天魔対戦
せめて年内には投稿をしておきたかったので投稿。話の関係上繋ぎ回で申し訳ないのですが、生存報告代わりにでも。
ストーリーとしては佳境ですね。一応あと3話+エピローグを予定しているのですが、そこにたどり着くまでにどれだけかかるものか……
―――まもなく大型侵攻イベント「王都ダールヴァルス奪還」並びに「帝都クロゲルト奪還」を開始いたします。参加プレイヤーは15分以内に所定の拠点での待機をお願いします。繰り返します―――
「はぁー、長かった長かった、ここまでどんだけかかったもんか」
「いやまだ始まってないですからね」
悪魔が侵攻の最初の拠点とした、帝都クロゲルト。大陸でも二つしか存在しない「元」大国の首都は今や悪魔の軍団に占拠され、その禍々しい姿を晒していた。
少しずつ人間の勢力を拡大し、数々の地上種族との交流を経て、時には魔神をも下し、遂に最後の戦いへとたどり着いた。
「敵の戦力は?」
「未だに不明……でもまあとりあえず見えているのは悪魔がいっぱいと貴族悪魔が48ってところ。魔神はいるとしても玉座の間に二柱が限度だろう……だそうです」
「んー……どう攻めたもんかなぁ。前は結構利用してたから内部の構造はそこそこわかるけど、それだけにこの城攻めるの凄いきついってわかってるのが辛いなー」
野営地クラッファ。侵攻戦のスタート拠点となるこの場所の一番大きな天幕で話す二人、名をアレフィオとルマリアと言った。
二人とも名の知れたランカーであり、連日プラチナアリーナで上位争いをしていることもあって、今回の侵攻戦ではリーダーを任されている。
悪魔側に配属されたのは神聖刻印騎士であるアレフィオは属性相性、ルマリアが天使殺しと悪魔殺しの両方のスキルを持つためだ。もう一人も天使殺しは持っているのだが、悪魔殺しを所持していないために対天使側のリーダーとなっている。
「とりあえずは城門を突破と、平行して地下からの侵入を狙うしかありませんね。地下ルートは私が行きます」
「地下ルートはルマリアさんにお任せするとして、地上からは東門……ここから見て正面の門を中心に攻めますんで、第一目標はお互いに東門ですね」
「わかりました。門を開いた後は各個内部の敵を掃討しつつ城内へ突入。魔神を撃破して終了、と」
「戦況が変化した場合は随時対応するので、それまでは各自で対応……まあ大まかにはこんなもんですかね」
「それでは、お互い頑張りましょうね」
「はい、よろしくお願いします」
ガッチリと手を交わした二人は、自分の指揮する部隊の元へと向かう。
開戦のドラが鳴るまで、残り15分。
―――一方、対天使の陣営。王都ダールヴァルスを目の前に控え、こちらでも二人の強者が天幕で頭を付き合わせていた。
「ん、じゃあ確認で。自分は開幕と同時に3割を率いて東門、ノイさんは残りで南門を攻撃。遠距離からの一撃で南門の軍勢を粉砕し、天使軍が対応に追われている間に東門を開放、戦線を維持しつつ徐々に東門に流れ込み、内部を制圧」
「そうですね、敵戦力の中心は七位から十一位天使、ボスは一位天使の可能性が高いとの事で、囲まれなければなんとでもなるでしょうし、イレギュラーさえ入らなきゃ楽勝ですかね」
「フラグ乙」
そう言って笑い合う男二人。名前をノイとグロスといった。
「それじゃお互い頑張りましょうね」
「別にこっちだけで東門を突破しても構わないんですよね?」
「そうなる前に見事南門をぶち壊して見せますとも」
軽口を叩きながらも戦意をみなぎらせ、占拠された城を睨む。
城からは少し離れたこの位置からでも、城壁や城外に展開されている天使の群れは確認できる。今までの小中規模な奪回戦とは訳が違う厳しい戦いを前に、しかし恐れるでもなく緊張するまでもない。
「さて行きますかぁ!」
「よろしくお願いします」
二人の戦士が拳をぶつけ合い、同時に開始五分前のアナウンスが響き渡った。
―――イベント開始から10分後、某社開発室にて
「うーん順調だねぇ」
「ですねぇ、もうちょい雑魚のレベル上げても良かったんじゃないですかこれ?」
「いやそうすると追加がなぁ……」
「まあまあもう始まったものは仕方ないですから、おとなしく見てましょうよ」
スタッフの想像よりもかなり早く侵攻を進めるプレイヤー達を、大量の機器に囲まれたPC画面で見守る開発者達。ちなみに男女比は7:3である。
「おういお前の教え子も立派にリーダーやってるぞ、見に来いよ!」
「もうそろそろそのネタやめてくれませんかね部長……教え子じゃないですって」
部長のからかいに開発室の一角に設置されたVRマシンから一人の女性が声をあげる。彼女ともう一人の開発スタッフはこのイベント内での重要な役割を担っており、今は出番に向けて待機中である。
「両方とも門の開放に成功しました、突入が開始されますね」
「ここまでは予想通りだな、イベントスポットは?」
「天使側が増援2が既に起動、悪魔側はパワーダウン発生しそうですね。肝のイベントはまだ先かと」
「了解、じゃあ二人はダイブ準備始めてくれ」
「「はい!」」
VRマシンが起動し、二人の精神が仮想世界へと埋没していく。別の画面に浮かび上がった二人のデータを横目に見つつ、部長はまた侵攻戦の様子を観察し始めた。
そこからさらに時は立ち、どちらの勢力も城下町に点在する敵戦力はあらかた片付き、ミニイベントも大半が処理され。どちらも最精鋭となるメンバー達が、占拠された王城へと突入を開始していた。
どちらのメンバーも、PVPやイベントで活躍する猛者ばかり。破竹の勢いで城を駆け上がり、驚異的な早さで王の間へとたどり着く。
不必要に巨大な扉の前にメンバーが集まり、一度頷いた所で一気に王の間へと突入する。
そしてそこにいたのは……
―――「王都ダールヴァルス奪還」において、イベント条件「120分以内に王の間へ突入」をクリアしました。これにより勝利条件が変更となります。
―――勝利条件「「戦神マルス」の撃破」→「「廃魔界侯爵グラン・ニルバーナ」の攻撃を一定時間耐える、もしくは「廃魔界侯爵グラン・ニルバーナ」の撃破」
―――このイベント中、「廃魔界侯爵グラン・ニルバーナ」のステータスに-補正がかかります。
―――「帝都クロゲルト奪還」において、イベント条件「120分以内に王の間へ突入」をクリアしました。これにより勝利条件が変更となります。
―――勝利条件「「魔神シャルクス」の撃破」→「「混沌熾天使オルグラリヤ」の攻撃を一定時間耐える、もしくは「混沌熾天使オルグラリヤ」の撃破」
―――このイベント中、「混沌熾天使オルグラリヤ」のステータスに-補正がかかります。
王の間へと突入したグロス達を待っていたのは、明らかに天使陣営ではない禍々しいオーラを纏った美丈夫であった。
「ほう、人間もなかなかやるものだ……初めて抗ってきた時とは大違いだ」
「んな……!」
その姿を認めた瞬間、攻略組に戦慄が走る。
2本の巻き角、要所に金の刺繍がつけられた黒いマント、豪奢ながらも動きやすさを確保した黒の軽鎧と貴族服、そして貴族悪魔の最高位である証の額の黒い石。
今や第1ワールドでその名を知らぬものはいない、圧倒的な力の代名詞。
三英雄・廃魔界侯爵グラン・ニルバーナが、戦神の死骸の上に立っていた。
「……マジかよ」
「これは完全に予想外だった」
「……さて人の子よ、しばし戯れるとしようか。その力、試してやろう」
「くそやっぱその上から目線ムカつく! 今度こそそのHP一気に削ってやらぁ!」
「ここで倒すって言わない辺りもうね」
「うるせぇやい!」
同じ頃、悪魔陣営では既に三英雄との戦闘が始まっていた。
『【thgilecnal...】』
「槍が来ます、避けて!」
『【nepo】』
混沌熾天使オルグラリヤ。悪魔の軍勢に長く囚われていた最上級の天使で、現在は魔界の瘴気にその身を犯された影響で暴走し、悪魔を狩って回っている。
漆黒に染まった全長5mにもなる、戦女神を模した巨大な鎧兜。強力な神聖魔法を間断無く打ち続ける強大な敵を相手に、ルマリア達は防戦一方となっていた。
「【夜叉奥義・殺華】!」
ほとんど無いような技の隙間を突き物理攻撃を当てるものの、生半可な攻撃ではまるでダメージが入らないほどの堅牢さ。ステータスに-補正がかかってすら、クリーンヒットしたはずの攻撃のダメージは3桁にすら届かない。
「これ撃破無理だね」
「ですねぇ……相手の攻撃力かなり落とされてるし、適当に時間稼ぎましょうか」
「「「「「了解でーす」」」」」
早々に打倒の意思を放棄した対悪魔陣営のメンバーは、勝利条件の一定時間経過を目指し消極的な戦い方に変えた。
それに対しても特に反応を示さずに攻撃を続ける熾天使に多少辟易し始めた頃。
「んー……」
「【閃光盾】、ルマリアさんどうかしました?」
「いや、何かあったとかじゃないんですけど……うーん?」
「??」
戦いながら首を傾げルマリア。言葉に表せない妙な感情が胸の中でざわめくが、それがなんなのかわからずモヤモヤが溜まる。
「……だめですね、わかりません。何か違和感みたいなものはあるんですけど」
「ふーん……?」
三英雄との戦闘が開始してから十分。突如激しくプレイヤーを襲っていた攻撃の雨が止まり、ニ柱の英雄は動きを止めた。
―――勝利条件「「混沌熾天使オルグラリヤ」の攻撃を一定時間耐える」が達成されました。
―――これにより侵攻戦イベント「王都ダールヴァルス奪還」はプレイヤー側の勝利となります。
―――ただいまイベントポイントを計測中です。5分間のログアウトが不能となります。ログアウトが可能になった時点でアナウンスが発せられます。しばらくお待ちください。
―――勝利条件「「廃魔界公爵グラン・ニルバーナ」の攻撃を一定時間耐える」が達成されました。
―――これにより侵攻戦イベント「帝都クロゲルト奪還」はプレイヤー側の勝利となります。
―――ただいまイベントポイントを計測中です。5分間のログアウトが不能となります。ログアウトが可能になった時点でアナウンスが発せられます。しばらくお待ちください。
「ふむ、腕を上げたな人間」
「……そりゃどーも」
すでにボロボロのプレイヤー達がかけられたのは称賛の言葉。皮肉かと言い返す体力も無い。
「私は放浪に戻るとしよう。また合い見えることもあるだろう、その時はまた全力で死合おうぞ」
そういってマントをはためかせ、空間に溶けるように消えていく魔貴族。その瞬間ほぼ全員が床に倒れこむ。
「あー……つっかれたー……」
「あいつと戦うと気を抜いてる暇がねぇんだもんな、本当戦ってて疲れる」
「さっさとログアウトして一旦寝るかな」
破壊の爪痕が残る玉座の間、しかしプレイヤー達は間違いなく勝利を掴んだのであった。……実感があったのかどうかは別として、だが。
―――ルマリアさんが入室しました
―――ルマリア:お疲れ様です
―――グロス:あ、お疲れ様です。そっちどうでしたー?
―――ルマリア:硬すぎて全然削れませんでしたね
―――グロス:こっちは防御で手一杯でした。ステータス低下しててもやっぱり強いですわ
―――グロス:まあ即死しないだけまだマシですけどねwww
―――ルマリア:それなんですが、オルグラリヤの動きがいつもより鈍いような気がしたんですよね
―――グロス:ほうほう?
―――ルマリア:AIがいつもより違うのか、それとも……
―――グロス:イベント用にAI弱くするなら両方弱くしますよねー
―――グロス:ニルバーナの動きはいつもと遜色無かったですし
―――ルマリア:ということはやっぱり
―――グロス:中の人いますよねーこれ
―――ルマリア:そう言えば、三英雄って一人ずつしか現れないですよね
―――グロス:多分全部同じ人がやってる……まさか
―――ルマリア:……
―――グロス:……まさかねー(白目)
Title:侵攻戦結果報告―3
Text:今回の結果により、特殊徘徊ボス「三英雄」のうち「廃魔界公爵ニルバーナ」「混沌熾天使オルグラリヤ」のステータスが調整されます。残りHPと使用スキルに変更はありません。
また、「三英雄」のうち「黒騎士」のステータスには変更はありません。
それに伴い、「三英雄」全員の行動パターンを調整しました。