話を戻して
「はぁ……はぁ……話を戻すわよ」
息を切らす砂彩。部室の隅には、けたぐり回されてボロボロになった見空がいる状態である。
「そういや、何か意見があるような感じだったな」
俺がそう言うと、髪をかきあげ、自信ありげなドヤ顔をしながら続きを言う砂彩。
「何か大きな成果をあげればいいっていうんだったら、話は簡単よ! かの有名なネス湖のネッシーを捕まえ……」
「却下!」
机を叩いて俺が言う。
「何よ! なんで私の案が即決で却下になるわけ!」
「当たり前だろうが! ネス湖ってどこにあるのか知ってるのか!?」
ネス湖はイギリスにある湖の事である。砂彩は、おそらく場所を知らないだろう。
そこで固まった砂彩。やっぱりこいつは知らないらしい……。
「知ってるわよ! 東京の上野あたりにあるんでしょう!?」
「ねぇよ! ネス湖のネの字もねぇよ! そこにあるのは不忍池だよ!」
「不忍池にも、恐竜がいるかもしれないでしょう!」
「ついには不忍池でUMAを探すなんて言い始めたよ! 不忍池のシノビーなんて見つかればいいけどな!?」
砂彩は……一度言い出すと絶対に引かないな……。
このままだと、話が脱線してまったく別の事を話し出していく。
そして、気づけば無駄な話し合いが始まり、貴重な時間を浪費していく事になるのだ。
「ほうほう、シノビーとは何ですか? 新しい萌キャラですか?」
いつの間にか回復をしていた見空が、メモ帳を持ちながら、ギラついた目で、俺にそんな事を聞いてきた。
だめだ……これじゃ話がまとまらない。
横から服の袖を引っ張られて、俺は魅成の方を見た。『任せて』と言わんばかりに胸を叩くと言い出す。
「近くに、いい心霊スポットがある……」
魅成が言った言葉に、見空と砂彩は目を向けた。
「何よ? そこで幽霊でも撮ろうっての?」
こくり……と小さく頷く魅成。
「電車代は、一人320円。四人でも往復で2560円。部費で行くって考えたらそれくらいが妥当だと思う」
三万円しかない貴重な部費である。ネス湖などにいっていたら絶対に足りない。これは、かなり建設的な意見であると思われる。
ギュッっと俺の制服の袖を掴む魅成。俺は、何事か? と魅成の方を見る。
「幽霊を撮りに行くのはいいとして、そんな物が、絶対に撮れるなんて、保証なんてあるの?」
なるほど……砂彩は自分の意見を棚上げして、いいがかりを付けてくる。それを見越して俺を頼ったのだ。
自分の事を見上げる魅成を、横目に見る俺は、『大丈夫』というのが伝わるようにしてニヤリと笑って目配せをした。
「おまえのネッシーこそ、保証のかけらもないだろうが……」
「何よ! 幽霊なんかと一緒にしないで! UMAは科学でも証明できるものじゃない!」
やはり、砂彩を黙らせるのは不可能。なら、砂彩の天敵を味方につければいい。
「つりばし効果って知ってるか?」
見空に向けて言う俺。
見空はどんどんと顔を赤くして、顔をにやつかせていく。俺には見空が考えている事が、手に取るように分かった。
心霊スポットに砂彩と一緒
↓
『キャー』『こわーい』などと言い合いながら、砂彩が自分に抱きついてくる
↓
その時の経験により、見空と砂彩の仲が深まる
↓
子供誕生
「待ちなさい! いきなり子供誕生って何よ!」
砂彩だって見空の頭の中を読むことができるようだ。見空の襟首を掴んで、ブンブンと振り回し始める。
にへら……と笑った顔をした見空は、それも意に介さずに妄想の中に沈んでいるようだ。
「それでは多数決を取る!」
砂彩に口出しをさせないため、思いっきり大声で言う俺。
「魅成の意見に賛成の者は手をあげるように!」
俺、美空、魅成、が賛成をする。
「私は認めてないわよ!」
最後の最後まで抵抗をして喚き散らす砂彩。
だが、そんなものは効果をなさず、三対一で、魅成の意見が採用されて、今度の土曜日に一緒に心霊スポットに行くことになった。




