残したサヨナラ
彼氏が浮気した。
付き合ってそれそろ7年目。
ネオンの光が眩しいピンクのホテルに、これまた美人な女性と腕を組んで中に入った。
周りが次々と『結婚します』なんて嬉しいような悲しいような気持ちの中、私にも・・・なんて妄想では無く、想像していた今日この頃。
「あーの人の〜ママに会うために〜今1人電車に乗ったの〜」
懐かしいメロディを口ずさみながら、彼氏の家に私は向かう。
1人、おろしたてのパンプスの音が響く。
一目惚れしたけど、足が痛い。
これは失敗かなとか、
あぁ、冷蔵庫の中に卵が無かったとか、
どうでもいいような事を考えながら、先ほどの光景を考える。
スタイルよかったな、あの人。
ニュースで時たま流れる浮気が、まさか自分にも当てはまるとは。
『浮気』もしかしたら、私が浮気相手だったとか。
それともセフレ、友達・・・考えたらキリがない。
途中、コンビニを寄ろうかな。
彼が嫌いと言ってたから、もう久しく行っていないコンビニ。
作りものの光は、先ほどのネオンの光を思い出して悲しくなった。
「ありがとーございました」
私はゴミ袋を買った。
決別のために。
「終わりなんて、呆気無かったなぁ」
彼と過ごした7年は、あまりにも長かった。
コンビニにガラスに映った、哀れな女。
その泣きそうな表情で、必死に涙をこらえる顔を、私は『見て見ぬふり』をした。
合鍵を貰って、約5年。
彼の部屋から私の私物を片付ける。
こんなに化粧道具の場所をとってたんだ。
片付けた洗面台がスッキリしたのを見て驚く。
20代真ん中かな、ハリも無くなってきた。
あの時のショックを思い出して、少し笑える。
それと同時に、私は『私って馬鹿だったかも・・・彼に時間を費やしすぎた』とか考える。
シャンプー、歯ブラシ、パジャマ・・・途中、珍しく彼とお揃いにしたマグカップを取り出す。
お揃いなのに青とピンクや赤、じゃなくて黄色と水色が可笑しかったのを覚えてる。
紅茶は彼も飲むかな。
私がオススメして、普段コーヒー派の彼が珍しく気に入った紅茶。
彼の部屋に置いてた、一度も着てないワンピース。
彼が珍しく褒めてくれた。
『お前らしくて、いいと思う』
お前らしくて、が嬉しくて買った、白いAラインのワンピース。
ちょっと子供っぽいかなと思ったら、結局着れなかった。
でも、私にはもう必要ないから。
日付が変わる前には、片付け終わるかな?
どうせ、彼は今日『帰れない』。
いや、『帰らない』。
つい数分前に着たメール。
『今日は友人と飲み会に行くからオールする』
はっ白々しい。
彼への気持ちも薄れていく。
もともと、荷物の少なかった部屋。
そこにあったはずの私の荷物はもう無い。
本当に、サヨナラ。
最後に残した置き手紙。
大丈夫。彼は頭の回転が速いからわかってくれる。
『サヨナラ』
紙にお気に入りの口紅で書いた。
一回やってみたかったのなんて思いつつ、手を離すと紙はベッドの上へヒラヒラ落ちた。
残したサヨナラ