魅成は隣のクラスにいた
あれから、俺が教室を出ると、魅成がCクラスの前に居るのが見えた。
あれ? おかしいな……魅成のクラスはC組だったっけ?
魅成は俺に気付き、俺の方に向けて歩いてきた。
「今、何か考えた?」
「なんだそれは! 『今、何か言った?』みたいに言うんじゃない!」
魅成が俺の頭の中を読む秘密に、少しだけ近づいたと思ったのだが、これは想定外だ。俺が、見空の頭の中を見抜いた時のように、表情を見て判断をしている。という、わけではないらしい。
「お前のクラスってCだったのか?」
「私のクラスはBだよ。Cで、お化け屋敷をするから、演出をするんだ」
魅成は自分のクラスの出し物には参加をしないようである。
「自分のクラスの出し物なんて、どうでもいい。こっちの方が何倍も面白いもん」
「そう言うなよ……」
自分のクラスの出し物に出たほうがいいのは絶対だ。ばつが悪そうにして顔を逸らした魅成は、小さな声で答えた。
それから、取り繕うようにして、魅成が言い出す。
「あんなカッコして楽しむなんて、私の性に合わない」
「お着替えってのは、女の子はみんな楽しいもんなんじゃないのか?」
そういうと、魅成はジトリとした目で俺の事を見上げてきた。
「馬鹿にしてるの?」
フン……といった感じで、鼻を鳴らした魅成。
「人の価値は着ている服なんかじゃ、計れないものだよ。一番重要なのは、その人の中に宿っている魂なの」
心霊同好会の人間らしい物言いをしだす魅成。
「エプロンドレスを着るよりも、着物の着付けでも学んだほうが、よっぽどためになるはずだよ。文化祭っていっても、学業の延長なんだから、そういう事も考えないと」
なんか、さっきの砂彩みたいに立派な事を言い出すようになってきた……本当に砂彩みたいに……
「着物だったら……胸がちっちゃくても似合うし……」
ん? 魅成が、なんか小さな声で言い出したぞ……
胸を強調するような服装のメイド服を着た女子が、ふと魅成の教室の方から見えた。
あれか……あれを魅成が着るのはキツすぎるな……
「架名なんて、『私が着るため』とかいってスクール水着を用意してきて……」
「架名は相変わらず元気だな……」
「しかも、『手作り』だとか言い出すし、血の染み、みたいな跡が残っていたし……」
それを聞くと、俺の脳裏に架名の姿が浮かんだ。
夜中にしこしこと縫い物をしている架名は、魅成がこれを着た時の事を考えて、うっとりしながら鼻血をボタボタと垂らす。その血の飛沫がそのスクール水着の生地に飛んだのだ。
「架名がああいうのだってのは知ってたけど……さすがに私もドン引きだよ……」
魅成ですら軽蔑をするレベルとは……架名の趣味もヒドいもんだ……
「自分のクラスの出し物を無視するのはマズいだろう……」
俺が言うと、魅名はグイッと俺に顔を近づけた。
「それは、私にスクール水着でウエイトレスをしろって言っているの? 鼻血の染みを付けて……」
これが、魅成の怒った表情なのだろう。
暗い影を纏ったような、ジトリとした目で、俺の事をにらみあげてくる。小柄な魅成ながらも、凄みのある表情だ。
「俺が言っているのは、余所のクラスに入って、やる事を口出しするとなれば、ある程度結果がついてこないと、後からマズくなるんじゃないかと……」
同好会の存続の事だってある。
この文化祭で成果を見せなければ同好会は廃部になる。お化け屋敷の演出となれば、心霊同好会の成果として考えられないこともないだろう。
だが、根本的な話として、上手くいくのだろうか?
「なら、見せてあげるよ。私も自信があるんだ」
そう言い、手招きをして自習室にまで俺を招き入れた。




