空を見る見空
見空は、望遠鏡を使って空を眺めていた。
何の迷いもなく望遠鏡を傾ける。まるで、どこに望遠鏡を向ければ、何が見えるのか、分かっているかのようであった。
ここは、階段を登った先にある、山の頂上の小屋であった。
普段は山登りにやってきた人達が休むための場所のようで、椅子が並べられ、その上に屋根を取り付けられただけの簡素な作りである。
そこで、つまらなそうにして望遠鏡を空に向けている見空。
階段を上ると、それを見つけた俺。ぼう……としている見空に声をかけた。
「こんなところで何をしているんだ?」
望遠鏡から目を離し、気だるそうにして俺の声に反応した見空。
「別に……私は地面の上の写真を撮るよりも、空の写真を撮る方が合っているってだけです」
確かにそうなのだろう。見空は、元々UFO同好会の人間だ。
「何を見ていたんだ?」
「天体を……」
素っ気なく返す見空。
「ちょっと見せてみろよ」
俺は興味本位で聞いてみた。そうすると、見空は場所を開けて、俺に望遠鏡を覗くように促した。
「見たい天体は何ですか? 今なら火星と土星なら見れますよ」
「金星とかは見れないのか?」
「金星は、夕方か明け方しか見れません。夜の星は、太陽の反対側の様子が見えているんです。金星は、地球の内側を回っているでしょう?」
だから、金星は明け方に地平線すれすれの位置に見えることがある。だが、昼間になってしまうと、空の青色が邪魔して完全に見えなくなってしまうのだ。
「詳しいんだな……」
「本を読んで、分かる事なら大抵覚えていますよ。伊達に空ばかり見ているわけではないです」
天体の事を話す見空は、どうもつまらなそうである。
自分の好きなことなのだ。もっと生き生きして話してもよさそうなものであると思う。
『キャー! 嫌ー!』
階段の下から声が聞こえてきた。
砂彩の声であると、俺が気付くよりも先に、見空が動いて階段を駆け下りていく。
「何がありましたか! 私が助けに行きますよ!」
いきなり生き生きしだした見空が言う。
「もうお前、UFO同好会やめて、砂彩同好会にでもなっちまえよ!」
俺が見空の後を追いながら言う。
だが、すぐに見空の姿は見えなくなってしまった。




