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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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第四章 距離感  4 side 出雲響~5 side 麻生聖

 4 side 出雲響


 毎日小さな出来事の繰り返しで、穏やかで幸せな毎日がただただ流れていった。俺も何時しか任務を忘れている時間が増えていき、カレンダーは一二月を表示していた……。


「えっ? 聖いつも途中から一人でどっか行っちゃうのか?」

 休み時間の教室で、亜香梨さんが言った台詞をそのまま聞き返す。

「そうなのよ」

 亜香梨さんが言うには、聖は皆で遊んでいても七時には家に帰ってしまうらしい。

 だけど、待てよ……。

 俺もバイトや友達付き合いで遅く帰る日があるから断言は出来ないが、聖も遅い日には十一時くらいに帰ってきたりする。という事は空白の時間が四時間ほどあるのか。

「う~ん。ダンナに聞いても分かんないか~」

 色っぽく足を組みなおし、ぼやく亜香梨さん。むんむんな色気よりも気になる事を今言わなかったか?

「もしかしてダンナって俺の事?」

「他に居ないじゃない」

 けろっとした顔で言う。

「だって一緒に暮らしてるんでしょ?」

「うっ」

 そう言われると言い返せないが、俺も頑張る。

「遠い親戚だから」

「その設定まだ使ってるの? それよりも、あんた本当にまだ何もしてないの?」

「まだって言うかこれからも何かするつもりは無い!」

 思わず大声を出してしまう。

「某が思うに聖殿は喋るとちょっとアレでござるが、黙っていればそこに居るけばい女子よりもべっぴんだ。浮気か?」

 いきなり野村が話に割り込んできた。

「ちょっと、けばいって失礼なんじゃない!」

「だったらその化粧をもう少し薄くしたら良かろう」

 何やら二人が言い合いを始める。意外と仲がいいようだ。

 それにしても、痛いことをぐさりと言ってくれるぜエセ戦国野郎め。しかも聖は喋るとちょっとアレって……。まぁ、あいつも何気に変な女だからな。浮気かどうかはさて置き、忘れかけていたが一応、任務中だ。一度後をつけてみる事にしよう。


 そして放課後。

「後でな」

 聖に何時も通り挨拶をすると、一度違う道を歩き始めたと見せかけて、後をつけ始める。今日は一人で帰るらしい。

 別に俺だって浮気を本気で心配してるわけじゃない。大体、友達だから浮気もクソも無いんだが……。ただ、聖はちょっと怪しい。

 p‐typeを発明した科学者である事を考えれば不思議ではないのかも知れないが、やたら植物に詳しい。それに猫が具合悪くなった時も、不思議な飲み物を何処からとも無く持ってきた。それを飲んだ猫は、次の日にすっかり元気になってしまったり……。でも、本当に普段の聖を見ていると科学者には見えない。俺がそう見たくないだけかも知れないが。


 聖の後をつけていると、海沿いの倉庫が沢山並ぶ場所に着いた。

 聖は左右の確認をすると、鍵を鞄から取り出してその中に入ってしまう。

「あいつ、何やってるんだ?」

 俺も倉庫へ走る。

――ガンッ!

 聖が中から鍵をかける直前に足を挟む。

「!」

 聖は驚いて声にならない様だ。

「何してるんだ?」

 言うのと同時に手もドアの隙間に挟む。

「……入って」

 俺の制服の袖をぐいっと引っ張り倉庫の中に引っ張り込むと、聖は急いで扉を閉める。

 中に通された俺はざっと倉庫の中を見渡す。

「ここは……研究所か?」

 大量の実験道具、薬品、植物、それに資料。研究所以外の何者でもない。

「何でこんな事してるのかって思ってるでしょ?」

「……いや、見当はつく。援助してくれている人に頼まれてだろ? 名前は……」

「東雲さんよ。そう、当たり。ここで実験して結果を出す事を条件に援助してもらってるの。それからここの事を誰にも言わないのも条件」

 制服の上から白衣を羽織り、肩につく髪を後ろで一つに束ねる。こういう格好をすると、ちゃんと科学者に見えるから不思議だ。意外と白衣も似合うんだな。

「俺や猫が風邪をひいた時の薬もここで作ったのか?」

「そうよ。市販のより私が作ったヤツの方が良く効くからね」

 心なしかふんぞり返って言い返してくる。

 俺は部屋をもう一度グルっと見回す。すると、隅の方に見覚えのある黒い物体が……。

「あー! 俺の鞄!」

 時空移動時に無くしてしまった俺の鞄だった。

「それ、響の鞄だったのね」

 聖が少しだけ俯く。

「ああ、何処で見つけたんだ?」

「えっ? ああ、この倉庫の前に落ちてたの」

「そうか……」

 時空移動地点の真田高校からこの倉庫まで自転車で十分程度。自分自身の移動地点のずれから考えても不思議ではない。

「そういや、ここで何の研究をしてるんだ?」

「……笑わないで聞いてくれる?」

「何で笑うんだよ? そんなに変な事してるのか?」

「そういう訳じゃないけど……」

「じゃあ良いじゃないか」

 俺がそう言うと、聖が自分の実験レポートを出しながら話し始める。

「これから地球は食糧不足になっていくでしょ?」

――ドキン

 心臓が大きく脈打つ。まさか……。顔を強張る。しかし、聖はそんな事に気付かず少し照れたような顔をしながら続ける。

「人間が光合成で栄養を取る事が出来る遺伝子改良薬を作ろうと思ってるの」

 凄い勢いで血の気が引く。人類滅亡のXデーまであと約三年。確かに研究が始まっていても遅くない。しかし……。

「でもね、最近悩んでるの」

「え?」

 力無く聞き返す。

「この薬を直に人間に注入すると、注入された人は完全な植物に変形しちゃうの。それで、その人が作り出す新しい種子を植物型人間……私はp‐typeって名づけたんだけど、それになりたい人に植え込むとp‐typeになれるの。本当はもっとややこしい仕組みだけど、簡単に説明するとこんな感じよ。これでもうひもじい思いをする事も無いし、我ながら凄い発明だと思ってたの」

 間違いない。聖はp‐typeの原型を作り始めている。

「だけど、問題が一つあるの。誰がこの薬の犠牲になって、p‐typeに変形させる種子を作る植物になるかって事なんだけど……。少し前までは、私がその植物になれば良いと思ってた。私がどんな風になっても悲しむ人なんて居ないと思ってたし、私も別に会えなくなって辛い人なんて居なかったから……」

 そこまで言うと一度息を吸って、聖が俺の手をそっと握る。

「でも、今は響が居るから。それに友達も出来たから、植物になんてなりたくなくなっちゃった」

「!」

 思わず顔を上げる。しかしまだ安心は出来ない。

「問題はそれだけなのか?」

「えっ?」

「p‐typeは自然繁殖できないんじゃないか?」

 この時代の人間が知る筈も無い事を思わず口走ってしまったが、聖はその事には気付かなかったようだ。

「はっ? そんな事無いよ。確かにp‐typeの仕組み上遺伝子をちょっといじっちゃうから寿命は少し長く……そうね、百五十歳位までは生きれるようになるから、少し子供の出来る確率は下がるけど、普通の人間と大した違いは無いし、両種のハーフを生む事だって出来るわよ」

「そんな! じゃあ、p‐typeを種子から生成する為には人間を培地にするんだろ?」

「培地? どう言う事?」

 聖があからさまに眉をひそめる。

「だから、人間殺して、そこに種植えて、その人間を養分にしてp‐typeが生まれてくるんだろ?」

 思わず声が大きくなる。

「そんな酷い生物、私が作ると思ってるの? その種を植えた人は光合成でも栄養が取れるようになるだけよ! 勿論普通の食事だって出来るわ!」

「だって……」

 あまりの剣幕に一瞬こっちがたじろぐ。

「私の事そういう事する人間だと思ってたの?」

 聖の瞳には大粒の涙が溜まってる。

「もう出て行ってよ!」

「聖……」

 宥める為に抱き締めようとするが腕を振り払われる。

「帰って!」


 止まっていた歯車が鈍い音と共に動き出した。


 5 side 麻生聖


 響を追い出しすと力無く床に座り込む。溢れ出る涙を拭う気力も無い。

 何で響はあんな事言ったんだろう?

 確かに響が言っていた様な性質の生物を作る事は可能だ。だけど、何の為に?


 人がシリアスに悩んでいるっていうのに、無神経で爽快な着メロが鳴り響く。

「はい、麻生です」

 泣いていた事を悟られないように平静を装って電話に出る。

「麻生君、どうだい調子は?」

 優しい声が聞こえる。

「順調ですよ、東雲さん」

「そうか……。出雲響はどうしたんだね?」

「えっ?」

 東雲さんが響の名前を呟いたので思わず反応する。

「出雲響だよ。君の所に居るんだろ?」

「…………」

 その事は一度も話してない。

「おいおい驚かないでくれよ。学校ではある程度公表してただろ? こちらだって噂くらいは手に入るさ」

 東雲さんは一度軽く咳払いをする。

「それで、出雲響の事だが、麻生君は知りたくないか?」

「何についてですか?」

 声が震える。

「君の知りたいこと全て」

 当たり前の事だと言わんばかりに、あっさり答えられる。

「私は響きの事をちゃんと……」

 そこまで言いかけてはっとする。

「響の事はちゃんと分かってます。仮にも三ヶ月も一つ屋根の下に暮らしてたんだから」

と言おうとした。


 でも……。私は響の事、何も知らない。何も聞いてない。何処から来て……。何をするつもりなのか。

 聞けなかった。それを聞いたらこの幸せが無くなってしまいそうで、怖かった。


「知らないだろう? 彼が何者なのか教えてあげるよ。君に渡したあの鞄以上の情報は保証するよ。どうする?」

「…………」

 答えは決まってる。

「お願いします」


 後には引けない。前に進まなきゃ。真実を知る必要がある。


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