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青春怪異譚  作者: ルカ
惑い月夜の神隠し
7/10

それは一体誰の神隠し?





誰もいない、暗い神社を、ただひたすらに歩く。時刻は既に日付が変わり、丑三つ時が近づいてきている。こちらと、あちら。つまり、現実の世界と、異界と呼ばれる世界では、時間の流れ方が違う。僕があの女に連れ去られていた時間からして、この時間はおかしい。けれど、あそこは異界だ。時間の流れ方の異なる世界、故に、まんまと彼らにとって、一番都合のいい時間帯に、こちらへと戻されたわけだ。濃密な夜の気配が蔓延し、僕の周りを覆い隠す。霞む視界に苛立ちを隠さず、腕を振るって木の幹を殴り付けた。



「…っくそ、やられた…!」



オマケに、遠野達は未だ行方不明。完全に奴らに、いいようにされている。諦めるな、考えろ、思考を止めるな、必ずどこかに活路はある。参道を歩いていれば、ふと見つけた手水舎で、これ幸いと咥内に残って粘つく血塊をすすぐ。べたついた赤色が水に流され、石に赤い染みを作った。あの女が垂れ流した血潮なんて、さっさと洗い流してしまいたい。



「……」



そこで、ふと、気がついた。今、僕はこの水で、女の血を洗い流している。あまりにも『当たり前』すぎて、忘れていた。否、気がつかなかった。だって、そう、おかしいじゃないか。悪霊が垂れ流す血潮を浴びたのに、ただの水で、完全にそれが洗い流せるなんて、『有り得ない』。じっと、揺らめく水面に映る、まばゆい月を見つめる。それは明鏡止水、神社という結界の中、自然に清められた清水だ。


なるほどね、なんて、うっそうとした笑みと共に、噛み殺し切れなかった笑気を唇から零す。柄杓を手に取り、そこにたっぷりと水を掬って、そうして、手始めに、自分の手のひらへと水をかけてみる。さらさらと水は指先を伝って滴り、地面へと水溜りを作り出す。その水溜りは、僕の手には血など付いていないというのに、傷口を洗い流したかのように赤かった。それは、僕の身体が、あの女の影響で、霊障のような状態になっていることの証であり、また、ここの水が、僕の穢れた身体を清めるという、確固とした事実の証明である。なるほど、どうやらこれは、お神酒と似た効果があるらしい。ならば、これを、使わない手はない。再び柄杓に水をすくい、今度はそれを、頭から勢いよく浴びせかけた。真っ赤に染まった血の水が、僕の周りに飛沫を飛ばす。何度も何度もそれを繰り返し、真っ赤だった水が徐々に色を薄め、やがて自然な状態である、真透明になったところで、僕はようやく柄杓を置いた。完全ではないが、これで先ほど血を浴びて受けた霊障は、改善されたはずだ。何か入れ物があれば、この水を拝借していけるのだが、生憎と何の手持ちもないことが悔やまれる。周囲を見渡しても、何か水を入れられそうなものは見当たらない。仕方ないか、と、小さく嘆息し、もう一度だけ手水舎から水を浴びておく。簡易的な浄化は出来たが、霊障でなく直接あれらに相対した場合、どこまで効くのかは定かではないし、どれだけ効力が持つかも解らない。だが、まぁ、しないよりはマシだろう。濡れた髪の先から水滴が伝い、ぽたり、地面に落ちた。びしょ濡れになったシャツが肌に張り付いて、不快な感覚が纏わり付く。これで、霊障の方は問題ない。後は、いなくなってしまった残りの四人のことだ。何の知識も力もない人間が相対するには、あの女は少しばかり、憎悪が強すぎる。



「……落ち着け、考えろ。どこかにあちらへの綻びがある、入口を見つけてしまえば、向こうへ行ける。『僕』なら、行ける。…考えろ」



そうだ、僕なら、『僕』であれば、入口があれば、綻びを見つければ、無条件で向こう側へと行ける。『僕』は『そういう存在』だ。噛み切った指先が脈動する。自分に言い聞かせるように叱咤しながら、くまなく境内の中を見て回る。どこかに異常はないか、どこかに入口が、綻びが無いか。何でもいい、何か、僅かな痕跡でも拾えれば、それで道は繋がる。こういったものは、知覚することが大事なのだ。そこに在るものを、正しく在ると認識することにより、怪異は実態を持って現れる。逆に言えば、認識出来なければ、気付かなければ、それは其処にありはしない。知覚しなければ、怪異は其処には存在しない。『それ』が、怪異の第一発動条件。…そういえば。そうだ、確か、あの時、学校で肝試しの話をした時に、何かが聞こえなかったか。細い女の声で、聞こえた歌は、あれは。



「……とおりゃんせ、」



そうだ、あれは、とおりゃんせ。有名な童謡だ、都市伝説にもなるような、歌詞が謎を呼ぶ民謡。思い出せ、全ての歌詞を、あれは何と歌っていた?天神様の細道、待て、天神様は、どこかで聞き覚えがある。どこだ、思い出せ、早く、早く。僕は、どこかで聞いたはずだ。



「……小さい方の神社」



思い出した。そうだ、小さい方と呼ばれる街中の神社は、確か天神様を祀っていた。境内の神域を守り、入口となる鳥居は、時に異界への入口となる。あそこだ、もう一つの神社だ。そしてキーワードは、とおりゃんせ。歌詞を思い出せ、全ての歌詞を。とおりゃんせ、天神様、細道、用のないものは通さない、そして。行きはよいよい、帰りは怖い。入るのは簡単で、出るのは難しい。無意識に唇を開き、自然と零れた声が、童謡を紡ぐ。思い出した、あの歌の歌詞は。





通りゃんせ 通りゃんせ

ここはどこの 細通じゃ

天神さまの 細道じゃ

ちっと通して 下しゃんせ

御用のないもの 通しゃせぬ


この子の七つの お祝いに

お札を納めに まいります

行きはよいよい 帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ 通りゃんせ






うふふ。


『神隠し』、みーつけた。






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青春/ホラー/恋愛/残酷描写有り/学園
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