小学校にいた頃の魅成
小学校に入学したての頃、魅成はいつも死んだ兄の事を思い出しては、泣いていた。
何度もこの現場に通い、兄の残滓を少しでも感じる事ができるようにと考えて、いつも時間を過ごしていたのだ。
それは、いずれ親の耳に届くことになる。
「明後日、隣町に引っ越す事になった」
ある日の朝食で父親にその言葉を言われた。
一年近く、あの場所に通い続けていたのだ。
髪を引っ張られた感覚を感じ、その事で、兄が何かを自分に訴えようとした。だが、今になっても何を伝えようとしてくれたのか? まったく気付く事ができない。
そろそろ、魅成もあの場所に行くのが無駄であるというのは実感し始めていたし、家族からも、あの場所に行くのは危ないと言われていた。
歩道のない道で、車だって通る。単純に暗くなった山道であるという事もある。
あの場所に通うのを止める、いい機会であろう。
そう思い、魅成は小さくコクンと頷いた。
これでこの場所にくるのは最後。
明日に引越しをして、もうここには来れなくなるのだ。車のとおりの少ない道に、魅成はポツンと立っている。
たまに、車が通り、ライトで魅成の姿が照らされるのを見て、運転手が怪訝な顔をして魅成の事を見ているのが見えた。
もう一度だけ会いたい。
最後の一日だというのに、兄は自分に何もメッセージを送ってこない。兄はこんなにも不実な人間であったのだろうか? そう考えると、悲しくなってくる。
自分から、兄に語りかけたい。何かの方法が欲しい。
そう強く思うようになっていったのだ。
「それで、最近にふと見つけた心霊特集の雑誌を見て、心霊同好会を作ろうって思ったんだ」
「死んだお兄さんに会うため……」
俺は、持ってきたカメラを取り出して、おもむろに魅成の事を撮る。俺に昔の事を打ち明けてくれた魅成の事が、俺には可愛く見えていた。
つい、衝動に駆られて撮ってしまったのだ。
「なんで撮ったの?」
俺が写真を撮った事で、顔をむくれさせる魅成。
「写真を撮られるのは嫌いだったか?」
「今は嫌。被写体に許可を取らずにいきなり撮るのはマナー違反だよ」
確かにそうだな……いきなり撮ってしまったのは悪かった。
だが、それでも俺はニヤリと笑った。
「今なら、お兄さんの事が撮れると思ってな」
「心霊写真なんて、撮れるわけないじゃない……」
「お前が言っちゃいかん言葉だろう」
心霊同好会なんてもんを立ち上げている魅成が言う。おかしくなって、俺は吹き出してしまった。
「ちょっと見空の様子を見てくるよ」
俺の事を睨みながら見送る魅成。それが、俺にとっては少し心地よく、かすかに楽しい気分になっていった。




