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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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第四章 距離感  1 side 麻生聖

第四章 距離感



 1 side 麻生聖


 響が転入してきて二週間が過ぎた。長いようで短い二週間だった。この二週間で私はとても変わったと思う。友達と自然に話せるようになった。

 最初はお弁当の時に出て行ってしまった気まずさが残っていた。

 けれど体育の授業中、バスケをしている響を見ていたら、亜香梨ちゃんと美香子ちゃんにからかわれて完全に素を出してしまった。

「聖~、ハーフパンツの男の脹脛って美味しそうよね~。特に出雲君なんて良い感じに引き締まってるしね」

 肉食獣のような目つきでコートを見つめる亜香梨ちゃん。

「亜香梨ちゃん……。美味しそうって……」

 本当にやりかねないので、一応しっかり止めておく。すると、隣で一緒にコートを見ていた美香子ちゃんがふわりと微笑む。

「わたしぃ、昨日四人目の彼氏と別れちゃったんだぁ。あれなら狙う価値あるよねぇ? 目の前で素っ転んだ振りして抱きつけば後は……ふふふふふ」

――プチ

 これは私の理性が切れた音。

「おい、万年発情期ども、人の男に手ぇ出すじゃねぇぞ」


 素の私は意外とあっさり受け入れられた。何で今まで隠す必要があったのだろうかというくらいあっさりしてた。

 やっぱり一番気が合うのは亜香梨ちゃんと美香子ちゃん。思った事を直ぐに口にしてくれるから一緒に居るのが楽だ。


「えっ? アンタ達付き合ってるんじゃないの?」

 昼休み。

 飲んでいたコーヒーで亜香梨ちゃんが咳き込む。

「違うよ」

「だって、一緒に暮らしてるんでしょ?」

 流石に毎日一緒に登校して、その上同じお弁当だったので、同居の事は仲の良い友人中心に自然とばれてしまった。一応、対外的には遠い親戚だと言ってはいるが、誰も信じてくれていない。

「うん。でも一応秘密にしておいてね。煩く言われそうだから」

「別にばらして歩いたりはしないけど……する事してて付き合ってないの?」

「してないよ」

「え? 何も?」

 亜香梨ちゃんの声が一瞬大きくなる。

「うん。ご飯作ってもらう代わりに部屋貸してるだけだから」

「……ふぅん。どっちも晩生っぽいもんね。両思いならとっとと付き合えばいいのに」

「ううん。私の片思い。実はもう振られてるの」

「…………」

 こめかみに指を当て、亜香梨ちゃんが目を閉じる。そしてほんの少し間を置いてから再び目を開き、こちらを向く。

「聖」

「何?」

「それ以上聞くと、私あの意気地なしに何しちゃうか分からない」

 実に丁度良いタイミングで予鈴が鳴った。


 放課後は響と一緒だったり、友達と帰ったり半々だ。

 今日は食材の買出し日だから一緒に帰る。響は生活費にと取り敢えず三万円入れてくれた。あとは日雇いのバイトで稼いで小遣いにしているらしい。別にバイト代はいらないって言ったけど、その一部も無理矢理受け取らされている。


 二人で並んで自転車に乗る。流石に毎日二人乗りでは大変なので響用にと安売りの自転車を買ってきた。

「聖、夕飯何食べたい?」

 自転車に乗りながら響が尋ねてくる。私は一呼吸分悩んでから応える。

「スパゲティー」

「駄目」

 一拍も置かずに返答される。

「たまには野菜食べないと。今日はシチュー」

「うん。シチューも好きだから良いよ。ってかメニュー決まってるなら聞かないでよ」

 自転車に乗りながら響に蹴りを入れようとする。

「聞かないと怒るでしょ?」

 もう攻撃パターンが読まれているらしく、さっと避けられる。

 そろそろ格闘技の本を読んで勉強しないと間に合わないかも。無駄に良い頭を無駄に使うのも悪くないだろう。

「うわぁ!」

――ガシャーン!

あまりにも華麗に避けられた私はバランスを崩して自転車ごと倒れる。

「聖! 大丈夫か?」

慌てて自転車から降りた響が私の事を起こしてくれる。

差し出された手を掴むと見せかけてこっちに引っ張り腹に一発パンチを入れる。

「うっ!」

「隙あり」

悪戯っぽく笑う。すると腹を押さえていた響の目が光る。

次の瞬間、私の目の前五センチメートルまで近付かれた。

「え?」

 あまりにも顔が近くて戸惑う。

――ピン!

「…………」

「隙あり」

 でこピンを入れられた。思わずおでこを押さえて響を見つめる。赤くなってるのはおでこではない。ほっぺただ。響はしてやったりと意地悪く笑ってる。照れてるのは私だけなの?

 毎日隣に居る。誰よりも傍にいる。一番距離が近付いたのは初めて会った日。あの日以来抱き締めあう事はおろか、手を繋ぐ事すらない。


 響は、本当に私の事何とも思ってないのかな?

 亜香梨ちゃんや美香子ちゃんは、

「んなわけあるかい!」

って言ってるけど……。


 毎日好きになっていく。授業中、見つめる事が多くなった。逆に食事中向かい合っているとまともに顔が見れない。かなり重症だ。意地悪く見つめられても赤くなってしまう。一度も触れていなければ、こんなに恋しくはならなかった。好きだと確信してしまったから。もう想いが止まらない。


「聖」

 名前を呼ばれる。

「はっはい!」

「スーパー寄って帰ろう。あと……」

「あと?」

 一瞬何かを期待する。

「今週号買ってこーな」

「……うん」

 漫画の話か。期待した私が馬鹿だった。

「あと帰ったらゲームやっても良い?」

「宿題終わってから一時間だけね」

 私はお母さんかい……。

 こうして毎日が過ぎていく。付かず離れず微妙な距離。貴方にとって私は何なの?

 ……怖くて聞けない。

「……好き」

 響には聞こえないように呟く。

「ん?」

「なんでもない! 早く行こう!」

 自転車にまたがって坂道を猛スピードで漕ぎ始めた。


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