防衛戦-BIG MONSTER-
大変長らくお待たせいたしました。
今回の話の主役は強襲隊メンバー。なので誰か一人にスポットが当たっているわけではありません。あしからず。
ディドさん無双を期待していた方には申し訳ありません。
たくさんの人が参加しているイベントなので仕方ないね。
注)グロ注意!
突然のことであった。ズドォン、と巨大な爆発音が響き、爆炎が巻き起こる。なんだなんだと慌てて出所を確認したプレイヤー達は、その出所がランカー軍団の向かった場所だということを知り、ほっと一息をついた。
「今の何の爆発?」
「ランカー達があの肉饅頭に何かしたっぽい」
「ああなんだランカーの仕業か」
「炎魔法かなんかの爆発かね、たーまやー」
「かーぎやー」
少々ざわ……ざわ……としたものの、すぐに全員何事も無かったかのように自分の配置へと戻っていった。こいつらはランカーを何だと思っているんだろうか。
――――オオオオォォォォォン……………!
「よし効いた!物理攻撃止めて魔法攻撃主体に移行!キーディさんは下からお願いします!残りのメンバーは周囲の掃討と触手退治を!」
「「「了解!」」」
物理での攻撃時よりも明らかに違う様子にすぐさま指示を出すノイ。魔法の使える三人と魔法攻撃扱いの妖拳術を扱えるディドが中心となって攻撃を加えていく。
途端に苦しみに満ちた咆哮を上げる肉塊。口が無いのに咆哮?とか突っ込んではいけない。
「荒ぶる火の王よ!怨敵を焼き尽くしその力を示せ!【火砲】っ!」
「【妖拳術、遠火拳】!」
「天の煌めきよ、その手で悪への裁きを!【ホーリーランスアロー】!」
「照らせ爆炎、巻き起こる風とともに!【轟炎爆撃】!」
高レベルランカー達の魔法による波状攻撃にHPがもりもり減っていく肉塊。懸命に触手を出して抵抗するも、範囲攻撃に巻き込まれて即座に消えていく。が、HPが7割を切ったあたりで大きく変化が訪れた。
―――――グウウウゥゥゥゥゥゥ……オォーーーーン……!
一声あげた肉塊から4本の巨大な脚が生える。ちょうど90°ごとに一本、「むじょむじょむじょ」と言った感じの表現の出来ないほどに気色の悪い音と共に、爪も指も無い巨大な脚が生え、しっかりと本体を支えて四つん這いで立ち上がったのである。もちろん脚の色は本体と同じで、なんだか変な液体がねばぁとこびりつき光沢を放っている。
それを見たプレイヤーたちの心情は多少のブレはあるものの、大体同じようなものであった。
(((((うわぁ……)))))
とにもかくにも、グロすぎた。別に血が出た訳じゃ無いが、色々と生々しすぎた。誰がここまでやれといった。
別に何か攻撃を喰らった訳でも無いのに身体から力が抜け、肉塊の相手をする気は綺麗に消えうせた。それでも半自動的に他の敵へ攻撃を加えているのは流石と言うべきか。
肉塊は周囲を伺うかのように身体を動かし、顔(正確に言うならば、普通の生物ならば顔があるであろう方向)を何人かで固まっていた強襲隊へと向ける。
「……今こっち見たよな」
「……たぶん、そうですよね」
「どうするっすかねぇ……」
「俺らがやってもあんまりダメージ入らねぇしなぁ」
「……まあ、撹乱と露払いしかやること無いし」
「それじゃあ……撹乱?」
「目があるのかは知らねぇが、まあやるだけやりますかねぇっと!」
「【リフレクトガード】っ!!」
肉塊が振り下ろした右前足を大盾によりガードする。普通は質量差で容易に吹き飛ばせるはずの振り下ろしは、大盾のスキルによって弾き返される。
弾かれた事によりバランスを崩した肉塊は、慌てた様子で急いで(周囲から見ればとてもゆっくり)足を地に着けようとする。
当然そこを見逃すランカー集団ではない。
「左足狙え!【ヘビークラッシュ】!」
「【インパクト】!」
高い衝撃を与える技を左足に打ち込み、ダメージは低くとも態勢を崩すことを狙う近接職たち。
はたしてそれは正解であったようで、見事に左前足を浮かす事に成功する。両前足が浮いたことでバランスを崩した肉塊は、倒れ込むように地面に沈んだ。
「リーダー達今だ!」
「指図しないのっ!」
「いいから魔法撃って!照らせ爆炎、巻き起こる風とともに!【轟炎爆撃】!」
「ああもう!【五重詠唱】【詠唱破棄】!【灼火業爆】五連!」
愚痴を零しつつもきちんと高火力魔法を連続で叩き込むキーディとノイ。
イリスは魔法が光属性に偏っているために効果的なダメージが出せず、ディドはディレイの影響で意外に瞬間火力が低く、実質二人がダメージの殆どを与えている。
ノイが魔法にあまり適正が無いとはいえ、それでも実質最高クラスの魔法使い二人の猛攻に、反撃もままならない内にHPが減っていく。
しかしHPが半分を切った頃、変化が訪れた。
「ん……なんだ?」
「足を……?」
それまではされるがまま―――一応触手や手足で攻撃していたものの、ランカー達にとっては簡単に避けられるものであった―――だった肉塊が、突如として手足を地面に埋め込んだ。
予想外な行動に訝しむランカー達を余所に肉塊は態勢を低くし、(当然目は無いが)城壁を真正面に見据える形になる。
そして、その時不思議なことが起こった。
「ちょっ」
「おま」
「ねーよwww」
「うわぁ……」
ただの球体であった肉塊の前面が突如として、まるで花のように十字に開いたのである。
口とでもいえばいいのだろうか。それの中はびっしりと細い触手がうごめいており、見るだけでSAN値直葬されてしまいそうになる。
さっき手足が生えただけでも既に嫌悪感が出たのに追撃のこれである。スタッフに対して殺意を覚えたのも無理は無いといえるだろう。
だが、これだけで終わるはずも無い。口と思われるそれの中心にオレンジ色の球体が出来たかと思うと、「キュイイイイィィィン……」という音を立てて光球が少しずつ大きくなっていくのである。
「……あの光を見てくれ。あいつをどう思う?」
「すごく……危ないです……」
「こんな時くらい真面目にやれんのか……」
「それはともかくとして、本気であれ止めないとまずいっすよねー?」
「まずいだろうなぁ。自分らも行きますか」
「はいよー」
少しは慌てろと言いたくなる程にグダグダなランカー軍団。こんなのでも本当にトップクラスの実力者だというから世の中は何となく不公平である。
砲撃阻止のために動き出したメンバーだが、阻止条件がわからないために上手く行かない。
普通の敵であれば、このような溜めのいる攻撃を止めるには「ノックバック」「硬直」「拘束」等といった物理系状態異常を使うのが基本である。
だがそれらの状態異常を与える攻撃は、ほぼ全てサイズ制限がついている。サイズがXXLを超えているゴロドゲルにはそれらが一切通じず、通常の方法でのキャンセルは不可能となる。
よって、砲撃を撃たれるまでのわずかな時間の間にキャンセル方法を見つけだし、キャンセルしなければいけないのだ。
「行けっかなコレ……」
「一応戦況は有利だし、一つ城壁壊れても大丈夫っちゃ大丈夫だがなぁ」
「大規模作戦があとどれくらいかかるかわからないし、止めておくに越したことはないでしょう」
「それにしたってなぁ……これはやっぱきついだろ」
苦々しく唇を噛みながら攻撃を加えていくが、HPゲージも本体もびくともしない。
キーディとノイの魔法はきちんとダメージを与えられているが、やはり数が足りない。
万事休す、と思っていた時だった。
「……あん?あれは……」
「ディドさん?」
「何やってんの!?」
真上に乗っかって肉饅頭をたこ殴りにしていたディドが、突如として飛び降りた。それも、口の真正面へ。
そして空中ジャンプを駆使して方向を変え、あろう事か口の中へと着地した。あの細い触手がびっしりと詰まっている口の中にである。
「妖拳術・火拳!」
躊躇無く炎を纏った拳を口に叩き付ける。一瞬ブルリと肉塊が震え、次いで目に見える程にガクリとHPが減少した。
「おお」
「ダメージ通ったな」
「弱点口の中とかワロス」
「どっちにしろ物理ダメージほぼ入らないから意味無し」
「ぐぬぬ」
「あんたら仕事しなさいよ!【詠唱破棄】【ブレイクキャノン】!」
無属性の砲撃魔法を口の中に撃ち込みながら叫ぶキーディ。ノイ以外の男メンバーが物理職しかいないため、男性陣の役立たずっぷりが際立つ。
「【業火一閃】!」
「たくよ、そこまで文句言いなさんなよ!【真空波】!」
「一緒にしないで欲しいっすね、【アローボムLV6】!」
「……喧嘩なら買うぞ?【真空波】!」
「買わなくていいから攻撃に集中してください……【イシュリエルスピア】!」
弱点なら物理も多少は通るだろうと各々持っている(唯一に近い)遠距離攻撃を叩き込んでいく。
どうやら口内はダメージ倍率が相当高いのか、口への攻撃を始める前と比べると数倍のスピードでHPが減っている。
苦しみの咆哮が轟き、巨体を支えていた足の内の一本が崩れる。一本が崩れれば、後は早かった。
―――オオオォォォォォォォォン………………!
チャージ中の光球が消え失せ、辛うじて立っていた足から力が抜ける。
そのまま地面に倒れ、頭にひよこが飛び交った。
「うし、ダウンしたぞ!」
「一気に攻めろ!このキモいのとっとと消せ!」
「ヒャッハー!」
「汚物は消毒だー!」
「こいつら……」
ダウンしたのをいいことに、すぐ調子に乗る物理メンバー。動けない肉饅頭にどんどん攻撃を加えていく。
「……防御力減ってるな」
「そっすねぇ、明らかにHPの減り早いっすもん。ダウン時に防御力減るのはありがたいっすね」
「ダウン条件はチャージ中に最大HPの25%か、仕様がわかりやすくて逆に怖いな」
物理攻撃ですら明確にダメージが与えられる程に防御力が落ち込んでいる肉饅頭に、嫌な予感を覚える。
しかし今は倒すのが先決と考え、さらに攻勢を強めた。動けない間にフルボッコにするその様は、何をどう足掻いてもリンチである。
「これでとどめだ!【燕返し】!」
「【アサルトスラッシュ】!」
「【ヘビーブレイク】!」
「【業火一閃】!」
「【鎧貫】!」
―――オオオォォォォォォォォン…………!
一斉に繰り出された攻撃に耐え切れず、ついに声を上げて倒れ伏す肉塊。ランカー10人による強敵戦は、被害無く無事に撃破に成功したのであった。
「終わり……か?」
「終わりっぽいな」
「いや倒しただけたがらな?防衛戦終わってないからな?」
「ともかくこれで……!?」
「おい待て、なんかおかしい……」
ほっと一息ついた強襲隊が違和感に気づく。
普通なら消えるはずの倒したモンスターが、この肉饅頭は死体が消えていない。それどころかよく見れば、細かく痙攣している。
もしかして、と一人が呟いた瞬間に全員がその可能性に思い至り、すっと背筋が凍る。
「全員、全速力で離れろっ!」
その言葉とともに全員が肉塊に背を向け走り出す。数秒後、肉塊が一気に膨張。巨大な爆発を起こし、周囲のオークやトロルにダメージを与えつつ吹き飛んだ。
system:巨大モンスターの討伐に成功しました
system:巨大モンスター撃破により、現在生存しているプレイヤー全員に10000ポイントのボーナスが入ります
system:巨大モンスターと戦闘したプレイヤーに、巨大モンスターに与えたダメージによってボーナスポイントが振り分けられます
system:巨大モンスターを撃破した事により、現在生存しているプレイヤー全員に状態変化「戦意UP・大」が3分間付与されます
system:巨大モンスターを撃破した事により、現在生存している魔物軍のモンスター全てに状態変化「戦意DOWN・大」が3分間付与されます
system:敵軍ボス「妖魔子爵フェルム」が出現しました
system:勝利条件が変更されました
system:魔物軍に増援が現れました。魔物軍の勢力が50%増加しました
system:NPC軍「エブラ軍」が出現しました。以後エブラ軍は「西門周辺」で魔物軍と戦闘します
system:「エブラ軍」全員に状態変化「戦意UP・大」が3分間付与されます
system:エブラ軍が撤退することによるデメリットはありません
勝利条件:敵魔物軍の一定割合の殲滅
一定時間の第二防衛ライン死守
「妖魔子爵フェルム」の撃破(NEW!)
グロって血とかのことだと思ったの?バカなの?
だらだら小説なので、出血とかは出来る限り無くす予定です。ただ今回みたいな描写は増えます(断言)
さて、たぶん防衛戦はあと2話程度で終了予定。
そのあとはまた掲示板形式に戻ります。ver2.0編になりますね。
では来週更新できるか不明ですが、お楽しみに。
感想を送っていただいた一部の皆様、返信できず申し訳ありません。一度タイミングを逃してしまうと書きづらい……