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上級生と一緒にカラオケ

「ヨシ君。今度カラオケに付き合ってくれないかな? 男の子を一人連れてくるように言われているんだよね」

 仕切り直した奏多先輩は、俺に向けて言ってきた。

 カラオケか……奏多先輩の頼みだっていうんだったら行ってもいいかな……

「待ってください! 慶次は私が誘おうと思っているのですよ!」

 奏多先輩に向けて言う見空。どうやら、そのカラオケには見空も同席をするらしい。

「おや? その様子だと、まだ誘っていないようだね」

 しめた……とばかりにニヤリと笑った奏多先輩は俺に顔を近づけてきた。

 まるで、見空に見せつけるようにして、わざと俺に顔と近づける奏多先輩。普段はこんな事までしないくせに、意外に意地悪なところもあるらしいな。

「ここで、『見空なんかより奏多先輩と一緒に行きたい』って言ったら、チューしてあげてもいいよ」

 「んー……」と言って唇を突き出してくる奏多先輩。

 この人も、こうやって悪フザけをする人だったのか……? 普段は軽い態度でも、こういうフザけた事はしない人だと思っていたが……

 俺は横目で恨めしそうにしてこっちの事を見る、見空を見る。

 なんかヤバそうな雰囲気だなぁ……事情は知らないけど……

「奏多なんかより、美空先輩と一緒に行きたい」

 目の前の、奏多先輩の顔が、キョトンとした顔になった。

 横目で見ると、見空も同じような顔をしている。

「何があったのか知らないけど、見空の事をからかうための、ダシに使うのはやめてくれませんか?」

 俺が目の前の奏多先輩に向けて言うと、苦笑いをした奏多先輩が、頭を掻きながら言う。

「別に、そんなに深い意味は無いんだけどね」

 まあ、本人にとっては、そこまでの意味はないかもしれない。

 俺も美色ちゃんと同じようなやりとりをした事があるが、美色ちゃんも似たような気分だっただろう。

 本人にとっては伝える必要もないような小さなことでも、隠されると気になるものだ。

「東屋の奴でも誘ってみてはどうでしょうか? 生徒会長を連れてきたんだったら、十分自慢できるんじゃないですか?」

「ささ君は、あれで結構人見知りするからねー。連れていくのも、なんかかわいそうだと思ってさー」

「まあ、あいつにもいい経験になるでしょう」

 俺が無責任に突き放すような言葉を言うのを聞いて、クスクスと笑った奏多先輩。

「まったく君は、意外と薄情ものなんだね。前々からささ君よりも君に生徒会長になって欲しいと思っていたけど、これは見立て違いかな?」

「なれるなら、なってもいいかもしれません」

 奏多先輩の悪い冗談に、俺は適当に相槌を返しておいた。


 嵐のようにやってきた奏多先輩は、去る時も、疾風のように去っていった。

 俺をはじめ、魅成と砂彩も唖然としてその姿を見送る。バタン……とドアが締められた後、微妙な空気が流れた。

「慶次……あんた行くの?」

 じっとりとした目で聞いてくる砂彩。

「それは見空に聞いてみないとな……」

 奏多先輩とはもう話はつけたものの、見空から話は聞いていない。それに、ここでひとつ返事で「もちろん行く」などと答えようならば、何か良くない事がおこりそうな予感もしていた。

 俺の危険感知の能力は、日々鍛えられているようである。

 見空は、俺から顔を逸らしていた。

「奏多と行けば良かったんですよ」

 俺とは目を合わせずにそう言う。

 どうも、今までのやりとりが見空にとって気に入らなかったようである。どこが気に入らなかったのか……? 奏多先輩の誘いを断ったのが、同情をしたとでも思われたのか……?

「見空。『待ってください! 慶次は私が誘おうと思っているのですよ!』って、言っていたじゃない」

 魅成が言うが、見空は顔を逸らしたままだった。

「慶次! 私たちもカラオケに行くわよ!」

 いきなり言い出す砂彩。

「部費はいくら残ってる?」

 こいつは、部費を使ってカラオケで遊ぶつもりか……? バレたら怒られるんじゃないか?

「私たちのカラオケだって、部費の余りを出し合って行くんです。適当に計上すればバレないですよ。なんたって、生徒会の書記だってグルなんですから」

 見空が言う。

 奏多先輩も、そこまでうるさい人じゃないから、先にことづけをしておけばいい感じだろう。

「決まったわね! 今日の夕方にカラオケに集合よ!」

 砂彩の一言で全てが決まり、夕方にはカラオケに行くことになった。

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