料理大会はどうなった……
それから、事態は思いもよらない方向に向かっていく。あれから時間が経ち、料理がほとんど完成した頃の事だ。
俺が審査をするという話はどうなった……
砂彩と見空は、お互いの料理の食べ比べを始め、甲乙を付けるために口論を始めている。
「あんたの料理は、味付けがくどすぎるのよ!」
「あなたの料理なんて誰でも作れるものではありませんか? ルーの箱の裏に書かれている通りに作っただけでしょう!」
お互いに相手の料理を食べながら、粗探しをしている状態だ。
多分、俺が食う分が残るとは思えない。
「私の分も食べて」
そう言い、魅成が二人の間に自分の作った親子丼を出した。
卵は見事な半熟で、色も綺麗な黄色をしたままだ。それに三つ葉も乗せられて、まるで、カタログに乗っている見本のような出来であった。
それを見て、気怖をされたようにして、後ろに下がった二人。
「も……問題は味よね……」
「そうですね! 見た目だけでは料理と言えません!」
そう言い、箸をつける。
「お米にも味が染み込むようにしてる。タマネギもしっかり炒めているし、調味料のブレンドも私のオリジナル」
魅成がウンチクを言い始める。それを聞きながら、無言で箸を動かす砂彩と見空。
食いてぇ……だけど、ここで食いに行ったら絶対魅成に怒られる。さっきから、俺の方を何度も確認して、『こっちに来るな』とサインを送っているのだ。
俺は指をくわえて見ているしかない。
砂彩と見空がおとなしく魅成の親子丼を食べているのを見て、二人に隠れて歩いていく魅成。
おもむろに、魅成は残り少ない砂彩のカレーと見空のオムライスを一気に口の中に押し込んでしまった。
「あっ……! 慶次に食べさせる分だけは取っておいたのに!」
「これでは審査をしてもらえないです!」
あ……なんだかんだいっても、あの二人は考えていたんだ……多分俺の分は残らないとか、二人には悪いことを考えていたな。
「二人とも美味しい。私の判定では引き分け」
魅成が言うと、二人はぐっ……と言葉を詰まらせる。
こんな完璧な料理を作る魅成にそう言われては、引き下がるしかない。砂彩も見空も、傍若無人に見えて、引くべき一線を心得ているようだ。
ここで、下手にゴネ始めても恥をかくだけだろう。
「私の分はそれで全部だから、お兄ちゃんに審査をしてもらえないよ」
砂彩と見空が全部食べてしまい、空になってしまった親子丼の丼を見て言う。
「この勝負は引き分け」
魅成の小さな声は、その小さな声に似合わないくらい、よく通る声音で調理実習室に響きわたった。
「これからみんなで仲良くしよう」
二人の事を見上げながら言った魅成。
「まあいいわ……こうなっちゃしょうがないものね……」
「仕切り直しするのにも部費をまた使いますからね」
二人揃って、悔しそうでもあり、だからといって嬉しそうにも見えるような、微妙な表情をしながら言った。




