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タイトルが物騒になってしまったんですけど、決して残酷な描写はありません。
木々が生い茂っている大きな公園から、歩いて30秒もしない所にひっそりした住宅地。何処にでもあるような単調な家は建ち並んでいない。
荘厳とした趣のある邸。
庭が朽ちかけている錆び付いたボロ家。
コンクリートで囲まれた三階建て。
いつもリードで繋げられた老い先が短そうな犬を飼うお化け屋敷。
そこに並ぶ家に共通しているのは、そこそこの敷地があって、四季折々に花を咲かせる木が植えてあるということと、少し変わった名字を持つ人間が住んでいるということ。
中学生三年の一松桜之は、通学路として毎日通っては、ある家の前で足を止める。
それはいつも爛漫して、草木が生い茂る煉瓦の家だった。
家の全体像がわからないほど、緑がまとわりついているのにも関わらず、不気味さは微塵もない。寧ろ、草木たちは生き生きと光を浴びて、喜んでいるようにさえ桜之には見える。
いかにも童話の世界にありそうで、どの家にも劣らない存在感と独特さがあった。
しかし、それが理由で桜之はいつも足を止めているのではない。
耳をよく澄ますと聴こえる小さな音に、桜之は心を安らかにさせる。優しい風のように清爽で、小鳥が囀ずるように歌う誰か。
今ではこの歌声を聴かなければ学校に行くのが億劫になってしまうほど、桜之は惹かれていた。
この家から歌声が聴こえ初めてから早六年。
桜之の家はもう少し歩いたところにある。通り道というだけであって、ここらへんの近所付き合いは一切ないし、誰が住んでいるのかも全く分からない。
今まではそれでなにも問題はなかった。しかし最近の桜之は、自分の心の変化に気付いた。今のままでは満足できないと。安らぎという感情以外にも、別の感情を抱き始めていることに。
胸の辺りを軽く握る。
その声を聴くだけで、胸が高鳴って、顔が熱くなる。夏だから火照っているのではない。
名前も顔も分からない女性に桜之は恋に落ちていた。