来に戻らなければいけない。

 再構築された後の未来にタイムマシーンが無い可能性が有るからだ。その場合、俺は自分の時代に帰る事が出来ないのだ。その場合の俺の未来は二つに一つ。一つは二十一世紀の人間として残りの人生を送る。もう一つは再構築された未来で俺が産れず、存在そのものが消えてしまう場合。まぁ、どちらも勘弁願いたい未来だ。……いや、過去なのか?

 時間の事をあまり考えても良くないというのは演習でも散々感じてきたので、思考を切り替える。それに既に麻生聖がp‐typeの研究を始めていたら、誰かに引き継がれたりしないように始末しなくてはならない。

 表向きは、高校生の麻生聖が大っぴらには研究しているとは考え辛い。その研究施設や研究ノートなどの始末なども任務に含まれている。よって本人に近付き調べてからでないと殺せないのだ。

 さっきはいきなり目の前に麻生聖が現れたので、勢い余ってこの事を忘れて殺しそうになってしまったが、本当の目的から考えても殺さなくて正解だったのだ。


「はぁぁ……」

 途方に暮れていたら、いつの間にか夕方になってしまった。

 巨大地下都市JPANGでは人口太陽が一日の変化を再現していた。

 しかし、本物は絶対的だ。

 夕方の儚さ。

「にゃあ……」

「何だ?」

 何処からか、鳴き声が聞こえてくる。

 ベンチから少し離れた木の方から聞こえてくる。やる事も無いし、そちらに向かう。

「にゃあにゃあ」

 グレーと白い毛が混ざってのと真っ白の子猫が二匹。木の根元の茂みの中、ダンボールに入れられて鳴いていた。ダンボールには子供の拙い字で『ひろってください』と書いてある。

「これが猫か……」

 二十六世紀ではペットを飼う余裕なんて無い。動物を飼育するブロックは存在するが、行った事は無い。初めて実物を見た。

 青から赤へ変化する空。

 踏みしめる土。

 そして動物……。

「本当に二十一世紀に居るんだな」

 かなり遅ればせながら実感。

「しかし、こいつら面白いな」

 じーっと猫を見続けているけど、いくら見ていてもちっとも飽きない。

 しかし、暫くすると頬に冷たい物が当たる。

「?」

 次は腕、肩。……そして

――ザアー

 と音と共に全身がずぶ濡れになる。

「雨?」

 JIPANGに雨は無い。

 暫く初めての雨を満喫していたが、ずっと水に当たっていると、流石に体温が奪われていく。猫達の動きも心なしか鈍くなってきている。俺はホテルのフロントで受け取った荷物の中から高校の制服を取り出し、猫達が入っているダンボールの上にかける。


 雨はますます強く降り注ぐ。

 制服もすっかり水を吸ってしまい、端の方から水滴を滴らせている。

「こりゃあキッツイなぁ。お前らだけでも誰か拾ってくれねぇかなぁ?」

 制服と同じように濡れぼそった髪をかき上げながら、猫達に話し掛ける。

 

 「?」

 不意に今まで降り注いでいた雨が不意に無くなる。

 否、雨はまだ降っている。

「まさか雨水でお弁当箱洗って返してくれるつもり?」

 昼に聞いたちょっと高くて可愛い声。

 思わずはっと振り返る。

「……麻生聖!」

 麻生聖が俺の頭上に傘を差していた。

「いちいちフルネームで呼ばなくて良いから。聖で良いよ」

「…………」

「で、何してたのアンタ?」

 そう言うのと同時に、聖はオレの制服の下にいる猫を発見する。

「……何匹いるの?」

「二匹」

 聖は静かに猫たちを見つめて、一度溜息を吐く。

「で、アンタは何をしているの?」

「猫の観察」

「そうじゃなくて」

「雨が止んだら、この辺で休めるかと考察していた」

「……家に連れて行くわ。捨て猫三匹くらい飼えるから」

「二匹だって」

「三匹よ。アンタ入れて」

「えっ?」

 雨の音が大きくなる。

「どっか行く所あるの?」

「……無い」

 意地を張っても仕方が無いので、正直に答える。すると聖が少し意地悪く微笑む。

「子猫は何もしなくて良いけど、大猫にはしっかり働いてもらうわよ」

 最初の可愛いだけの笑顔とはイメージが多少異なる。

 それでも俺はさっきよりもっと速い心臓の動きを黙認しながら頷いた。


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