龍の池
スーパーを出た後、買い物袋を持った砂彩についていった。
「なんでついてくるのよ」
「ここまでひっぱって来ておいて何を?」
スーパーを出てから、いきなり俺の事を邪魔にし始めた。
「これから行くのは、面白い場所じゃないわよ」
砂彩は、これから、面白そうな場所に行くような事を言い出す。
『面白い場所じゃない』と砂彩が言うが、一体どのような場所なのだろうか? それを考えると、楽しくなってくる。
「ここはなんだ?」
「だから言ったでしょう? 面白い場所じゃないって」
ここは、どぶの水たまりのような池が、隣にある場所である。淀んだ水の底には、泥が見える。まるで、ナマズでも棲んでいそうな様子だ。
俺が池に手を入れると、すぐにドロに手が届き、土が浮かんで水が濁っていく。
黒ずんだ賽銭箱が前に置かれた古い祠の前で、砂彩が手を合わせていた。
横目で俺の方を見た砂彩は、俺の事を面倒そうにしながら見た。
まあ、その年で神様に手を合わせている所を見られるのは恥ずかしいだろうな。そんな事は本来、じいさんや、ばあさんのやる事だ。
「ここにはどんな神さんがいるんだ?」
そう聞きながら、俺は近くにある看板をのぞき込みながら聞いた。
「竜よ。緑色の竜」
看板の中には、この祠の由来が書かれていた。
この池には竜が棲んでおり、干ばつの時に雨を降らせた。そういった感じの、よくある昔話だ。
「怖い顔をしているけど、目は優しいの。触ってみるとツルツルしていて、それであったかくて……」
「この看板にはそんな事書いてないぞ」
由来の書かれた看板には、竜の色なんて書いていない。もちろん、竜を触ったときの手触りなんて、まったくふれていない。
「別に……なんでもない」
そう言うと、俺に背を向けて行ってしまう。
「今度は家に帰るからね! ついてくるんじゃないわよ!」
砂彩がそう言っているし、俺も家まで追い回す趣味は無いのでそこで別れていった。




