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第八話

やっぱりご都合です

あれから私たちは場所を移動し、近くの公園に来ていた。学校は…うん、お休み。ちゃんと学校には電話をしたから無断欠席じゃない。でも脇田先生には仮病だとバレてた気がする。ごめん、先生。明日からちゃんと学校行きます。

今日は冬にしては珍しく暖かい日で、ベンチに座っていても寒さはあまり感じない。他愛もない話をした後、私はずっと疑問だったことを切り出した。

「ところで、なんで壮ちゃんと話す機会があったの?」

壮ちゃんは小春に全て話を聞いたと言っていた。最初、小春が壮ちゃんに不信感を抱いていたことは間違いないのだが、それがどうして私たちのことを説明するまでになったのだろうか。

疑問を口にした私に、小春はにっこりと笑う。



「だって結子ちゃんは相模君のこと、好きでしょう?」



…はい?


固まった私を見て、小春がクスクスと楽しそうな声を上げる。

「些細な表情を親友が見逃すはずないでしょ。前に私が、相模君が結子のことを探してるって伝えた時、結子ったらどんな顔したと思う?」

その時の私はどんな顔をしてたんだろう。

つるりと右手で自分の顔を撫でると、小春が悪戯っぽく目を細めた。

「泣きそうだけど、すごく嬉しそうだった。相模君のことが好きで堪らないって、恋する女の子の顔してたよ」

「え…」

私は思わず言葉に詰まる。


そんな、顔してたの?


心の裡を見透かされたようで恥ずかしい。火照り出す顔を俯かせると、小春が小さくため息を吐いた。それがまるで聞き分けの悪い幼い子をたしなめる前の母親のようで、なんだか居たたまれない気持ちになる。

「叶わない恋の相手って、相模君のことだよね?本当に分かりやすいんだから」

「…うん」

うまく隠していたつもりだったのに、小春にはとっくにバレていたらしい。

「だからね、相模君と話をした。結子と相模君は一度話し合うべきだと思ったから。


…あのね、結子は相模君のことを誤解してる。落ち着いて現状を見ることができたらきっと、それが解ったはずなのに。全てから目を背けて逃げたから肝心な大切なことを見落とした」

その言葉に私は顔を上げ、小春の顔を見た。

「どうして、そう言えるの?壮ちゃんと由亜は両想いで」

お互いを大切にしていた。私が入る隙間なんか無かった。

「それが間違いの元なの。根本的に結子は勘違いしてる」

そう告げた彼女の目は真剣で、確信を持っているように見えた。


どうして?


何が違うというの?



今まで積み上げてきたものが足元から崩れていくような心もとない感覚に、何もかもが揺らぐ。

そんな私の不安は小春に伝わったらしく、彼女は私の左手を両手で包み込むと優しく微笑んだ。

「結子が歩いてきた道は決して利口なものではないけれど、間違いでもないの。そのお陰で私は結子と出会えた。だから後悔はしてほしくない。

でもね、結子は闇の中ではなくて光の中で生きるべきだと思う。私やユウさんたちを照らしてくれた輝きは、太陽の下でより強い輝きを放つはずだから」

だから、そろそろ夢から覚めなきゃいけないの。

「小春…」

「私たちの可愛い眠り姫は、王子様の迎えを待てずに逃げ出しちゃったけれど、王子様はそんなお姫様を捕まえにようやく来たみたいだしね」

ウインクをした小春の顔をポカンと口を開けて見つめた私の顔は相当間抜けだったらしい。ぷっと噴き出して彼女は私の頬を柔くつねる。

「そんな顔しない。私はずっと結子の親友だし、その座は譲らないわ。…でも、これが良い機会だと思うの。結子はもっと自分の魅力を知るべきね。

逃がしたお姫様に求愛する王子様がたくさんいるから、焦ってるのは分かるけど…彼は少しせっかちさんね」

顎をくいっと上げた小春にハッとして後ろを振り返れば、壮ちゃんと由亜の姿があった。





「結子!ごめんなさい!!」

ベンチに隣同士で座った私と由亜、その向かいに壮ちゃんが立った状態で、居心地の悪さに腰を上げかけた私はそのまま固まることになった。因みに壮ちゃんと由亜は学校が創立記念日で休みらしい。仮病の私とは雲泥の差だ。

「ごめんなさい!私、結子を壮介君に取られたくなくて、意地悪言ったの」



…え?



衝撃の懺悔に私の頭の中は文字通り真っ白になる。

「私にとって結子は大事な友達なの。大事で大好きで…壮介君になんか取られたくなかった」

由亜の話はこうだ。

由亜は私が大好きで独り占めしたい。でも壮ちゃんが私の隣にいてそれができない。挙げ句に私が壮ちゃんを好きになってしまったものだから、腹立たしかったらしい。壮ちゃんと私がくっつくなんて嫌だ。と思っていたけど私が逃げ出したものだから、ショックだった。壮ちゃんは私を必死で捜してるから、私が落ちるのは時間の問題だと。…それで暴走した結果が件の「壮介君を解放して」発言らしい。それまで会いに来られなかったのは単純に私の居場所を壮ちゃんに知られたくなかったのと、もしかしたら私が逃げたのが由亜を嫌いになったからかもしれないと不安で怖くて真実を見たくなかったからだと由亜は話した。私も由亜も、早くお互いの質問をぶつけていればこんな誤解はなかったはずなのに。変なところは似た者同士だ。

「結子は誤解してたけど、私と壮介君はライバルなの」

ケロッとした顔で宣った由亜はジロリと壮ちゃんを見た。

対して壮ちゃんの方も冷たく応対する。

「あぁ、俺も由亜も友達以上なんて有り得ない。それに由亜の好きな奴は俺の腹違いの兄貴だからな、お互いに対象外だ」

「当たり前でしょ。竜己さんは壮介君と違って、もっと素直だし熱血で可愛いもの」

「兄貴と似てなくて悪かったな。でも由亜はあと2年は経たないと兄貴の対象外だ。教員が高校生に手を出すわけないだろう。相手にされなくて残念だったな」

今まで二人とも私の前では猫を被っていたのだろうか。それとも私が気づかなかっただけか。テンポのよい会話には毒が含まれていて、互いの視線が混ざり合いバチバチと火花が散っている。…熱い眼差しって感じてたのは、二人の間で燃え上がる争いの火だったのかもしれない。

脱力感を覚えながらも、私はふと浮かんだ疑問を口にする。

「あの…竜己さんって、もしかして脇田竜己先生?桜野高校の」

話を聞けば聞くほど脇田先生にしか思えなくなる。

壮ちゃんは由亜から目を放して私を見ると、あっさり頷いた。

「そうだよ。結子の担任だろ。兄貴が言ってた」

「……壮ちゃんと脇田先生が兄弟、ねぇ…」

見た目から性格まで何もかも似ていないから気づきもしなかった。なんだか世間は狭いと思ってしまう。

「ずっと前から兄貴に結子の話は聞いていたんだ」

ポツリと壮ちゃんが呟く。

「頭が良くてすごく綺麗で、気ままな猫のような子がいるって。俺の中の結子は頭が良いけどどこか抜けてて、綺麗というより可愛くて、責任感が強い女の子だったから。最初は同一人物なんて思ってもみなかったんだ」

化粧を顔に施した私は確かに別人だし、怠惰な生活に身を投じていたから中学までの私と同一人物だと気づけたら、それはそれですごいと思う。

妙な所で納得していた私に、由亜が頬を膨らませる。

「結子ズルい。毎日竜己さんに愛されてるなんて」

「え〜っと…それは何だか語弊があるような…」

愛されてるどころか、まさか苛立ち紛れに脇田先生を口説きました、とは言えない。今更ながら脇田先生の懸命な対処に感謝した。もし間違って脇田先生と寝たなんてことになったら、はたまたお付き合いしてたら、冗談抜きに友達と好きな人の両方を失っていた。

真冬なのに汗が滲む。

「で、話は戻すけど。俺が結子を見つけたのは兄貴の話のお陰だ。…その後は想像がつくと思うが、兄貴に全てを説明して協力してもらった。結子の現状や何で桜野高を選んだのか、探ってほしいとお願いした」

「なるほど、それで…」

道理でこの前、爽やか青年の脇田先生にしてはしつこく食い下がってきたわけだ。要は歳の離れた可愛い弟のお願いを叶えてあげるため。…まぁ、あの先生はそれだけじゃなくて本当に心配してくれていたけど。

「兄貴は結局、結子から聞けなかったと言っていた。



ずっと聞きたかった。結子は何で俺たちから逃げたんだ?」



…ついに来た。



勘違いだけで突っ走った私の愚行を二人に話す時が来た。



コクりと喉を鳴らす。


「あの…」


そこからのことは聞かないでほしい。真実を知った壮ちゃんと由亜に酷く呆れられ、穴が入ったら入りたいと切に願ったのは言うまでもない。

…それと、壮ちゃんへの気持ちについては話せなかった。中学までの私なら、間違いなく壮ちゃんだけを見ていたけど今は違う。私の世界は広がって様々な人に出会い、様々な感情に触れている今、簡単に結論を出すことなどできない。でも、この先やっぱり壮ちゃんが一番だと思える日が来たら、今度は私から気持ちを伝えたい。だからそれまではまだ悩んで迷っていくつもり。





モテる女は大変だ…


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