俺達の成果
十月に入り、文化祭の日が迫ってきた。最近は、十月になっても十分暑いし、木の葉だって、十分に青いままで生い茂っている。
秋の足音など、まったく感じないこの日には、部室には同好会のメンバーが揃っていなかった。
ここに居るのは俺と砂彩くらいだ。後ろにある段ボールの中には、いくつもの編みぐるみが入っている。
部費を使って毛糸を買い、器用な様子で怪獣を作っていた。
「見空と魅成は何をやっているんだろうな……」
ここに顔を出さない魅成と見空は、学校で顔を見ても、忙しくしていて声をかけられるような状態ではなかった。
そうすると、砂彩は、編み物をする手を止めて、ジトリ……と俺の事を見つめ出した。
「何もしていないのはあんただけよ」
それを言われるとキツい……
だが、けんだまを使って出し物をしろなんて、どうしろと……?
「それを考えるために、部室に残っているんでしょう? 余計な事を考えていないで、いいアイデアを出しなさい」
余計な事を考えていると読まれるか……
まあ、真面目に考えるとしよう。
新技を考えて、それを披露するとかどうだろう……
「けんだまなんて、カンカンやっているだけでしょう? 見ても面白いの?」
またも、頭の中を読んで意見をしてくる砂彩。
だが、けんだまの技といっても侮ってはいけない。繊細な力加減に、玉の動きを見切るカンなどが必要になる難しい技なのだ。職人芸と言ってもいい。
「『裏でどんだけ努力した』とか、『これはどんだけ難しい技か?』とかなんて、見る側には関係ないわよ。面白いかどうか? 人を楽しませられるか? それが一番重要でしょう? 出来上がったものが全てのはずよ」
厳しい事を仰ります……
だがそれは事実だ。けん玉をカンカンやっているところを校長達が見たとして、地味でつまらないものであると感じられたらそれまで。
「人を楽しませるというのは、本気じゃないとできないの。『自分も楽しんで、人も楽しませる』事のできる人間なんてひとにぎりなのよ」
もういい……やめてくれ。頭が痛くなってきそうだ。
「裏技や楽な方法を使って、目的を達成させようとするから、上手くいかないのよ。もっと苦しくて、それでも確実に成功をさせることのできる方法は、他にあるはずよ」
砂彩……お前に誰かが乗り移っているのか? どこかの社長か何かの格言みたいな事を言い始めたぞ……
「例えば、目の前で地道に編み物をしてがんばっている人がいるでしょう? その人の前に、冷たい麦茶を出してあげたり、肩もみでもして疲れを取ってあげたり……」
前言撤回……
砂彩は、どこまでいっても砂彩だった。
「肩もみやお茶だしで、新しい道が開けてくればいいんだがな」
「五里霧中のあんたが何を言っているのよ? 自分の道を見つけるのが無理なら、人の道を助けなさい」
「お前以外の奴を助けに行ってくるよ」
俺だって、そんな事を言われて素直の砂彩の手伝いを始めたりなんかしたくない。
魅成か? それとも見空か? その二人を探して手伝ってくればいいかもしれない。
「二人のことを見たら、どんな様子か、私にも教えてね」
最初からこのつもりだった、みたいな言い方で言い出すな……
幾分、納得のいかない感じであるものの、俺は部室を出て行く。
ドアを閉める直前に、後ろを振り返り、砂彩の様子を見てみると、黙々とぬいぐるみを編んでいた。




