幕間
砂彩は池をのぞき込んだ。
幼い手を池の中に入れると、肘までずっぽりとはまって、ようやく手が水底に付く。ドロが舞い上がり、水が汚れる様子を、当時まだ小学校の低学年であった砂彩は見つめていた。
そのドロの舞い上がった部分の横を、一匹の魚が横切っていった。
それをつかみとろうとした幼い砂彩は、身を乗り出していった。
足を滑らせた砂彩は、ドボンと池に落ちていく。
目を開けた砂彩は、目の前の光景に驚いて目を大きく開いた。
澄んだ水で満たされた広い空間。ずっと先まで続く、青色の水の世界。
眼前には竜の顔があったのだ。
厳つい顔をしており、口を開くと肉食獣のような歯が並んでいるのが見えた。だがそれを見ても、幼い砂彩は恐怖など感じず、人を慈しむような、優しい目に惹かれて、それを見つめ返した。
水の中で、ゆらめく髭に触れるとサラサラした感触を感じた。
砂彩がさらに手を伸ばし、竜のウロコに覆われた頬に触れる。意外になめかな手触りをしており、ほんのり温かみを感じる。そこで、砂彩の意識はとぎれていった。
目を開くと、眼前にくろずんだ祠が目に入った。
体中びっしょりと濡れ、髪からも水滴がポタポタと落ちていく。
その砂彩は、自分の手を見つめた。
手に残った、優しい感触を思い出す。優しい目をした、厳つい顔を思い出すと、じんわりと心が温かくなってくるのだ。




