魅成が地蔵に手を合わせている
その場で待っているのも飽きてきた俺は、周囲の散策に入った。
そうは言えど、ここは完全な山道。数年前に作られた、まだアスファルトの綺麗な道から外れると、木がうっそうと茂る山道である。
そこには一つのお地蔵があった。ポツンと置かれているその地蔵の前に、魅成が屈んでいた。
「これは事故で死んだ人のお地蔵さんなの」
遠くから様子を見ていただけのはずなのに、魅成に気づかれた。
明らかに俺の方を向きながら言っている。
「よく気づいたな……」
「影がかかってた」
魅成が足元を指指す。そこには俺の影が伸びて魅成の足元まで伸びている。
砂彩のライトの光がここまで伸びているのだ。
「ライトの近くは危険だよ。この辺は虫が多いから」
虫……? ライトなんてたいていたら虫が集ってきて大変なことになるだろうな……
「ここの事はよく知っているから」
「心霊スポットだからか?」
どうも、魅成はこの場所の事に詳しすぎる。
もしかして……この地蔵……
「魅成のお兄ちゃんは十一歳だって言っていたか?」
「慶次お兄ちゃん……よく分かったね」
俺の予想は当たりらしい。魅成の兄が十一歳だというのは十一歳で兄が死んでいるという事。死んだ人間は年を取らない。
ここで事故死した人というのは、その魅成の兄なのだろう。そして、魅成の前の地蔵はその兄の慰霊のためにここに置かれたものであるという事。
「お花くらいもってくるべきだった……どうせ、バレちゃったんだし」
俺は魅成の隣にまで歩いていき、地蔵の前に屈んで手を合わせた。
魅成は、その俺の手をギュッ……と握った。
「ここまで知ったんだし、最後まで聞いてくれるよね」
乗りかかった船だ。魅成が言う事を了承した俺は、腰を落ち着けて魅成の話を聞いた。




