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第一話


「では、合格者を発表します。」


東野はごくりと唾を飲み込んだ。

心臓は早鐘のように高鳴り、とめどなく汗が滴り落ちる。

今まで人生でこれだけ緊張したことはなかった。



ある日、公園に寄り道してから家に帰ったあと、突然調査隊選考のメールが届いたときはわが目を疑った。

そして、しばらくの間メールを何度も読み返し、奥底からこみあげてくる喜びに身体を震わせていた。


その後はトントン拍子に面接や書類審査をクリアし、2ヶ月間の地球活動訓練を受けることになった。

今まで受けてきた陸軍の訓練がお遊び程度にしか感じないような位の厳しさだったが、絶対に受かってやるという信念の下、東野は前向きに訓練をこなしていった。


そして、現在。

低酸素領域活動訓練を終了したあと、教官(勿論空軍で階級は少尉)から呼び出しを受けて、普段は立ち入り禁止の小部屋に案内された。

中には東野とともに訓練を受けてきた男女14名がいた。

壁には、黒を背景に真ん中に真っ赤な赤丸から×印に線が出ているような、マーズ共和国の国旗が掲げられている。

その下には地球管理省の役人と教官がいた。

とてつもなく重苦しい空気がこの部屋を支配している。

今この場にいるメンバーが全員地球へ行ける訳ではない。

15人のうち5人は地球行きを諦めなければならないのだ。

無論、ここにいる者誰一人としてそんな事は望んでもいない。

ここまで苦労して積み上げてきたものを無駄にする訳にはいかない。


「では、発表します。

藤原(ふじわら) (さかき)さん。勝浦(かつうら) 怜悧(れいり)さん。イワノフ・イルノビッチ・ロチェフスキーさん。クロエ・ササギさん。ミハイル・ヒューゴさん。麻生(あそう) 智幸(ともゆき)さん」


名前が挙がるたび、安堵と歓喜のため息が聞こえる。

そのたびに東野に焦りと不安が容赦なく襲い掛かる。


まだか、まだなのか。


東野は恨めしげに役人を睨み付ける。


遠坂(とおさか) 林太郎(りんたろう)さん。御禄(みろく) (りん)さん。クラン・ロンドさん」


嗚呼、とうとう最後まで来てしまった。

東野はアドレナリンが過剰分泌されているような、煮えたぎる熱さを感じていた。

駄目だ。諦めるな。最後まで。

目と拳をきつく閉じる。

身体が風が吹く柳の葉のように震える。

無意味とはわかっていても、極度の緊張感と相まって力んだ身体はそう促した。

来る、来る、来る!

合格者は…。


「東野 涼さん。以上の方が地球調査隊メンバーです。おめでとうございます。」


俺だ!俺が?俺だ!キタァァァァッ!!

えも知れぬ安堵、多幸感。

東野は自然と顔がにやけているのも構わず茫然とあふれ出る感情を噛みしめていた。


「以上をもちまして、地球調査隊最終選考を終わりにします。

選ばれた方はここに残って下さい。

残念ながら選ばれなかった方々はここから退出して下さい。」


役人は感情の乏しい声で締めくくった。


そして、部屋に陸軍の迷彩服を着た兵士が4人入ってくると、不合格になってしまった5人を部屋から連れ出していった。


変わりに教官が今まで東野たちに見せたことのない、優しい目で語り掛けた。


「地球調査隊に選ばれた名誉ある諸君、今までよく、厳しい訓練を耐えたな。

今ここにいるのも、諸君の力量と信念あってこそだ。

私はもう、君たちに教えるべきことは全て伝えた。

あとは諸君の、己の信ずるままに行動するのみだ。

地球はこの火星と違い、危険で満ちあふれている。

下手をすれば命を落としかねない。

しかし!諸君たちであれば!必ず全員が無事に帰ってくると、私は信じている!

私はもう二度と地球を見る機会はないだろう。

諸君はその目で、何を見て、何を感じたのか!

無事に帰って、国民全員に伝えてくれ。

地球のありのままの姿をな。

さあ、地球へ行ってこい!」


教官は拳を握りしめ、感極まったのか、涙を滲ませながら最後の檄を飛ばした。


「(まあ、所々でカンペ見てたのバレバレだけどね。)」


東野は退屈そうに欠伸をした。

ふいに啜り泣くような声が聞こえたので、後ろを振り返ると、クランが涙を拭っていた。

それを隣にいる霖が頭を撫でて慰めていた。

端から見れば姉妹のようだ。


「泣くなクランよ!お前は確かに泣き虫だが、度胸は人一倍あるのも知っている!

大丈夫だ!お前には頼もしい仲間がいるではないか!」


教官もそれを見掛けたのか、励ましの言葉をいれる。

東野はそのとき、教官がまた手のひらをチラチラ見ていたのに気が付き、余りの用意周到さに呆れかえった。



そのあと、役人は地球調査隊出発パレードの詳しい日程を言い渡したあと、部屋から出ていった。

その際帰宅許可も出されたため、東野は久々の帰宅に解放感を感じた。


トキオ陸軍基地をあとにし、駐車場へ向かう途中、後ろから二人の男女に声をかけられる。

榊と勝浦だ。

ちなみに二人は東野の同僚である。

「おめでとうございます、東野さん!あんなに緊張したのはサバイバル二週間訓練以来ですよ。」

「全くだ。最後までよばれるまでは正直生きたしなかったよ。」

「そのあと名前呼ばれてすごいにやけてたわね。

正直どん引きしたわよ。」

「うっ、そんなに?」

「あんたってホント顔に出やすい男よね。

将来苦労するわよ。」

「十分苦労してるよ。そういえば、あの教官カンペ見てたよな。」

「すごい手元チラチラ見てましたよね!ホント見てて笑っちゃいそうで!」

「でも、それ聞いて泣いてた娘がいたわね。あの娘って確かどこかで…?」


そんな他愛ない話をしながら、東野は帰路についていった。


遅くなって申し訳ありません。

おそらく一週間に一回ぐらいのペースになると思います。

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