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夢を見た。
目の前には異様に大きな木がある。
一見、桜のように花をつけているが、花の色が水色だった。
ジャパニーズな私には、薄紅色の桜の方がやっぱりしっくり来る。
水色の花は妙に寒々しい印象を受けるのだ。
その木の下で子供たちが遊んでいる。
近づいてみて、様子がおかしいことに気づいた。どの子も真剣な表情で、舞い散る花びらを手から出る風圧で吹き飛ばしている。
???
何それ?さすがは夢。
「ねぇ。何してるの?それどうやってるの?」
一番近くにいた男の子に声をかけると、その子は、こちらが驚くほどびっくりした表情になった。
「え?何?話しかけちゃ駄目だった?」
こんな遊び知らないし、手から風が出せるとか・・・ちょっとかっこいい。漫画や映画の中以外ではお目にかかれない技だ。
「・・・遊んでるわけじゃない。何してるって・・・。大人の癖にそんなことも知らないの?」
どうせ夢だし、もしかしたら、私にも出来るんじゃなかろうか?
私は意外とドリーマーなのだ。
小さな頃は、ほうきに跨って、ストイックに何時間も飛ぶ練習をしたものだ。
絶対飛べると信じきっていた私は、地上でのイメージトレーニングを終えると、積み上げた椅子の上から飛び降りて、足を骨折した。
両親はあきれ果て、やると思ったとぼやいていた。
「それ、私もやってみたい‼ 教えて~。お願いっ。」
夢の中なら、多少のバカをやっても怪我もしないし、安心だ。
手を目の前で合わせて、心からお願いした。
相手が小さすぎて、秘儀の上目遣いが披露できないのが惜しまれる。
「・・・・・・。」
少年の顔が、赤らんでいる!!
「・・・ちょっとだけだぞ。」
「やったぁ~!!ありがと~☆」
それから、ツンデレ少年の横に立ち、木に向かって言われるがまま両手を押し出した。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
何も起きない。
やっぱりな~。
この手の才能はないんだよ~。
「・・・ねぇ。お姉さんは何のために力を使いたいの?」
「・・・へ?」
真剣に問いかけるツンデレ少年の目は見たこともない不思議な色で、まるで寝る前に見た朝焼けをガラス玉の中に閉じ込めたみたいだった。
その恐ろしいほど不思議で美しい目から視線を外せないままツンデレ少年に答えた。
「どういうこと?ただ、私にもできるかな~って思っただけだよ。」
「本当はそうじゃないでしょ?だからここに来たんじゃないの?」
「そうなの?」
「自分のことなのに分からないの?」
「・・・うん。分からない。どうしてここにいるのかな?」
少し泣きそうになった。
さすが夢。私の深層心理を表してるとしか思えないこのやり取り。
強い風が吹いた。
一斉に舞い散る水色の花びら。
「答えが見つかると良いね。」
寂しそうに呟くツンデレ少年が霞んで見えなくなった。
目を覚ました時にはすでに日が沈んでおり、時計の針が9時をさしていた。
なんつー夢を見てんだか。手から何か出せるとか、厨二病かっ!
夢の中とは言え、年甲斐もなくはしゃいでしまった。いやぁ~お恥ずかしい。
そういえば、会社、どうなってるだろう。
本当は、かなり勇気を出してダンディな部長に退職願を出しに行ったのに、結局受け取ってもらえず、3ヶ月間の依願休暇を勧められた。
私の会社の依願休暇は実務では取得できない知識や技術を得ることを目的とした長期休暇で、大学院に通う、ボランティアに参加するなどの理由で今までにも取得者はいた。
ぶっちゃけ休暇理由は、所属している部の部長が認めれば何でもいいのだ。
私の場合は「業務を様々な視点で観るため。」という何とも意味不明な理由になっていた。
・・・会社のこと、考えるのはもうやめよう。
せっかくダンディがくれた休みなんだし、満喫しないと。
念願の二度寝をするぞっ!!
勢いよく、もう一度布団に潜り込んだ。
「・・・・・・・・・。」
何か忘れてないか?
何かあった気がする。
起きたらしようと思ってたことがあったんだけどなぁ。
何だっけ??
「・・・・・・・・・。」
ガバっ!!!!!
音がするほどの勢いで起き上がり、急いでパジャマの袖を捲くった。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ある。
・・・・・・銀の腕輪が。
「なんじゃこりゃ~っ!!」
ど、ど、ど、どうしよう〜。
やぁ〜だぁ〜。
外せるのか?これ、外せるのか?
これってあのスケスケ彫刻の呪いじゃなかろうか?
外したら死ぬ的な。
今朝まで、溶けて消えてしまえばいいとか感傷に浸ってたくせに、死ぬかもしれないとなると、急に命が惜しい。
外したいけど、外して大丈夫かな?
外さないとこの繊細な銀細工を破壊してしまいそうだよ。まぁ、銀っぽいってだけで、銀かどうかは不明だけどね。
そんなこと考えてたら、腕輪が勝手にスルリと抜けて、カランカランと高い音を立てながら、床に転がった。
「ギャーっ!!死ぬ~っ!!!!」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・生きてた。
何だよ~。
脅かすなよ~。
遠い目をしながらはははと乾いた笑いをこぼしていると、腕輪の中が光だし、ホログラムのように映像が映し出された。