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第14回PVP決勝トーナメント1回戦-後-。

 最後までどっち勝たせるかで本当に迷ったトーナメント1回戦をお送りします。

 結果は見てのお楽しみ。


8/4 タイトル変更

「せいっ!」

「よっ」


 大上段から振り下ろされた炎剣を受け流し、空いた脇腹に拳を叩き込んでは盾で受け止められ、斬り上げを弾き、蹴りを跳んでかわされ、シールドバッシュを受け止め、掌底を剣の腹で受け、距離が空き、また数合の接近戦をしては一度距離を離す。

 お互いのリーチが違う時によく起こるループで、どうしても試合が硬直しやすい。低レベルの試合だとお互いに技術が拙く見ていて退屈である場合が多いが、ことレベルフリーには飽きなど起きやしない。

 ましてここにいる二人は、実質的なトッププレイヤー達だ。散々騒いでいた観客も、開始2分で静まり返って試合の趨勢を固唾を飲んで見つめていた。


「……ふう」

「こうもあっさりと捌かれると自信無くすなぁ……それじゃあ『大天使ハスティエルの光剣』!」


 アレフィオが唱えた魔法により本人の周りに8本の光剣が現れ、ディドに向かって一直線に飛んでいく。


「これくらいならスキル撃つまでもないけれど……」


 飛んでくる刃に目を細め、迎撃する。華奢な拳が、すらりと延びる脚が、鋭く迫る刃を一つ一つ叩き落としていく中、アレフィオが迫る。


「『聖光法剣』!」

「『妖拳術・百雷』!」


 光輝く剣と雷を纏った拳がぶつかり合い、一瞬の拮抗の後に弾き合う。


「『大天使(アイルウェル)の聖槍』!」

「『妖拳術・絶火』!」


 放たれた銀の槍と火の塊がぶつかり合い、二人の間で爆発し二人が爆風で距離を取らされる。


「『大天使デルオルスの聖銃』!」

「『妖拳術・彩風』!」


 お互いに牽制として撃ちだした光弾と風塊がぶつかり合い、フィールドにヒビが入るとともに黒煙が二人のあいだにかかる。


「はあっ!」

「っ!」


 そしてまた接近戦。二人の実力はまさに互角。お互いにダメージは少ないまま、戦いは激しく、しかし時間がもどかしいほどにゆっくりと流れていく……。




(今のところ順調、かな)


 アレフィオは当初の目的の通り、必要以上にディドに近づく事なく中近距離を維持していた。

 近づかれてもせいぜい十合打ち合う程度に留めすぐに距離をとる。慎重どころか一種臆病とも取られかねないその戦闘スタイルは、その実有効に働いている。


(やっぱり強いなぁ……ガチ勝負だときついね)


 正直な所彼は自分とディドがガチで近接戦闘した場合、武器のリーチの長さを含めても自分の方が分が悪いと考えている。それは自分を卑下しているわけではなく、またディドを過大評価しているわけでもなく、肩を並べて戦った経験をもとにした評価である。


「(切り札は……まだ切れない。切るのは最後の最後だ) 『大天使(アイルウェル)の聖槍』!」

「く……!」


 ディドは強い。だが、ブレが大きい。

 超近距離の白兵戦ならば誰にもひけはとらないが、遠距離戦だと極端に火力が落ちる。

 近距離職なら当たり前ではあるのだが、ディドはそれに輪をかけて酷い。

 反面アレフィオは近距離スキルに加えて、光属性の魔法を複数習得しており、そのどれもが隙が少なく燃費のいいものばかりである。

 その分威力は抑えられているのだが、アレフィオの高い能力値とディドの低いHPと防御力もあり欠点とはなり得ない。


「『大天使(ルーヴァス)の天罰』!」

「『妖拳術・絶火』!」


 ディドが現在装着しているAS10種は、連撃、破滅の一撃、近距離用の妖拳術と滅拳術、拳術スキルが合わせて5種類程度、そして遠距離系の妖拳術が3種程度とアレフィオは見ている。

 ディドだって自分の弱点くらいは把握しているはず。そして現状それを補うのは難しいこともわかっている。


(だからこそ、貴女は接近戦による短期決戦を常に狙わなければならない)


 補うのが難しいなら、別の方法を探すしかない。しかしディドの取れる選択肢は多くない。

 防御力もない。射程もない。あるのは速度と火力、そして自分自身の実力。そうなれば、近距離速攻型にディドが移行するのはごく自然の流れと言えた。

 そしてその対策は、このレベル帯には対策が取れて当たり前。魔法も使える中衛職ならなおさらだ。


「『大天使ハスティエルの光剣』!」

「またそれかっ、この!」


 追いすがるディドを魔法でいなし、


「たぁっ!」

「ぐ……っ!」


 魔法に対処している間に一撃を与え、反撃が来るまでの僅かな間に有効射程から逃れる。

 理想的な前衛潰しの戦法。誰の目にもアレフィオの有利は明らかであり、観客のほとんどはアレフィオの勝利を確信していた。


 ……だが、事はそう単純ではない。


「せいっ!」

「っ、くぅっ!」

―――Hit! かす当たりのためダメージ減少!

―――アレフィオに342ダメージ!


(これだからなぁ……どんな攻撃力してるんだろう、本当に)


 脇腹を拳がかすめ、HPが削られる。

 弱点があるとはいえ、技術と攻撃力と速度があるのは間違いない。アレフィオは自身の防御力を高いものだと自負しているし実際かなり高いが、その防御力をもってしても、一撃もらえばかなりのHPを持ってかれる。

 大きくダメージの減るかす当たりですら3桁ダメージを叩き出すというのは尋常ではない。直撃でどれほどのダメージを受けるのかは考えを放棄したくなる。何が酷いって、今のは通常攻撃である。スキル使った時のダメージはどれだけになるのか、想像するだけで恐ろしい。


(ちょっとこれは、本当に封殺する気でやらないときついな……)


 苦い顔で距離を取る。すぐさま追ってくるディドに牽制の魔法を打ち込み、体勢を立て直す。

 長い長い追いかけっこが始まった。




 戦闘時間はちょうど半分、15分が経過したところで転機が訪れる。


「っ、『ジャンプ』!」

「『大天使(アイルウェル)の聖槍』!」

「くそ、『ジャンプ』!」


 頑として引き撃ちに徹底するアレフィオに集中力が乱れ、魔法をかわし損ねる。

 崩れた態勢を『ジャンプ』で無理矢理起こすが、それを見計らったかのように放たれた高速の光槍をまたも無理矢理『ジャンプ』でかわす。

 が、ジャンプの方向が空中だったために致命的な隙をさらしてしまうことになる。


「取った! 『大天使(ジラルエル)の天陣』!」

「『ジャンプ』、っうあああ!」


 強烈な範囲攻撃を避けられず、地面に叩きつけられる。すぐに起き上がるが、既にHPは1となっている。

 陽炎は10分前に範囲攻撃によって砕かれた瓦礫によって発動させられており、根性+はたった今、天陣と地面に叩きつけられた衝撃によって既に効力を失った。

 たった一瞬で絶体絶命である。しかしそのような状況であっても、ディドの目には諦めの文字は無い。


(こっちのHPはあと6割を切っている……連撃と破滅のコンボを食らえば、簡単に蒸発するね。切り札も残っているとはいえ、それだけはまずい)

(あと一撃もらえば終了……となれば、連撃のコンボ決めるしか無い、か)


 お互いに、相手が行うであろう行動と自分が行わなければならない行動を理解している。

 一瞬の静寂の後、示し会わせた訳でもなくお互い同時に動き出す。


「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「『大天使(リヒター)の光槌』!」


 雄叫びを上げて一気に加速して駆け出すディドに巨大な光の槌が降り下ろされるが、最低限の動作でかわして 懐に飛び込む。


「『聖光法剣』!」

「『拍打』! 『連撃』『破滅の一撃』!」


 横凪ぎに振るわれた光剣を迎撃技で弾き、即座に連撃を起動。決めにかかる。しかしアレフィオの「切り札」は、ディドの予想もしないものだった。


「(ここしかない!) 『大天使(リュミナス)の光盾』!」

「っ、カウンター!?」


 これこそが、最後の最後まで隠し通したアレフィオの切り札。光の盾で相手の攻撃を受け止めて反撃するカウンター技である。

 気づいた時には既にディドの拳が盾に突き刺さっており、アレフィオはカウンターの態勢に入っていた。


「終わりです、ディドさん」

「ふざけろっ!」


 スキル発動の硬直が解けたのは、剣が自らの体に触れるコンマ何秒前か。その短すぎる瞬間の中で突き出した拳がアレフィオの脇腹に叩き込まれてHPが0になるのと、アレフィオの剣がディドの腹を切り裂いたのは同時だった。


 二人が倒れ、ピクリとも動かない。双方のHPは空になっている。

 観客も司会も、一言も言葉を発しない。唐突にすぎる決着に頭が追いついていない。最初に言葉を発したのは、解説のリーズだった。


『……え、っと、ダブルKOということで、よろしいんでしたっけ、この場合』

『……はっ、そうだ、確か……同時KOの場合はスーパースローカメラで1/100秒まで計測して、それでも差が出なかった場合はポイント計測だったかな。とりあえず、スローカメラお願いします』


 そう言うと同時に巨大モニターにスローカメラが映し出される。ゆっくりと近づく拳と剣を、会場の全ての人間が固唾を飲んで見つめる。そして出た結果は……


『……今触れましたね』

『ああ、只今世紀の一戦の決着が確認された! 勝者は……0.03秒の差でアレフィオの勝利! 激しい戦いを見せてくれた二人に拍手を!』


 会場が割れんばかりの大喝采に包まれる。その中で先に立ち上がったアレフィオが倒れたままのディドに近づき、手を伸ばす。


「ありがとうございました。ムラクモ始めてから、一番楽しかったです」

「……嫌みのつもり?」

「えっ」

「あんな戦いされると、ね」

「あー。えっと、勝つために必死だってからといいますか……」


 とたんに狼狽えるアレフィオにクス、と微笑し、差し出された手を握る。

 思いの外柔らかな感触に心臓が跳ねるアレフィオに気づいているのかいないのか、立ち上がったディドは改めて右手を差し出す。


「冗談よ。応援してるから残りも頑張ってね」

「あ……! はい! 優勝もぎ取ってきます!」


 差し出された右手をガッチリとつなぎ、互いの健闘を称え会う。再度会場は、万雷の喝采に包まれた。


『超高レベルの戦いをふたりともありがとう! さあこのテンションのまま第二試合に行くぞ、用意はいいな!

「「「「「イェーーーーーーッ!!!」」」」」

『ようしお前らいい返事だ、早速行くぞ! まずは青コーナーから――――』




「……ふぅ」


 誰もいない控え室に転移したディドはそのまま控え室を出て、選手用の休憩所へと向かう。

 まだ第一試合が終わったばかりだからか他の選手はいない。それを確認したディドは 備え付けのソファーに座り込み、もたれ掛かって上を向く。

 目を覆い隠すように 腕を顔の上に置き、全身を脱力させた。


「……くそっ」


 誰に言うわけでもなくポツリと漏らし、そのまま深く息をついた。





 準決勝進出者控え室。まだアレフィオしか入れないこの場所で、アレフィオは深くため息をついた。


(……一歩間違えてたら、完全に負けてた)


 先程までの戦いを思い出して、ぶるりと背筋が震える。


(封殺戦法をとらなければ、完全に僕の負け。取っていても、チムメンにしか見せてない切り札を切ってすら、相討ち。多分あと100回やれば、99回は僕が負ける)


 自分はただ、1/100回の幸運を掴んだだけにすぎない。そうアレフィオは思っていた。


「……情けない」


 誰に言うわけでもなくポツリと漏らし、そのまま深く息をついた。

 というわけで、アレフィオの勝ちでした。

 アレフィオの取った戦法のおかげで短く平坦な戦闘シーンに。ぐぬぬ。

 まあでも近接戦闘だとアレフィオの負け確定なので、仕方ないね。

 ちなみにこのあとは、結局この試合を引きずったアレフィオが決勝でノイに負けてノイの優勝です。


 天使の名前は捏造。それっぽい名前になっていればいいな。

 位階については天上位階論準拠。つまり『大天使』の上に十段階ある……!?

 まあ、面倒なので全部は出ませんが。


 次回は閑話を挟み、GVGの予定。本編(掲示板)に戻れるのはいつになるやら。

 閑話削るかなー。

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