GVG予選。
※この話は前話「GVG予選。」の後半部分を付け足したものです。前話は削除いたしますのでお間違えなきよう。
※削除しました。
いやぁ本当に遅くなりました。申し訳ない。何しろ色々ありましたもので、主に仕事絡みで。妊娠で体力落ちてる身には辛いです……
では追加された文は少ないですが、もうしばらくGVGにお付き合いください。
9/29 ちょっと修正
10/5 ちょっと修正と本文に追加
GVG ルール表
・ギルドレベル1〜5、6~10、11〜20、21~30、31~50、レベルフリーの6部門で行われます。
・各部門毎に予選を行い、予選突破ギルドは決勝トーナメントに出場します。予選は一定ギルド数によるバトルロワイヤルが各部門毎に4回、決勝トーナメントは各バトルロワイヤル勝利ギルドの1対1の戦闘になります。
・予選制限時間は15分になります。8つのギルドより8人を選出して戦闘を行い、そのうち7ギルドの全員のHPが0になった瞬間に予選の勝者が決定します。また制限時間終了時点で複数人数のHPが残っていた場合、その時点で残っている全てのプレイヤーのポイント計測を行い、合計ポイントが一番高いギルドの勝利となります。
・また予選のみ各チームのスタート地点に「本拠」が設置されます。本拠のHPが0になった場合、制限時間終了時にそのチームは自動的に敗北となります。制限時間終了時に残っているチーム全ての本拠が破壊されている場合、通常通りのポイント勝負となります。
・決勝トーナメントの制限時間は10分になります。先に相手ギルドメンバー全員のHPを0にした方が勝者となります。制限時間終了時点で両ギルドメンバーのHPが残っている場合、予選と同じ方法でポイントを計算し、合計ポイントが高いギルドが勝者となります。
・一部のアイテムの使用は禁止です。詳しくは【PVP・GVGにおける禁止スキル・アイテム】をご覧ください。また、食事などによる一時的なステータス上昇なども無効となります。それ以外のアイテムについては特に制限はありません。
・いくつかのスキルは使用禁止となります。禁止スキルは【PVP・GVGにおける禁止スキル・アイテム】をご覧ください。
―――――ムラクモの軌跡公式サイトより抜粋
PVP終了から現実時間で丸一日が経過した。相も変わらず、コロシアム前はたくさんの人間で賑わっている。
『さあ来たぜお前ら! 昨日の熱気は覚めていないな!? OKそれじゃあ始めようぜ、最強ギルド決定戦!第8回GVGのスタートだ!』
歓声がコロシアムを包む。PVPと双璧を為す大イベント、GVGのスタートである。
『司会はいつもの俺、そして今回の解説はなんとこの人! うちのギルマスにしてトップランカーの1人、ノイさんだ!』
『はいどーも、皆さんこんにちは、ノイですよろしく』
ゲストの紹介に会場中がどよめく。
『今回はチームメンバーの都合がつかなかったから、GVG出場は見送ったんだよなー』
『だねー。なので今日は暇だったんですが、せっかくなので解説やらせてもらうことにしました。今日はよろしく』
『はいよろしく! さてそれじゃあ、早速レベル1帯の予選を始めるとしようか! まずは―――』
ギルド名を言われる度にそれぞれ、草原のランダムの場所へと転移される。
ちなみにギルドレベル5以下の場合、予選は必ずステージが草原となる。よっぽどのことがない限りはギルドレベル5以下では強力な範囲魔法を使えるプレイヤーがいないためだ。
『さあ全てのギルドのプレイヤーが出揃ったぞ! それじゃあギルマス、掛け声はお任せします』
『あ、いいの? ありがとう、それじゃあ行きましょうか、3、2、1、の!』
『『「「「「「バトル、スタート!!!!!」」」」」』』
『さあ、それではお次はレベル6帯だ! レベル6帯、今回の注目ギルドは……聞かなくてもわかるな、はい、さっさと行こうか』
『いやそこは聞こうよ、一応。司会がそんなんでいいの?』
『いやだってわかるし……じゃあ聞きますけど、注目のチームいます?』
『それは勿論ディドさんの』
『はい行きましょうまずは一戦目から……』
『ごめん待って僕が悪かったから話聞いて』
会場から笑いが漏れる。ノイがいじられ役なのはいつものことである。
『真面目に言うと、他に気になっているのは「ラスティオール」かなー。レベル6帯の中ではディドさんのところを除くと唯一の南ルート進行中ギルドだからね。予選ブロックは離れたから、直接戦うとすれば決勝トーナメントになるかな、楽しみだね』
『……真面目に、仕事してる……だと?』
『君ね』
『すんませんした。じゃあ気を取り直して予選1戦目行こうか! まずはステージランダムセレクトから!』
会場の大型スクリーンにルーレットが映し出される。その横には8つの枠が並んでおり、まだ枠の中は「?」となっている。
ルーレットが回転を始め、観客が一斉に「ストップー!」と叫ぶ。この辺りはもはや様式美である。
『はいみんなありがとう! さてステージは……『荒野』!』
『まあまあよさげかなぁ。いい感じに地力勝負になりそうだね』
荒野はその名のとおり、広く見晴らしのいい荒野が戦場となる。『草原』との違いは地面には生い茂る野草の代わりに砂利と砂に覆われており、広い林の代わりに大小様々な岩石と枯木が点在している。
有視界範囲が広く乱戦向きの手頃な広場も存在するため、上位ランカーからも人気の高いステージである。
『さてそれでは、第一グループのチーム紹介! まずは―――』
ジェイがチーム名を読み上げるごとに、大型スクリーンの四角の中にそれぞれギルド名とギルドマスターの顔写真、そして青色のバーが8本表示される。
この青いバーはメンバーのHPバーであり、自分達以外の全チームの全員のHPバーを真っ黒にすることが目標となる。
1チームずつ荒野へと転移され、そして最後のチームの紹介
『さてそれでは、予選第一グループ最後のギルドの発表だ!』
『わざわざ前置きするってことは……』
『その通り! 最有力優勝候補の登場だ!』
その言葉と共に最後の枠に女の顔が写し出され、他とは違いその下に3本のバーが表示される。
『全レベル帯を見ても他のチームは当然8人フルメンバーで参加する中、たった3人での参加となる唯一のチーム! その余裕は自信の表れかはたまた蛮勇か! 『ディドの縛りプレイを見守るギルド』!』
その声と同時に荒野の中心に3つの転移陣が現れる。その中からあらわれたのはディドとグロスとルマリアの三人。
ディドはPVPで見せた衣装を纏い、グロスは火竜鎧一式を着込んでいる。ルマリアは白銀の全身鎧を着てはいるが、下半身は黒を基調とし白赤2色のレースを装飾にあつらえたスカートの上に日本鎧でいう草摺部分のみの鎧、そして白いタイツを履いている為に重鎧独特の重量感を感じさせない。
他のチームと比べてもその存在感は圧倒的であり、誰の目にもその風格は明らかであった。
『やー、凄いオーラ。ディド1人でも結構あれだったけど、3人揃うともうなんかあれだな。そこら辺のボスなら裸足で逃げ出すんじゃないだろうかね』
『割りとありそうで怖いからやめてよね。さて、とはいえ3人での参加はちょっと厳しいと言わざるを得ないかな』
軽く絶望感を覚えていた選手たちの目に光が点る。ルール上、本拠さえ落とした上でひたすら逃げれば勝てるということもあり、決して勝ち目が少ないというわけでもない。
地力が足りなければ戦略と人数でカバーする。奇しくも7つのチームの思考は、対ディド一色に染まっていった。
『さあ、そろそろ開始時間だ皆用意はいいな!』
『GVGで1チームだけ強い場合の好例になるから、皆もよく見ておくように! それでは行くよ!』
『せー、のぉ!』
掛け声とともにならされた開始ブザーを聞きながら、ディドは閉じていた目を開けた。
「目標は、本拠全破壊」
「了解です、東側行きます」
「西側は自分行きます」
「うん。じゃあ、行こう」
「「はい!」」
自分達の背後にある本拠には目にもくれず、三方向へと高速で駆け出す。目標は7ギルド全て、その本拠7箇所。
『本拠防衛を捨てたか』
『まあ三人だとどうしても限界がね。それよりも敵の本拠全て潰して、時間切れ時の強制敗北を避けるつもりかな。まあ有効な戦略ではある……というか、それくらいしか取れる手がないか』
『とはいえ、すべての拠点を潰すには時間が足りるかどうか……』
『足りるよ(断言)』
『……その心は?』
『計算した結果だけれど、もし正しければディドさんは……』
ギルド「獅子の翼」の面々は、4人が固まって他ギルドを攻撃しにいった。そして残りの4人は……。
「……よし、ここでいいだろ」
「よいしょっと」
「本拠」の見た目は1辺50cm程度の灰色の立方体。所々に青白い光のラインが通っており、とても自然物とは思えない見た目となっている。
重量は二人で持てば苦にならない程度の重量なのでまずはこれを主戦場から離れたところに隠し、その後で本格的に戦闘に入るというのが一般的だ。
……しかし彼らにとっては不運なことに、現状況では最悪とすら呼べた。
「……『妖拳術・絶火』!」
「えっ、うあぁぁぁっ!?」
「ギャーーース!」
『計算上本拠はスキル使用で確定1発破壊、この試合に出ているプレイヤーのうち、後衛職は乱数次第でスキル2発で落とせるから』
『やだなにそれ怖い』
高速で背後から飛び出したディドの範囲攻撃が四人の中心に着弾し、吹き飛ばすとともに「本拠」のHPを掻き消した。
「ぐっう……くそっ!」
「なめんなよ、俺たちだって……!」
「やってやる!」
衝撃を受けて吹き飛んだ3人が陣形を組んでディドへと駆け出し、ディドも正面から迎え撃つ。
「せぇいっ!」
「踏み込みが遠い」
上段からふり下ろされた大剣は体を傾けることですり抜けられて、逆に左の掌抵を打ち込まれる。
「ふっ!」
「速度が乗り切ってない」
左から差し込まれた片手剣は、クロスさせた右手から打ち込まれた石弾で弾かれる。
「たぁっ!」
「突き出しが早い、ふっ!」
右から突き出された槍は右肘で穂先をそらされ、三人まとめて右足の回し蹴りで蹴り飛ばされる。
「……っ!」
「奇襲見え見え」
三人の後ろから高速で放たれた弓矢はあっさりとかわされ、二の矢を構えた頃には既に懐に潜り込まれていた。そのまま通常攻撃の連打で弓士のHPを削り取り、背後の3人は無視して走り出す。
『あくまでも狙いは本拠か』
『みたいだね。あっさり一蹴されて本拠も壊された「獅子の翼」の面々がこのあとどうするか注目だね』
立ち上がり追いかけようとする獅子の翼の面々だが既にディドの姿はなく、ただ呆然とその場で立ち尽くしていた。
同じ頃、別の場所でも同じような襲撃が行われていた。
「はっ!」
「くうぅっ!」
「こんな……!」
ルマリアの槍が振るわれる度に『ルーレットダーツ』のプレイヤーのHPはどんどん削られていき、四人で攻撃しているはずのルマリアには1のダメージも入らない。
取り回しが難しいはずの長槍を軽々と操り、1対4を無傷で圧倒するというのは、普通ならばあり得る話ではない。……普通ならば。
「……終わりです。『演舞の騎士槍』」
「「「うわあぁぁっ!」」」
ここにいるのはただのプレイヤーではない。対人戦最強クラスのディドに鍛え上げられた、精鋭中の精鋭。
―――ならばこの程度、越えられなくてなんとする!
ルマリアは血糊を払うかのように槍を一振りし、転がる本拠を連続で突いて破壊する。
そのまま次の獲物を探すかのように周囲を確認し、駆け出した。
そしてまた別の場所でも、1VS4の戦闘が行われていた。
「『黒翼剣撃』!」
「『ヘビースラッシュ』……!」
やはり防戦一方を強いられるのは、ギルド『我が剣は折れず』。
前日行われたPVPのレベル1~50帯での優勝者をギルドマスターに据えた期待の新ギルドではあったのだが、いかんせん相手が悪すぎる。
(くそっ……俺だって、優勝者だぞ! 上位ランカーってのは、こんなにも差があるのかよ!)
件の優勝者であるラルフはそれなりに善戦できていたが、それも他のメンバーと比べてでしかなく、結局はあっさりと追い詰められていた。
『3人じゃ流石に無謀とか言ってたのはなんだったんですかねぇ……』
『あはは、これは正直予想外……さっきの発言訂正するようで悪いんだけど、このレベル帯じゃ相手にならないね』
『同じ人数だったらうちらでも正直負ける可能性あるんですがそれは』
『確かに……これはちょっとガチでやってみたいね』
苦笑混じりに話す解説の二人とあまりの蹂躙ぶりにドン引きする観客を尻目にどんどんとプレイヤーを撃破していく3人。試合時間は1/3も経過していないにも関わらず、既に撃破数は合計で20人を超えている。これは出場中のプレイヤーの約半分に当たる。
『これは本気で殲滅勝利ありうるか?』
『ありそうで怖いね』
ディド達が5つの拠点を破壊したとき、残り時間は5分を切っていた。
「もうだめだ……おしまいだぁ……」
「あきらめんな! あっちの拠点は破壊したんだ、あとは逃げれさえすれば……ひぃ!」
「逃げれさえすれば……なんだって?」
拠点を抱えて岩場へ身を隠す4人のプレイヤーの前に降ってくる3人。ただでさえ1人でも絶望感で溢れているのに、なんの冗談か3人全員が自分達の前で、油断も慢心もなく殺気を放っている|(ように見える)。
絶望というにも生ぬるい。死相すら見えてくる。そんな時だった。
「いたぞ、囲め!」
「逃がすなよ!」
「これだけの人数差だ、やれるはずだ!」
突如として周囲から湧いてきた多数のプレイヤーにディドたちは取り囲まれた。その数は合計18人。いまだ体力の残っている、ディドのギルド以外のほぼ全メンバーである。
「お、お前ら……なんで……」
「なに、簡単なこと……こいつら落とさないとまともな試合にならないからな、残っている全員で囲んでこの3人落とすって話さ」
「成程……なら俺たちも、やらないわけには行かないか!」
頼もしい仲間を前に目つきに自信を取り戻すメンバー。各々が立ち上がり、己の得物を構える。しかし逆に追い詰められたはずの3人は、表情を変えずに周りを睥睨するばかり。
「……」
「ん?」
ぽつりと呟くディドをいぶかしむ。ディドはため息を一つつき、言い放った。
「人数が揃えば私たちを打ち取れると、本気で思っているのかな」
「っ! かかれぇっ!」
その言葉に激昂したプレイヤー達は、一斉にディドへと襲いかかる。それにたいして、あくまでもディドは冷静だった。
「一人頭6人」
「そう聞くと簡単そうに思える辺りがもうね」
「油断だけはしないでくださいね」
自然体で会話する3人に襲いかかりながらも、プレイヤー達は心のどこかで思う。
自分達は勝てないのではないか。いやそれどころか、一生かけてもディド達の領域には届かないのではないか―――
「行こうか」
その言葉と同時に駆け出す3人。その鋭さは周囲を囲む有象無象とは比べ物にならない。恐れずに真正面から突っ込む3人に威勢良く襲いかかったはずのプレイヤー達の足は途端に浮き足立ち、その隙にあっさりと一人一人拳に槍に剣に貫かれていく。
我に返るまでの数秒の間に3人が落とされ、慌てながらも武器を構えなおす。そのまま大乱戦へともつれこんだ。
『……圧倒的、と言う他無いね』
『いくらなんでも、これは……』
『動きがいいとかそういうことなんだろうけど、なんか違うんだよね』
『むしろなんでアレフィオさんはこれに勝てたんだ……』
呆然と呟く解説の二人。人数差6倍というのは全員が同レベルに統一されるこのGVGという環境において、装備の差がいくらあろうと覆せるはずのない差……のはずである。実際ノイ達のパーティから3人選出したとしても、勝率は3割を切るだろう。
ルマリアの槍が二人の剣士の剣を一度に弾き、瞬散打突で吹き飛ばす。地面に叩きつけられた二人が立ち上がろうとした時には既に心臓に槍が突き立ち、本人もわからないうちに退場させられる。それを見届ける事なく身を翻し、すぐさま次の相手に打ちかかる。
グロスの魔法剣が飛んできた雷魔法をかき消し、お返しだと言わんばかりに巨大な火炎龍が相手を飲み込む。横から挟み撃ちにしようとする二人は回転切りで剣を弾かれ、広域魔法であっさりと消し飛ばされる。
当たっているように見える剣はその尽くがノーダメージ、対してディドの攻撃は正確にHPを刈り取っていく。3人を同時に相手にしているはずの彼女はまるで踊っているかのようにふわふわと、しかしその拳は鋭く正確に貫いていく。
至極あっさりと数の優位を帳消しにしていくディド達に、誰からともなく戦意を喪失していく。そして10人が倒れたところで、ついに全員が撤退を始める。
「うわぁぁぁっ!」
「勝てるわけが……勝てるわけないだろこんなの!」
「逃げろっ、逃げろぉっ!」
「あっ……」
背を向けて遮二無二逃げ出すプレイヤー達を、ディド達は追わない。
「……逃げられましたね、残念」
「流石に全力で逃げられると撃破は間に合わないからねぇ」
「どうします?」
「追うしかないでしょ、今からじゃ間に合わないからしないけど。というかルマリアとグロスは加減下手すぎ」
「相手から見たらディドさんもたいして変わりませんよ……」
そう言うと同時に飛んできた弓矢を叩き落とし、そのまま「反省会」を始める3人。飛んでくる攻撃を迎撃こそするが、既に戦闘の意思は見られない。
多くの観客達や参加者が疑問に思う中終了のブザーが鳴り響き、既に本拠を失っている「ディドの縛りプレイを見守るギルド」はあっさりと予選で退場した。
もうしばらくといったな、あれは嘘だ。
次話でネタばらし、そしていよいよ南ルートの本当の地獄へと突入します。お楽しみに。