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第14回PVP、レベルフリー予選会

前にもやったPVPですが、今回は文量少なめ。

何故かって? 予選ですら前後編になるからさ。


一話で纏めたかったのですが、そうすると多分今日投稿できていないのでどっこいといった所でしょうか。


本戦は2話予定。長くて3話かなー。


6/15 誤字・二重バグ修正

07/19 前後編統合

『さあさあ長らくお待たせいたしました! これより、第14回PVPレベルフリー部門の予選開幕だぁーーーッ!』


 歓声がいっそう大きくなる。PVPの中でも最も注目度の高い部門の開始前とあって、客席どころか会場外のモニター前も人がごった返していた。


『よし、元気で結構!』

『まずはAブロックからになりますが、注目する選手は誰ですか?』

『注目する選手というか……正直、Aブロックは消化試合な気がするんだがなぁ』

『司会者がそんなこといって大丈夫なんですか』


 司会進行役はいつもの通りジェイ。解説にはメガネをかけたスーツ姿の女性が無表情で座っている。

 彼女の名前はリーズ。レベル198の指揮官で、ギルドランク8位のランカーギルド「虹の楽団」のサブマスターという立場についている。

 見た目からして「これぞ秘書」という彼女は、その無表情さやクールな出で立ちから一部のプレイヤー達から熱狂的な人気がある。


『つってもなぁ……完全ガチ装備ガチ構成のノイとアレフィオがいて、残りメンバーのうち半分がフリー初挑戦ってのは、いくらなんでもなぁ』

『ついでだからここで少々おさらいをしておきましょう。

 レベルフリーのみ、予選ブロックの人数は他ブロックの二倍である16人、加えてフィールドがGVG使用マップの中からランダムで選択されます』

『これはフリーに出るような面子だと闘技場が狭すぎる……というか、短縮詠唱五重詠唱大魔法のコンボですぐ終わるから不公平でつまらないという理由だな。

 だが8人でGVGマップだと広いから16人でやるわけだ。ちなみにブロックごとのトーナメント進出者も二人になるぞ』


 元々は他レベル帯と同じ、8人闘技場だったのだが、記念すべき第一回でそんなこと(魔法ぶっぱ瞬殺)が起こってしまったので、ある意味当然の裁定である。


『このAブロック、優勝候補の二人が固まってしまっているから、二人で潰しあいが起きなければもう八割方確定なんですよね』

『っと、そんなこと言ってる間にもう開始時間だ! さあレベルフリー部門予選Aブロック、出場選手が配置についたようだ!』

『それでは各プレイヤーとも、めげずに頑張ってください』

『それでは!』


 観客と司会が腕を振り上げる。


「「「「「「バトル、スタートッ!」」」」」」


 その掛け声と同時に開始のゴングが鳴らされ、各プレイヤーが一斉に走り出した。






 戦闘時間3分24秒。レベルフリー帯としてはぶっちぎりで最速の撃破記録と相成った。






『さあ、レベルフリー予選最終ブロックであるDブロックの試合時間が迫ってまいりました!』

『今のところはまあ順当なプレイヤー達が上がってきていますが……やはり台風の目となりそうな選手がいますね』

『ディドがなー、フリーでどれだけやれるかわからないのがなんとも。少なくとも前回、第10回で出た時は51帯の動きではなかったけど、そこからどこまで実力を伸ばしているかになるなー』


 スレでしか彼女の活躍を知らない人間にとっては、ディドの強さというのはまるで未知数である。

 いまだに何かしら狡い手を使ってるんじゃないかと疑う人もいるし、そもそもその成果を全く信じていない人もいる。


『まあそれもこれも、試合が開始してみないとわかりませんね』

『その通り! 観客も待ちきれないだろうし、時間も差し迫っているし、そろそろ始めようか!

 ステージランセレ……場所は、おっとこれは『廃遺跡』だ!』

『廃遺跡ですか……これはまた厄介なステージになりましたね』


 『廃遺跡』は数ある対戦ステージの中でも、プレイヤーによってかなり好みの別れるマップである。

 マップの広さは真上から見て縦横700m。そのうち中央の縦横400mに巨大な遺跡が鎮座しており、ちょうど「回」という字を描く形になる。

 主な戦闘箇所は、遺跡外、1階大広間、2階迷宮、3階小部屋となる。

 遺跡の構造として、まず四方の入口から入ってまっすぐ行くと縦横250m3階まで吹き抜けの大広間に出る。障害物が少なく広さも十分な主戦場である。

 大広間に続く道の途中には十字路があり、それらは別の道へと繋がっている。上から見ると「回」に「+」を重ねたような形になるわけだ。

 内周の道の角には階段が設置されており、そこから2・3階に上がることが出来る。

 2階は吹き抜け以外は全て複雑な迷路となっており、フィールドの暗さ、狭さもあって非常に他プレイヤーを視認しにくい。

 3階の道は1階とほぼ同じだが、いくつかの小部屋がある。小部屋は25m四方程度と狭く、瓦礫が多数転がっていて戦闘がしづらい。しかし裏を返せば隠れる場所が多いということであり、プレイヤーの戦略が試される。

 また遺跡外なら広さをほとんど気にせず戦えるが、狙撃や大魔法の対策が取りづらいのが難点となる。


 魔法使い系のプレイヤーだけでも「大魔法が使いづらいから苦手」「乱戦に大魔法打ち込むだけの簡単なお仕事」など人によって意見が割れるため、フリー初心者にはオススメされないマップである。


『さて、フィールドへの転移は……完了したようだ! それではまもなく試合が開始いたします! 用意はいいかーっ!?』

『それでは……』


 もはやお決まりとなった掛け声と共に、フィールドに降り立ったプレイヤーのうち12人が一斉に駆け出した。






「……スタート位置終わってるなー」


 スタート地点を見回したディドは、位置バレやむなしと思いながら毒づく。スタート位置は2階の迷宮内のどこかとしかわからない。

 通路の大きさは大体高さ4m幅8m、長さは左右に15mといった所でとても狭い。また等間隔で燭台があるものの、炎は小さく通路はとても暗い。


(まあ、それはそれで。そのためにわざわざ貴重なスキル枠一つ潰したんだし……でもやっぱり勿体ないなぁ)


 心の中で愚痴りながらも目を閉じ、何事かを呟いて目を開ける。するとディドの視界が緑色に光りはじめる。


 『ナイトウォーカー』。アクティブスキルの一つで、数少ない店買い出来るスキルの一つである。

 簡単に言えば暗視スコープと熱源センサーが組み合わさったものであり、暗い洞窟や閉所を探索する際にはほぼ必須といえる……こう書くとすごく便利そうに聞こえるが、実際のところは微妙スキルの一つとして数えられる。

 それというのも現環境下では、さっき上げた「暗い洞窟や閉所」というものが少ない(天井の隙間から差し込む光によってほとんど道や地形がわかる)というのが一つ、『ナイトウォーカー』を使ってから60秒の間他のアクティブスキルを使えないというのが一つ、そしてそもそも暗いところを探索するなら、どの魔法職でも覚えられる基本魔法「ライト」や安価に買える「たいまつ」「ランプ」といったアイテムが存在しているというのが一つ。

 特に最後のは致命的で、このスキルの長所のうちの半分を消してしまっている。

 またこのスキルは視界が緑色に染まってしまい、当然ながら通常の視界よりは見づらくなってしまう。その点でもたいまつ系統に負けており、慣れてない人が使うにはあまりにも荷が重い。

 しかしそれさえ克服出来さえすれば、かなりのアドバンテージがあるのも事実。


(周辺の敵影……無し。階段は……よかった、近い)


 実はこのスキル、半径25m以内であればなんと壁抜けをして地形確認と熱源の感知が出来る。

 少し考えるだけでもいろいろ悪用方法が考えられるこのスキルは産廃一歩手前であると同時に、なんらかのきっかけで大化けするスキル可能性があるとも言われている。


(戦闘音は聞こえるし、吹き抜けで戦闘中かな。何人かはわからないけど、外で戦っている人間もいるだろうし……となると)


 背水の陣+でHPが下がっている以上、高レベルメンバーが集う中央へ突っ込むのは愚作。加えて、他の15人の職業も頭に入っている。そうなれば彼女のやることは……


(まずは吹き抜けへと向かいますか。露払いしてあげるとしましょう)


 大体の方向を見当付け、一路中央吹き抜けへと向かうのだった。






 一階中央、大広間。開始1分で既にプレイヤー8人が集結し、大混戦を繰り広げている。

 聖騎士の槍が高速の三連突きを放ったかと思えば侍が居合三連で打ち落とし、魔剣士が焔を纏った剣で切り裂こうとすれば重鎚士が巨大なハンマーで弾き返す。

 まさしく最上位帯の戦闘に相応しい戦闘であり、力技速全てがハイレベルで纏まっている、見ていて気持ちのよい戦闘であった。


 そんな戦闘を2階の死角から観察する影が一つ。


(敵影8……参ったな、意外と少ない)


 彼の名前はリュクス、レベル198の狙撃銃師である。

 もともと長距離狙撃主体プレイヤーが不利とされるこのステージの影響をモロに受けて運の無さを嘆いたが、それでも勝ちを考えて動き始めている。


 狙撃手がまず行わなければいけないのは狙撃ポイントの確保。

 しかしただでさえ有効な狙撃ポイントの確保は難しいのに、このステージにおいてはそれがほとんど無い。

 外周での戦闘であれば遺跡に登って定点狙撃も出来るが、それも場所が即バレするのが痛い。


(……でも仕方ないか、中よりはマシだ)


 そうと決めれば即座に身を翻し、迷宮内へ戻る。

 暗いとはいえ迷宮は広くないし、階段の位置も決まっている。たいまつを使えば道に迷うことも無いだろう。

 そう考えた次の瞬間。


「『滅拳術・蘗』」

「っぐほ……っ!?」


 突如腹部を襲った強烈な一撃。それについて考えを巡らせる間もなく、迷宮の壁に叩きつけられる。

 麻痺の効果持ちなのか全身に痺れが回り、衝撃と相まって身体が動かない。

 そして振るわれた右脚によって側頭部を蹴り飛ばされ、彼の意識は闇に落ちた。






『えげつないなー、今の』

『背後から動くのを待って攻撃とか、暗殺者じゃないんですから』

『まあ今のは狙撃手なのに背後確認を怠っていたリュクスも悪いけどなー。ともかくこれで残り15……っと今フラメルが落ちたから、残り14人となったな』

『開始2分で200近いプレイヤーが2人落ちる、それがフリー部門クオリティ』






 残り時間は18分。残りメンバーは14人。

 勝ち残るのは、2人。






 狙撃手を落としたディドはすぐさま迷宮へ戻り、階段を目指す。ぐずぐずしていると階下で戦っているプレイヤー達に見つかる可能性があるためだ。

 幸いにして見つかることはなく、無事階段へ到着。そのまま階下へ下りながら、これからの道を模索する。


(所在がわかっているのはさっき倒した狙撃と、広場の魔法系二人重鎚ソーマス豪拳聖騎竜騎奇術……残りは双銃砲撃に魔剣法術双剣か、きついな)


 残っている面子を思い出して顔をしかめる。

 大広間へ凸るのは論外、となれば外か3階へ行くべき。だが開けた外では戦いづらく、3階には人が来そうにも無い。


(どうするか……いや待てよ?)


 はたと気づいたように「思いついてしまった」ディドは2階へと戻り、何かを呟いてから突如迷宮の壁面を蹴り飛ばす。

 バゴォ、という音とともに"壁の一面のみ"が崩壊した様子を見て笑みを浮かべ、外へと駆け出していった。




『ディドは何してるんだ?』

『おそらくは"爆砕脚"でしょう。あれは地形破壊効果がありましたから……理由はわからないですけどね』

『と、さあそんなことをしている間に外で二人目の脱落者! これで残りは13人となったぞ!』

『見事に遺跡の中と外でメンバーが別れましたから、双方眼が離せませんね』


 砲術士が倒れ、外が4人に中8人と人数差も顕著になってきている。

 そんな中ディドは……


『お?』

『遺跡を上っていますね』


 外周の戦闘地点から真逆の遺跡の外壁を上っていた。とはいえ崖ではなく坂のような地形であるために、上ること自体はさほど難しくない。

 重要なのは「何故それをしているか」だが……


『……あー、なるほど、読めてきたぞ。まさかとは思うが……』

『奇遇ですね、ジェイさん。私も一つの仮説を導き出した所です。でも……』


 二人が何かに気づく。それは誰も考えもしなかったもので、しかし思いついてみれば誰もが何故気づかなかったのか不思議なほどにあっさりと理解できた。

 ただし、それを実行するかは別問題として。


「よっと」

『登り切りましたね』

『ということは……』


 そのまま遺跡の頂上の中心で準備運動を始めるディド。

 そして大きく脚を振り上げ、ひらりと舞い中が見えそうになる着物に観客が沸き上がる。


「『爆砕脚』っ!」


 振り下ろされた右足が頂上を一撃し、みしみしと皹が広がっていく。


『……マジでやりやがったな』

『考えてみれば、何で皆やらなかったんでしょうねぇ』








「おおぉぉぉぉっ!」

「はぁっ!」

「でりゃあぁぁぁぁっっ!」


 リズム良く掻き鳴らされる剣戟の音が心地良い。レベルフリーでしか味わえないようなハイレベルの戦いに心が沸き立つ。

 この戦いのためにレベルを上げ己を鍛えているといっても過言では無いくらい、レベルフリーの予選会は楽しい。タイマンで戦う本選もいいが、やはり予選会でこそ己の実力が最も現れると俺は思う。

 重鎚士の両手鎚をジャンプすることで避け、飛んでいるところに狙い打たれた電撃魔法はスキルで迎撃し、聖騎士の剣を受け止め、力に逆らわないことでわざと後方に飛び着地する。

 着地の隙を狙って放たれた奇術士の投げナイフを『ウェポンチェンジ』で新たに呼び出した双剣で弾き、竜騎士の槍と八合。豪拳士の一撃を身体を回転させてかわし、後ろから一撃。すぐさま距離を取って仕切直し。


 まさに乱戦。これでこそ。


 再度全員が、中央でぶつかり合う。一、二合ごとに相手を変えて、もう幾度目かになる戦舞を続ける。

 ああ、もっと、この時間を感じていたい!




―――だがその甘美なる時間は、あまりにも唐突に崩れ去ることになる。




 突如頭上から鳴り響く轟音。鍔ぜり合いになりながら上を見上げれば、ガラガラと崩れ落ちる天井。……天井!?


「はあ!?」

「いきなりなんだよ、くそっ!」


 一瞬呆気に取られたものの、すぐに落ち着いて瓦礫を避けるための行動に移る。無論、その場にいる全員が。

 しかしそれが過ちであると理解したのは、全てが終わったあとだった。


 数個の巨大な瓦礫を避けるか壊すかした所で、声が響いた。


「《英雄技》発動……」


 ぞわり、と肌が粟立つ。


「《優美なる双掌》っ!」


 一際巨大な瓦礫を壊しながら現れた、称号通りの優美な女性。その両手から、桃色の「腕」が大量に放たれる。

 回避行動を取ろうとした自分達を嘲笑うかのように、放たれたその腕は高速で俺達を搦め捕る。

 腹部に七度の衝撃。ダメージと共に肺の空気が強制的に吐き出された所で、俺の身体は勝手に跪く。


 状態異常【魅了】。食らうと一定時間の間、魅了にした相手に対して一切の攻撃行動とスキルを使えない。状態異常【衝撃】。一定の威力の攻撃を一箇所に喰らい続けることで起こる特殊な状態異常の一つで、少しの間一切の移動行動ができない。


 つまり。


「【妖拳術・絶火】!」


 今のを察知出来なかった時点で、試合終了が確定となった。




『これは……何と言うか』

『酷いですね。色々な意味で』


 巻き起こる爆炎に成す術も無く吹き飛ばされる前衛職の面々。中には何人かHPが残るプレイヤーもいたが、硬直で動けないために次々とディドに殴られて沈んでいく。

 そして最後の一人のHPを刈り取ろうとした瞬間の事であった。


『おっ』

「【デュアルライトニングスピア】!」

「【風竜槍】!」

「っ、ぐぁ!」


 魔法職二人の狙いを研ぎ澄ませた一撃を察知するも間に合わず、二本の電撃は寸でのところでかわしたものの風の槍をモロに食らって吹き飛び、そのまま壁と瓦礫に叩き付けられた。


『【風竜槍】がクリーンヒット! これはかなり痛い!』

『恐らく今のはクリティカル入りましたね。根性持ちですから死んではいないはずですが』

『相手方もそれをわかっているから、早い魔法を詠唱待機させているな。さあディドは……?』

『あ……これはひどい』


 もうもうと上がる土煙を見つめながら魔法を待機させ、いつでも魔法を打てるように集中する二人。

 そこに鋭く声が飛ぶ。


「……違う、後ろだ!」

「えっ、?」

「なっ……!」


 慌てて二人が振り向いた方向には、真後ろの入口から高速で駆けて来るディドの姿。

 その距離は約5m、ギリギリ到達される前に魔法で撃ち落とすことが出来る。そう判断した二人は待機させた魔法を放とうとする。


「「【ラピッドキャノン】っ!」」

「【ジャンプ】!」

「あっ!?」


 現環境における最高弾速かつ最速発射の魔法を、正確かつ迷い無く撃ち出した二人。

 しかし正確であるが故に、発射と同時かそれより一瞬早いかというタイミングで斜め前気味に【ジャンプ】されたことによって避けられる。ディドの胴体の10cm程左を、無属性の魔法弾が通過していった。


「【連撃】、【破滅の一撃】、【破滅の一撃】っ!」

「ぐあぁっ!」

「っ、うぅ、あ!」


 着地の一歩を切り返し、即座に二人に右手の拳を叩き込む。

 魔法職の防御力の低さも合間って、残り6割のHPを一撃で削られて脱落となった。


「はぁっ、はぁ……っ、もう!」

「ここでお前に勝たせてもらう、狡いようで悪いが、決勝トーナメントに進むのは俺だ!」

「ああもう!」


 天井砕きからのラッシュで残っていた最後の一人が剣を構えて襲い掛かる。

 本音としてはディドが落ちてくれた方が楽だったのだが、そうも言っていられない。


 二合、三合、と拳と剣を交わし、十合目を打ち合った瞬間の事であった。


『そこまで! 試合終了!』

『残りプレイヤーが二人になったため、Dブロックの予選通過者はディドとハルトとなります。お疲れ様でした、その場から少しの間動かないようにお願します』


「……え?」


 打ち合っていた剣士……ハルトが呆然としながら固まる。


「……疲れた」


 ディドは拳を下ろし、一つ大きな息を吐きだしてその場に座り込んだ。

 その際に見えたすらりとしたボディラインにに思わずどきりとする観客とハルト。

 ごまかすようにハルトが空を見上げ、解説席への二人へと声を上げる。


「えっと、なんで引き分けですか? 二人しか上がれないんだから、俺とディドが戦っている間だと決着つかないと思うんですけど……」

『あーこれは……リプレイ見た方が早いかなぁ』

『そうですね……すいません、最後の外の部分だけお願いします』


 空中に大画面のモニターが現れ、そこには戦闘風景が映し出される。ただしそれは遺跡内ではなく遺跡外周のものだ。


 双剣士の持つ両手の剣と、魔剣士の持つ片手剣がぶつかり合う。

 双剣士は手数によるアドバンテージで徐々にHPを削り、魔剣士は双剣の攻撃によるどうしても隠せない隙を的確に突いてダメージを与えていく。

 双方ともに残りHPは一割を切り、どこでどっちが勝っても全くおかしくはない状況で、それは起きた。


「【双竜乱舞】っ!」

「【討魔光剣】!」


 お互いに一歩距離を取り、今出せる最高の一撃を繰り出す。

 彼我の距離が即座に縮まり、お互いの剣が一合だけ交わされ……


 双剣士のどてっ腹を片手剣が切り裂くのと、魔剣士の両肩を双剣が貫くのは同時だった。


『……とまあ、残り四人のうち外で戦っていた二人が相打ちになったわけだ』

『その時点ではディドとハルトの決着がまだついていませんので、勝ち上がったのはディドとハルトの二人となりました』

『にしてもダブルKOなんて中々無いからなぁ、俺もビックリだわ本当』

「……そんなのありですか」


 目に見えてわかるほどにガックリと肩を落とすハルト。そこにディドが近寄って来る。


「えーと、どうしましたか?」

「……次は、邪魔無しのタイマンやろう」


 その言葉に、一転してぱあっと喜色を浮かべるハルト。ディドの差し出した右手を両手で握ってぶんぶんと揺らす。


「はい、是非よろしくお願いします!」

「……痛い」

「あ、す、すいません」


 興奮しすぎたのか、頬を赤らめながら慌てて手を離す。顔をしかめながらぷらぷらと手を振るディドを見て、さらに縮こまった。


「まあいいけど。本選で当たったら、手加減抜きでね」

「もちろん!」


 今度はきちんと握手を組み交わす。観客席から大きな拍手が沸き起こった。


『うんうん、いいね! 戦いから生まれる友情、再戦にむけて高め合う好敵手(とも)! 俺は感動した!』

『そのテンションはなんなんですか、一体。それにしても……結局ディドさんの実力はほとんどわからずじまいですね』

『だなぁ……まともに打ち合ったのは最後の十合程度。実力を隠す狙いだったのかはわからないが、そうだったとしたら目論みは完全に成功した訳だな』

『きっちりアトバンテージを取る辺り、油断なりませんね』


 先程の戦いからの興奮覚めやらぬ中、司会進行の二人が話題に出すのはやはりディドの事。

 ハルトはハルトで当然強いのだが、やはりインパクトが違った。


『さて、とりあえず予選会はこれまで! すぐにでも本選トーナメントに行きたい所なんだが、ここで休憩を入れる!』

『少々時間が押していますが、まあこの程度なら修正は容易ですのでご安心ください』

『本選トーナメント開始は、レベル1帯が13時を予定しているから、それまでは飯食うもよしスカウトに勤しむもよしだ! そこら辺は自由にやってくれ!』

『休憩時間の間に各レベル帯のトーナメント表の抽選を行います。トーナメント表は会場内外の魔力掲示板に映し出されますので、選手の皆様は必ずご確認ください』


 太陽はほぼ真上に上り、騒いでいた観客達も思い出したようにすきっ腹をさする。


『予定表もあるがズレることもよくあるから、気持ち早めの行動を忘れずにな!』

『それではまた本選開始時にお会いしましょう』

『司会進行はジェイと!』

『リーズでお送りしました』

『『それではまたお会いしましょう、さようならー!』』


 リーズとジェイが手を振ると映像が途切れ、それと同時に一気に移動を開始する観客。

 1時間の休憩は思うよりも短い。昼食確保にも一苦労だ。

今回PVPそのものに関する表現が少ないのは仕様。大体前回のPVPと同じになるので。

結局奇襲じゃないですかーやだー! 真の実力は本選にて……?


用語集

・レベルフリー

その名の通り、レベル制限の無いレギュレーション。

レベルは最高レベルプレイヤーと同レベルに統一されるので、実質的に純粋なプレイヤースキルの勝負となる。

なおステージは「草原」「森林」「樹海」「荒野」「砂漠」「廃遺跡」「湖畔」「町中」と、Ver2.0より追加された「雪原」「居城」の計10種類。基本的にはGVGのものと同一だが、少し狭い。

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