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防衛戦開幕当日、エブラの街にて

なげぇ。10000字越えました。

といっても特に戦闘がある訳ではない平和回です。非常に平和。

掲示板と普通の分の2本立てです。別段豪華ではないですが。


2/23 表現の一部を修正

「しゅにーん、結局の所どれだけ用意したんすかー?」

「基本数が100万の×5、あと追加で増援。一つの街ごとに150万前後ってとこかね。まあ1ヶ所守り切れれば上等だろ」

「主任鬼だー」

「流石、そこに痺れる憧れない」

「うるせーよ。にしてもやっぱ南ルートの奴らは順応はえーな、1スレ目でもう既にある程度の戦術が用意されてやがら」

「マジすか、すげー」

「ランカーギルドが統率取ってますねー、こりゃどうなるかねー」










Title:防衛戦追加情報!

Text:リンです!は、はわわ!大変なことになってますよーっ!え、お、落ち着けって?ご、ごめんなさいです!


すー、はー、すー、はー……


お、落ち着いたのです!ホントですよ!

それで、えーと、本題はですね、ある映像が届けられたのです。

どうやら各街からの偵察隊が命からがら情報収集してきたようなのです。

それで、届けられたのがこの映像なのです!とにかく見てほしいのです!


【アルドラ偵察隊の映像】

【エブラ偵察隊の映像】

【バルクラ偵察隊の映像】

【空雅偵察隊の映像】

【フォーサ偵察隊の映像】


も、物凄い数です……それでも、皆で協力しあえば必ずこの危機を乗り越えることが出来るはずなのです!

到着予想は三日後です。皆さん、準備を整えておきましょう!








防衛戦エブラスレその12


398.チーズケーキ食べたい

【速報】動画配信。

街の偵察隊の映像だって。とりあえずスタッフ頭大丈夫か?


399.闇鍋

動画見てきた。たまげたなぁ……


400.蛾のように舞い蚊のように刺す

OK、スタッフは馬鹿だな


401.からふる☆くっきぃ

スタッフバカ過ぎワロタwww

ワロタ……


402.come on!

これは馬鹿www無理ゲーにもほどがあるwww


403.モフモフ(・ω・)モフモフ

スタッフいっぺん脳外科行ってこいよwww


404.竜騎士団

でも、敵の内訳とかを知れたのは大きなアドバンテージだと思う

数も、「プレイヤー一万人なら1時間もたない」というのがある程度ヒントになる


405.cross arrow

>>404

とりあえず見た感じは陸8空2って感じか

空の敵は遠距離物理職とバリスタで対処になりそうだな、種類誰かわからない?


406.地を這う蛇

陸の中心戦力はオークか

ここまで来れてる腕なら苦戦はしないだろうし、数の差をどう覆すかになるな


407.切突打撃

>>405

4面に出てくる「雅荒鷲」と「雅荒鷹」

どちらも4面に行ける腕があるなら余裕で対処できる

防御が終わってる上に遠距離攻撃が無いから、弓系職で対空付ければレベル80くらいでも割と簡単に倒せるくらい


408.イチカバチカ

オークとはいえ敵の数を考えると、やっぱり前衛はレベル80くらい無いときついかなー


409.kick!kick!kick!

>>408

80あればオークはスキル使って30秒くらいで撃破出来るし、それくらいは欲しいね

あとは後方にちらちら見えるゴーレム系とトロル、ワーム系をどうするかだな


410.ふえぇ……

ゴーレムとワームはまだしも、トロルは流石に厳しいなぁ……150くらいは必要?


411.オンボロギルド奮闘記

ソロで倒すとなると150無いときついなぁ


412.(「・ω・)「がおー

>>411

それは体力MAXだったらの話だろ

防衛兵器と範囲魔法で削り落とせばいい

オーク相手に前衛全員が1分持ちこたえられるなら、その後ろにいるトロルに魔法職100人くらいで範囲魔法と貫通魔法撃ち込み続ければ落とせるはず


413.みるきぃ

>>412に補足

防衛兵器は固定ダメージらしいから、空の敵をだいたい落としたら狙いやすいバリスタか魔導砲をトロルとゴーレムに集中させればOK

映像見たかぎりではトロル系はかなり少ないし、何とかなると思うけど


414.羊の名前はメリーではない

となると、空の敵をだいたい落とした時点でバリスタはそこそこ残しておきたいね

ゴーレムとかワームは5面とか到達している人達なら余裕だろうから、そこは問題無いか


415.栄光と勇猛の剣

モンスターの内訳表が完成したので乗っけます。映像の中のだいたいの割合ですので、あくまでも目安として参考にしてください。

オーク:4割

ゴブリン(遠距離系3種):2割

雅荒鷹・雅荒鷲:2割4分

ゴーレム・ワーム・アーマードベア・:1割5分

トロル:1分


416.バブルガムダンサーズ

>>415GJ、ありがとう指揮官!


417.C-1000

>>415GJ!






454.ハーメルンの尺八

さて、とりあえず>>415の戦力概算があっているという前提で話を進めよう。

基本的には

オーク→後衛や防衛兵器(大砲)で削りつつ、前衛がどんどん数を減らす。前衛のポイント稼ぎと後衛のMP温存のために、魔法は出来る限り燃費のいいものを使用。

ゴブリン→クレリックを最優先で狙い、城壁の上から高速直射魔法で落とす。といっても数が多いので、前衛は倒せる位置にいるのならどんどん倒す。

鷲・鷹→対空迎撃持ちの弓系職などで撃ち落とす。空中から地上の味方に攻撃が来ると面倒なので、バリスタを併用して手早く。数が多いので打てば当たるはず。

ゴーレム→的がでかい+魔法防御が低いので、範囲魔法に巻き込みつつ魔導砲。

ワーム→魔法防御が意外とあるので範囲魔法巻き込みでは思ったように減らせないかもしれない。スキル使って速攻。

熊→レベル100越えてるプレイヤーが優先的に対処。スキル使って速攻。

トロル→1番危険。魔法職は優先的に範囲魔法に巻き込み、防衛兵器も使用する。中途半端にHP残して前衛が決死発動状態のトロルに絡まれるのが最悪なので、後先考えずにひたすらこいつだけを狙っていい。


だいたいこんな感じだと思う、追加で何かあれば頼む


455.クスィー

>>454、GJ!

基本はそれでOKだと思う


456.ケモミミ(*′ω`*)ハァハァ

>>454GJっ!文句無しだな


457.Blue rain

>>454乙です。ゴブリンは全部遠距離職対応でいいような気もしますが……


458.混沌の顎

>>457

そうすると空への攻撃が足りなくなる気がする。遠距離物理職はひたすら空の敵を落とした方がいいだろうから、ゴブリンは魔法職が適当に範囲魔法に巻き込む程度でいいと思われ。

強い敵でも無いし、前衛でも十分対応できるだろ


459.燕

となるとやっぱり職業ごとで分けることになるんだろうけど、今それぞれ何人くらいなの?


460.動く要塞

>>459

確か今40000人ちょっと。当日集まるのは45000を想定

内訳は前衛15000、魔法10000、後衛10000、回復5000、準前衛3000、新人2000

前衛と魔法職は3人1組だから、常に5000・3000が戦い続けることになるかな


461.ブラッド・ラット

4方向から攻めてくるとしたら、大体1方向に1250・750か

街の大きさ考えるとちょっと微妙かなぁ


462.あかぞね

こればっかりはなぁ、でも無理ってほどではないと思うぞ

公式が言ってた「1万人じゃ1時間もたない」ってのは逆に考えて「1万人でも1時間もたない程度には戦える」ってことのはずだし


463.ディルガン

足りるか足りないか、やってみないとわからんよ

こればっかりは考えても仕方ないし、適切だと思われる作戦考えるしか無いんだよなぁ……


464.Black thunder

やっぱり情報が少なすぎるな

せめて敵の総数か攻め方がわかっていれば


465.INORI

>>464

これはこれでリアリティあって楽しいけどね

敵の総数不明とか、燃えてくる


466.Zipでくれ

>>465

同意

むしろこっちの方が中途半端に情報出されてるより楽しいわ


467.キャノンボール

>>465

禿同

まあどっちにしろ苦労はするんだし、どっちでもいいよ


468.ディドの縛りプレイを見守るギルド

乙ですー。微力ながらお力になれれば。

ギルド名:ディドの縛りプレイを見守るギルド

ギルド人数:3

最高レベル:121

最低レベル:116

前後衛の人数:前衛3人後衛0人


469.壁殴り代行本部

まあ大まかな方針は決まったんだし、ポジションごとにスレ立てて煮詰めようかね

とりあえず「エブラ防衛戦前衛スレ」を立てようと思うんだがどう?


470.バーガン厨

おろ?また有名な所が来たな、別の意味で


471.ぶらり終点下車の旅

いいねー、ありがたいねー


472.ミリヲタの集い

ディドさんおいすー


473.Devil's sanctuary

>>469

ぉk、スレ立ては任せた。後衛・魔法職・新人・回復職も立てとくわ


474.栄光と勇猛の剣

>>469・473

ありがとうございます、お願いします。

またこちらで敵リーダー強襲・イレギュラー対策として、何人か選抜して少数精鋭強襲部隊を作ろうと思います。

現在確認を取り選抜したメンバーは

自分、ムクロ(筋肉少年隊)、タロウ(俺達の賢者たん)、オメガ(( ´∀`)σ)∀`))、パックス(お酒実装マダー?)、ディド(ディドの縛りプレイを見守るギルド)

です。(敬称略)

要望があれば私までお願いします。ステータス・戦績を基準に採用を決めます。


475.溶けた歯車

>>474

おおうすごい面子。こりゃー自分らは入れないわ、頑張ってくれー


476.有毒粒子万歳

>>474

なんだその面子wwwすげぇwww


477.ぱるぅ!?

>>474

前衛職5人じゃないですかーやだー

という訳で立候補ノ

レベル197の賢者ですよっと


478.(゜W゜)キシャー

本当ここあらためて見るとすごい面子が揃ってるな……


479.アストラ再興を願うギルド

なんだかそれだけで行ける気がしてきちゃうね


480.祝福の鐘の音

こりゃー頑張らなきゃな

自分よりレベル低いのもいっぱいいるし、負けてらんないぜ


481.Jewelry kiss

盛り上がってまいりました


482.ニトロターボ

当日が待ち遠しいぜ……










 防衛戦当日。

 総計50000近いプレイヤーが集まったエブラの街はいつもよりも大きな賑わいを見せていた。

 ただしいつもと違う点は、街の住民(NPC)がほとんど街を歩いておらず、道行くプレイヤー達の顔もどこか緊張気味な所か。

 それもそのはずで、あと3時間後には新イベント「巨大侵攻防衛戦」が始まるのだ。公式ムービーの迫力も相まって、幾人かは不安げな雰囲気を漂わせている。

そんな街の一角の酒場に、二人のプレイヤーがいた。酒場といってもシステムの関係上お酒は出せないので、飲んでいるのはジュースと烏龍茶である。


「あー……やばい緊張してきたな」

「お前それ何回言ってんだ、そろそろしつこいぜ」


 ぐい、とジョッキ(烏龍茶です)を煽りぽつりと零す黒髪の男(人間)と突っ込みを入れる白髪の男(獣人)。彼らは同じギルドのメンバーで、このエブラ防衛戦に参加するプレイヤーである。黒髪がラバル、白髪はパタンという。

 本来はこれに加えて4人の合計6人でこのゲームをプレイしているのだが、ポジションごとにメンバーを分けるという方針により他のメンバーとは一時的に別れているのであった。

 ラバルはレベル170の聖騎士、パタンはレベル168の黒騎士である。見た目や言動は少しあれだが、こんなんでもかなりの実力者なのだ。


「だってよー……公式のムービーやばかったじゃんよ。あれ頭おかしいってホント。緊張しない方がおかしいっつーの」

「そりゃあまあ俺だって緊張はしてっけどさ、お前のそれはどうなんだよ……」


 酒場の前の大通りを(正確にはそこを行き来するプレイヤーを)眺めつつ、追加で注文した唐揚げを頬張るラバル。因みにこいつらが何をしているのかというと、人を待っているだけである。

 スレ内で決まった方針の1つに、「前衛と魔法職は3人1組でグループを作る」というものがある。これは3人でローテーションを組み、


Aが戦う

Aが傷付いたら引いてBが戦い、Aは回復

Bが傷付いたら引いてCが戦い、Bは回復

Cが傷付いたら引いてAが戦い、Cは回復

無限ループって怖くね?


 という、長期戦に対応した作戦だそうだ。なにぶん敵の戦力が不明なので、こうした作戦を取らざるをえないんだそうだ。

 そんな訳で前衛組の彼ら2人は、残る1人を待つためにこうして酒場でのんびりしているのだった。

 メンバー募集の方法は、このエブラに本拠地を置く大ギルド「梅椿」のギルドハウスの掲示板にメモで「1人募集 場所:大通りの酒場「宿り木の種」テラス席」といったように書くだけ。メンバーが決まっていない人は掲示板を見て、メモを取ってその場所に向かうのである。人数が多いため、こうすることで混乱を避けているのだ。

 また開始1時間前までにメンバーが決まっていない場合、「梅椿」に集まってその場でメンバーを決めることになる。皆それは面倒臭いので、この時間のうちに皆メンバーを探しているのだった。


「あー……誰が来るんだろーなー……可愛い女の子だといいなー……」

「お前は本当に欲望に忠実だよなぁ……」


 とうとうテーブルにグデーッと体を預けるラバル。相方のパタンも呆れ気味である。

 そんな所に近づくプレイヤーがいた。


「ちょっとすいません、ラバルさんとパタンさんですか?」

「んー……? えっ」

「おお」


 声をかけられて顔を上げたラバルが見たのは、紛れも無く美少女であった。

 輝く金の髪を短く切り揃え、青の瞳は柔和に細められている。白銀の全身鎧に身を包み、背には不釣り合いなほどに大きな斧槍(ハルバード)を背負う。

 少し顔立ちには幼さが残るが、凛々しい雰囲気とのアンバランスさが不思議な魅力を醸し出していた。


(……俺、死んでもいいかもしれない)

「えーっと、掲示板見てきた人?」

「はい。一人足りないとのことでしたので、参加させていただけないかと思いまして」


 フリーズするラバルを余所に、パタンと女性が話を進める。


「そうか、いやありがたいよ。俺がパタンでこの固まってんのがラバルだ。よろしく頼む」

「私はルマリアです。こちらこそよろしくお願いします」

「あれ、ルマリアってディドさんとこの? こりゃラッキーだなぁ、有名人じゃないの」

「いえ、私なんてまだまだ……というか、えっと、ラバルさんは大丈夫ですか?」

「あー……起きろ阿呆、あとルマリアさんも座って座って」(ゴッ)

「オウフ」


 放心状態のラバルを殴って起こすパタン。呆けていたことに思わず赤面するラバル。そんな2人の様子にくすくす笑うルマリア。どうやらすぐに打ち解ける事が出来たようだ。








 エブラ南大通りの噴水広場。プレイヤーの行き交うそこでは、2人の女性が屋台で売っていた料理を片手に談笑していた。


「どんな人が来るかなー?」

「強い人が来るといいけどねー、その方が楽できるし?」

「またファラちゃんはそういうこと言って……」

「えーだって流石にこれはめんどくさいって。ウン十万とか出てくるんでしょ?ベルも頑張りなよー?」

「もー……」


 ベルと呼ばれたのは栗毛の少女。低身長のアースドワーフの例に漏れず小さく、クリクリとした瞳が可愛らしいが、こんなのでもレベル123の重装兵である。傍らの巨大なハンマーが妙に存在感がある。

 ファラと呼ばれたのは金髪の女性。ウインドエルフなのだが目つきが鋭く、とてもじゃないが神秘性は無い。こんなのでもレベル124の魔法剣士である。剣を立てかけてあるが、特に言う事はない。

 彼女達もギルドのメンバーと離れ、こうしてメンバーを待っているのだった。

 で、そんな彼女達の元へ歩いていく人影が一つ。


「ファラさんとベルさんですか?」

「え? あ、はい、そうですけど……」

「あによー……!? え、グロスさん!?」

「あれ? 僕の名前知ってますか?」


 声をかけたのはグロスだった。彼もルマリアと同じく、適当なグループに入ろうとしたのだった。


「えっと、私がベルです。 どうされましたか?」

「あ、よかった、間違えてたらどうしようかと……実はまだメンバーが決まってないので、もしよければ一緒にどうでしょうかと……」

「えぇぇっ!?」

「えっと、私達は構いませんけど……ファラちゃん、いいよね?」

「うぇ!? い、いや、そりゃいいけど……!」


 やけに慌てているファラに首を傾げるグロス。それを見たベルは苦笑しながら言った。


「ファラちゃん、グロスさんに憧れてるんですよねー。始めたのが同世代なので余計に意識してて」

「やめて、そういうこと言わないで!」

「あ、あはは……ありがとうございます」

「うー……」


 ……まあ、仲良き事は何とやらである。頬を染めて殴りかかろうとするファラをやんわりと押さえ込むベル、そしてグロスの苦笑。楽しそうで何より。

 きっとどこかでぱーるーぱーるりぱーるりらーとか言っている人達が熱い眼差し(殺意的な意味で)を送っていることだろう。




 因みにグロスとルマリアの募集依頼はディドが2秒で選んだものだ。


「掲示板……すごいいっぱいありますね」

「どれにするべきか……」

「はい、グロスはこっちでルマリアはこっちね」

「「えっ」」


 といった具合。どう見ても確信犯です本当にありがとうございました。






「……ここかな?……ここだね」


 人がごった返す「梅椿」を通り過ぎ、ディドは寂れた店の前で立ち止まった。

 丼屋「定食は邪道」。VRでの食事(味覚)に物凄い情熱を注ぐムラクモスタッフによるこだわりの結晶の一つである。ここでは基本的に親子丼やカツ丼など、所謂普通の丼ものを出している。シンプルだが味は抜群で、中々人気のあるお店である。

 さて、イベント開始2時間前という時間にも関わらずディドがここにいるのは、腹が減ってはなんとやらではなくきちんと理由がある。


「いらっしゃいませ」

「ディドです。奥の間、親子丼大の味噌汁抜きで」

「承りました。こちらへどうぞ」


 注文を出しつつ(インベントリ)から350ギルを取り出しスタッフに渡すと、スタッフは一度深々と頭を下げ、店の奥へと歩きだした。それについていくと、やがて古めかしい扉の前に立った。

 スタッフがコンコンと扉を叩く。


「お食事中失礼いたします。ディド様が到着いたしました」

「あ、来た来た。はい、通してください」


 扉を開いた先にいたのは、思い思い喋りつつ親子丼を食べる9人の男女。見る人が見れば腰を抜かすような豪華な面子である。


「それでは、ごゆっくりお楽しみください。親子丼の方すぐにお持ちいたします」

「ありがとうございます。 ささ、ディドさんも座って座って」

「遅れてすいません、時間通りだったはずなんだけどなぁ……」

「皆興奮してて集まるの早かったからな、仕方ない仕方ない」


 2分程度で親子丼が出され、それと同時に他の人も話すのを止めて姿勢を正す。しかしゆっくりとは言え親子丼を食べているあたり、随分とリラックスしているようである。

 そして、一人の黒髪の青年が口を開いた。


「さてと、皆様お集まりいただきありがとうございます。これから強襲部隊挨拶会ならびに作戦会議を行おうと思います。司会は私、「栄光と勇猛の剣」のノイです。よろしくお願いします」


 拍手が沸き起こる。やはりランカー、リーダーというポジションが染み付いているのだろうか。

 このエブラ防衛戦の最精鋭である強襲迎撃隊の10人は、顔合わせと具体的な作戦を練るために集まったのだった。


「それじゃあとりあえず食べながらでいいので、自己紹介しておきましょうか。自分から時計回りで」

「っと、じゃあ俺か。筋肉少年隊のギルマスのムクロだ。レベルは212、狂戦士やってる。今日はよろしく頼む」


 角刈りのスポーツマンのような青年が、ニカッと笑いながら挨拶をする。爽やかな笑顔が印象に残るが、戦闘中は豹変する狂戦士だ。


「んじゃ次俺っすね。( ´∀`)σ)∀`)(がしょん!)のギルマスやってるオメガっす。レベルは208で、魔弓手やってるっす。どうもよろしくお願いします」


 どうにもヘタレ臭さの抜けない少年が挨拶をする。こんなのでも戦闘中では非常に頼りになる後衛である。


「うい、タロウです。俺達の賢者たんって所のサブマスやってます。レベル205でフォートレスやってます」


 メンバーが賢者(幼女アバター)1人とナイト6人というネタギルドのリーダーが挨拶をする。なまじ実力のあるメイン盾ばかりなので、防御力だけなら全ギルドでも随一である。


「お酒実装マダー?のギルマス、パックスだ。レベル214の山賊頭やってる。まあよろしく」


 髭の生えた中年のおっさんが挨拶をする。頭には黒のバンダナを巻いており、典型的な山賊スタイルだ。


「ぱるぅ!?のキーディです。レベル197の賢者です、よろしくお願いします」


 この選抜組の中では数少ない女性プレイヤーの一人が挨拶をする。エルフ系特有のぴこんと立った長耳が可愛らしい。


「Celsisのイリスです。レベル231、戦乙女やってます。よろしくお願いします」


 服こそ私服ではあるが、頭には天使の翼を模したアクセサリーを着けている女性が挨拶をする。優しげな微笑みと凛々しい顔立ちが見事に同居している美人さんである。


「Sword&Hammerのシュノスです! レベルは184、ジョブはハンター! 専門は撹乱なんでその辺頑張ります! 今日はよろしく!」


小さな体を精一杯大きく見せようと、少年が勢いよく立ち上がって挨拶をする。因みにこの強襲隊での最高AGI保持者である。


「モーリタニアのギルマスのサキガケだ。196の侍。よろしく頼む」


 着流しに刀にハチマキという典型的な侍スタイルの青年が挨拶をする。髪も当然ちょんまげ……ではなく後ろで縛って流している。


「で、私か。ディドの縛りプレイを見守るギルドで一応ギルマスやってるディドです。レベルは118、職業滅拳士。一人だけレベル低いので、足を引っ張らないように頑張るので、よろしくお願いします」


 最後にディドが挨拶する。このメンバーの中ではダントツにレベルが低いが、プレイヤースキルで言えば上位に位置する。


「はい、この10人で強襲隊を務める事になります。とりあえず何をすればいいかを話したほうが良いですよね?」

「ああ、頼む。自分は昨日入りだから、未だ詳細が掴めて無くてな」


 そう言ったのはサキガケ。他のメンバーも3人ほどはまだ詳細を聞いてないようで、視線がノイに集中する。


「では説明から。この隊は基本的にイレギュラー対策とボスの撃破、そして戦列の維持を目的とします。

まずイレギュラー対策は、主に映像に出てこなかった敵とか、予期してない強敵に場当たり的に対処することになります。なんせ運営がアレ(・・)なので、途中で前触れも無く強モンスターが出てくるとか普通に考えられるんですよね……」

「「「「「あー……」」」」」


 この場にいるほぼ全員が何かに納得したような顔になる。

 ここにいるのは当然ながら、別名「中級者お断り」と言われる南ルートをある程度攻略している人間だ。スタッフの悪r……ゲフンゲフン、意地の悪さは身を以って知っている。


「一つの大きな作戦で動いている以上、イレギュラーが出た場合に大きく崩れてしまう事も有り得ます」

「それを防止するために、精鋭部隊でイレギュラーを一気に倒すか……なるほど、了解した」

「続いてボスの撃破、これは単純ですね。勝利条件覚えてますか?」

「ん?えーと……敵魔物群の一定割合の殲滅、敵魔物群の指揮官撃破、一定時間の第2防衛ライン死守だね」


 シュノスがヘルプを開いて答える。


「そう。この条件だと、どれくらい敵を殲滅もしくは防衛ラインを死守すればいいのかわからない。もしかしたら敵9割とか、丸一日死守とか、それくらいなら余裕でやりかねないです。

 なんで、勝利条件は指揮官撃破を前提とします。まあ勿論戦ってるうちに勝利条件満たせばそれでもOKなんですが……」

「……無理だな」

「無理ですね……」


 溜息を吐く一同。改めて運営のやりたい放題さが目に見えてしまい、どうしてもホバタンでLGL2丁を撃ち込みたくなってしまう。

 まあそれでも冗談以外での愚痴は出そうに無い辺りは、このゲームの楽しさをわかっている人達ならではなのだろう。


「なのでボス発見と同時に自分達で一気に突っ込んで、即座にボスを撃破します。長引けば長引くほどこちらが不利ですしね。

 で、戦列の維持。三人一組とはいえ敵も味方も数が多いので、一気に数十人が交代のために抜けると一点が突破されてしまう可能性があります。それを防止するために、一度に複数のプレイヤーが抜けた穴を一時的にカバーするってことですね」

「ほう、なるほど……了解だ」

「なるほどねー」


 ふむふむ、と腕を組んで頷くメンバー。流石にベテランの面々、一度で理解しきったようだ。


「それじゃあえーと、何か質問とかありますか?」

「はい、カバーっていうのは具体的に何すればいいですか?」

「基本的にはトロルとかの強敵の撹乱と、オークの撃破ですかね。適当にあしらう程度でいいです」

「撃破ポイントはどうしますー?」

「……初回ですしポイントの基準もわからないですし、今回はとりあえずクリア優先で行きましょうか」

「了解でーす!やば、ちょっと緊張気味かも……」


 いくら精鋭と言っても、初の巨大イベントと言われるとどうしても緊張してしまう。特にこの先のゲームのシナリオに関わる可能性があるとなるとなおさらだ。

 自然と口数も減り、気まずい雰囲気が流れる。そんな時に手を上げたのはディドだった。


「あ、と、ディドさんどうしました?」

「いや大したことじゃないんだけどね。この親子丼はおかわり可能かなって」

「「「「ぶ」」」」

「「っく」」


 さらっと告げられた一言に、男子勢が吹き出す。連鎖的に女性二人も笑いを移され、終いには全員が腹を抱えて悶絶する羽目になった。


「……いや、そんなに面白いこと言ってないよね?普通のこといったよね?」

「い、いや、ごめん」

「面白く無いのに、っく、なんか笑ったわ」

「空気が、だって、ねぇ」

「まさかの、食いしん坊キャラですか……」


 腹を抱えて蹲る男子勢にとても不本意そうな顔をするディド。 


「別にいいですよ食べても、僕の奢りですので」

「この空気でごく普通にそういう発言出来るっていうのは一種の才能だと思うの」

「ある意味すごいわ、勿論いい意味でね」

「ガチガチに緊張してる自分がバカらしくなった……」

「禿同……」

「もうなんかいいです、いつも通りやれば勝てるでしょう……」

「投げんなよ、この空気どうするんだよ……」


 一気に空気が弛緩する。そうとも、これはゲームだ。気軽に、且つ真剣に楽しめばそれでいいのだ。

 そんなことに改めて気づいた一同は緊張を解き、非常にリラックスした状態で開始までの時間を過ごしたのだった。




防衛戦開始まで、残り1時間―――――。








「あ、もう一杯注文」

「「「「「三杯目!?」」」」」

凄い重い空気の時に誰かが空気の読めない天然発言すると、何故か空気が弛緩する。自分の周りでは3回くらいありましたね。

何も面白くないのに、何故か笑いの渦に包まれるんですよねぇ。


動画内容は、「空が3、モンスターが7」です。あとは脳内補完でどうぞ。




実は没にした展開がいくつか。

理由は主に時間不足です。


強襲隊の誰か「レベル低すぎで信用ならないでござる!」

ディド「よろしい、ならば決闘だ」

とか。これは「ディドさんそんなキャラじゃねーから!」という理由で没。


ゲス男1「ねーちゃんが俺達の相棒かい、ゲヘヘwww」

ゲス男2「あっちで親睦を深めようじゃないか、なぁに楽しいぜーゲヘヘwww」

ルマリア「天誅!」

ゲス男「「ギャース!」」

とか。これは入れたかったんですが、ちょっと露骨過ぎるので没。


用語集

・酒場

所謂大衆酒場のようなもの。基本的には複数人で集まって飲み食いしたり、色々情報収集をしたりするところ。

宿屋が一緒になっているところも多い。また「酒場」だがお酒は出していない。その内実装予定とかなんとか。

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