美色ちゃんの奮闘
「あんた。こういうのが好きなの?」
砂彩が俺に蔑むような視線を向けながら言う。
ああなるほど……多方、あのメイド喫茶で、東屋にスクール水着を着せられ、泣いてここまで逃げてきたのか……
「なんか、体にピッタリなんですよ……どこで私の体のサイズを知ったんですか……」
愚痴る美色ちゃん。自分の体のサイズを他人に知られているなんて、おぞましいものがある。
しかし、それの場合は、美色ちゃんのサイズを元にして作ったものではない。
「それは架成が作ったらしい。元々魅成に着せるために作ったものだから合うんじゃないか? 二人は、大体体格が一緒だし」
「そうなんですか……さっきから、胸の部分だけはちょっとキツイなぁ……って思っていたんです」
身長体格でまったく同じくらいの二人だが、胸の大きさでは、美色ちゃんに分があるのか……
それは、魅成が聞いたら怒りそうだな。
『おのれー、美色ー、呪ってやるー』とか言いながら、真夜中に藁人形を五寸釘で打っている魅成の姿が、今から想像できる。
「まさか、あの子だってそんな事でそこまでしないでしょう?」
ククッ……と笑いながら言う砂彩。
「あの……何か着るものを貸してくれませんか?」
美色ちゃんが言ってきた。
「着ぐるみを貸してあげようか?」
砂彩がサラリと言う。着ぐるみって結構高いものではなかったか?
「いいのか? 貸してしまって」
「まあ、私も少し休憩をしようとしていた所だしね。教室までジャージを取りに行く間だけ貸せばいいんでしょう?」
砂彩がそう言うと、俺に背中を向けてきた。
「ホラ、背中のチャックを降ろして」
俺は砂彩に言われるまま、背中のチャックを降ろしていく。
「女の子の着ているものを脱がせるなんて、初めての経験です。緊張をしている慶次君でした」
「変なモノローグを付けるな」
ククッ……といった感じで小さく笑った砂彩。
人をダシに使って笑っているんじゃない……
「いえ、下の方まで借りなくていいです」
その最中に、美色ちゃんが言い出した。
「顔さえ隠せればいいです」
つまりは、頭にかぶるお面だけがほしいという事だ。砂彩が、美色ちゃんに、バンニップの頭を渡すと、美色ちゃんはそれをかぶる。
「ありがとうございます。すぐに返しますね」
そう言い、俺達に頭を下げた美色ちゃん。
「前が見にくいです」
そう言いながら、ヨロヨロした足取りで歩いていった。
「あのほうが恥ずかしくないか……」
舌をダラリと垂らした一つ目の怪物の頭を持ち、下はスクール水着を着た、いびつな姿がヨロヨロしながら歩いている。
「ネットにアップをされない事を願うわ」
渋い顔をした砂彩も、それを見てポツリとつぶやいた。




