第10回PVP、レベル51〜100部門予選
ブンリョウマシ☆セントウカイワオオメ
そんな感じの番外2つ目。PVP前編。いくつかネタばらまいてます。
夜10時に後編投下予定。それにしてもひどい出来だ。
11/6 後書き追加、ちょっと修正・編集
PVP ルール表
・レベル1〜50、レベル51〜100、レベル101〜150、レベルフリーの4部門で行われます。
・各部門毎に予選を行い、予選突破者は決勝トーナメントに出場します。予選は一定人数によるバトルロワイヤルが各部門毎に8回、決勝トーナメントは各バトルロワイヤル勝利者の1対1の戦闘になります。
・予選はゲーム内時間で午前10時からレベル1〜50、午前11時半からレベル51〜100、休憩を挟み午後2時からレベル101〜150、午後3時半からレベルフリーを行います。出場者の方々は時間をお間違えの無いようにお願いします。
・決勝トーナメントは午後5時から行われます。決勝トーナメント出場者は時間をお間違えの無いようにお願いします。
・予選制限時間は15分になります。一定人数で戦闘を行い、1人を除いて全員のHPが0になった瞬間に予選の勝者が決定します。
また制限時間終了時点で複数人数のHPが残っている場合、HP残量や与えたダメージなどから戦闘ポイントを計算し、ポイントが1番高いプレイヤーを勝者とします。
・決勝トーナメントの制限時間は10分になります。先に相手のHPを0にした方が勝者となります。制限時間終了時点で両者のHPが残っている場合、予選と同じ方法でポイントを計算し、ポイントが高い方が勝者となります。
・一部のアイテムの使用は禁止です。詳しくは【PVP・GVGにおける禁止スキル・アイテム】をご覧ください。また、食事などによる一時的なステータス上昇なども無効となります。それ以外のアイテムについては特に制限はありません。
・いくつかのスキルは使用禁止となります。禁止スキルは【PVP・GVGにおける禁止スキル・アイテム】をご覧ください。
―――――ムラクモの軌跡公式サイトより抜粋
第一の町「アルジオ」。
全てのプレイヤーが初めて訪れる町にして、数々のプレイヤーがギルドの本拠地を構えていることで知られる町。
月に二度のPVP開催によって、この町は大いに沸いていた。
大通りには料理人プレイヤーやNPCの開く露店が立ち並んでおり、これまたプレイヤーやNPCが列に並んでは買っていく。
町の中央の南側に存在する巨大なコロシアムはこれから始まるPVPによって人が集まっており、商売スキルを上げるための商人(売り子)や誰が優勝するかで賭けをして盛り上がる賭博士と賭けの参加者なども合わさりとても賑やかである。
予定時間となり、コロシアム中央の真上に輝く七色に輝く球体が、その四方にモニターが表示される。
モニターに流れるムービーと大音量で響き渡る音楽。PVP開幕を知らせる合図に、会場のテンションは最高潮となった。
『レディーーーーーーーース、エェン、ジェントルメェン!
さあさあ今月もまたやってきたぜ、第10回PVP!
元気にしてたか野郎ども!また会えて嬉しいぜ淑女ども!今回もまた、マスクマンことジェイ様が司会と解説と実況をやらせてもらうことになったぜ!
よろしくなぁ!』
ムービーと音楽が終わると同時に顔半分を仮面で隠した爽やかイケメンがモニターに現れる。
沸き起こる女性の黄色い声援と男の野太いブーイング。どちらも恒例行事というか儀式というか礼儀というか、まあいつもこんな感じである。
彼の名前はマスクマン。ごめんうそ。
プレイヤーネームはジェイ。職業は奇術士である。
PVPでは毎回司会を勤め、(いい意味で)暑苦しく、また正確な実況が人気である。
それもそのはずで、実は彼もディドと同じく動画サイトで人気だった人間だ。
ディドは声などを出さないテキスト形式の縛りプレイで彼の場合は声ありの実況プレイが主だったため直接の面識は無いが、やるゲームがいくつか被っていたため、ネタにしたりネタにされたりする間柄である。
『さてついでに今回は、もう一人実況解説がいるぜ!この人だ、カモン!』
『ついでとはなんだついでとは。
えーどうも、ジェイのリア友だったりするヤズマです。
皆さんよろしくねー』
カメラの視点が変わり、青髪の青年の姿を移す。
それを見た観客のおおおっ、というどよめきが起こった。
ヤズマ。職業は氷剣士、サブ職業は水術士。
ランカーギルド「six element」の一人で、リーダーのアレフィオと並ぶ強さを誇るランカーの一人である。
『ヤズマさんなんでこんなところにいるんだっていうねwww
ランカーならPVP出てくださいよその方が盛り上がるし!』
『いやーだってうちのギルマス出てるし、流石に勝てないもん。
そんなこと言うなら自分が出てきたらいいじゃない』
『いやー冗談きついっすわwww自分なんかじゃ無理無理無理!
さてそんなことは置いといて、今回注目のプレイヤーとかいるかい?
個人的にはフリーだとそっちのギルマスかうちのギルマスはまあ優勝候補だと思うんだけども?』
『まあその辺は鉄板でしょう、ランカー舐めちゃいけませんよ。
他は101レベル帯の賢者さんとかいい感じじゃないかなと。名前なんでしたっけ、ほらエデンの』
『ああ、メルさんね。あの人はいいよね、なんていうかギャップ萌え?』
『そこじゃなくてね。あとは……あ、51帯』
『ん、ちょっと待った、それなんか同じ人想像してる気がするぜ。せーので言わね?』
『ぉk、せーの』
『『ディド!』』
『だははははははwww!』
『あはははははははwww!』
椅子から転げ落ちるジェイと腹抱えてうずくまるヤズマ。
『やっぱり同じじゃねーかwww』
『ですよねーwww』
『実力的な意味以外でこれだけ注目してるプレイヤーいないわwww』
『同意すぎるwwwというかねぇ、開始時間www』
ちょっとしたトークの間に開始時間が迫っている。
『おっといけねぇお偉いさんにどやされそうだwww
それじゃあ仕事しますかwww』
『お偉いさんって誰よwww』
『話がズレるから黙ってろwww
まあとりあえず皆知ってるとは思うけど、初めての奴や控室の人のためにも復習だ!
あんまり時間無いから噛み砕いて説明するぞー』
『時間足りないのは誰のせいだとwww』
『お前もだろうが黙ってろwww
はいじゃあルール説明な!
まず今回の予選は8人バトルロワイヤル×8回!既にくじ引きでメンバーは決まっているから、この辺はスルーでいいな。
予選一回ごとに勝者を一人決めて、勝った8人で決勝トーナメント!それで優勝者が決まる訳だ、単純だろ?
ただまあ他にもいくつかあってな。基本は他のプレイヤー全員のHPを0にすればいいんだが、なにぶん時間かかることもあるだろ。何分相手のレベルが同じくらいだから尚更な。
だからこのPVPには時間制限を設けている、予選1試合に15分トーナメント1試合に10分な。
それ以上だと時間かかるし見てる方もだれるからな、まあその辺は察してくれ。
んでもし制限時間終了時点で複数人のHPが残ってた場合は判定で残りHP残量とか与えたダメージとかでポイントが決まって、高い方が勝ち!
ここで注意してほしいのがあってな、残りHP残量によるポイントはかなり低くて、与えたダメージによるポイントはかなり高い!
詳しくは言えないが一つ言える、ずっと逃げ回ってHP100%でポイント勝ちなんて甘い考えしてるチキンは帰ってくれて結構!わかったか!』
沸き上がる歓声。皆言われずともわかっていることなので、こういうのはノリである。
『おぉしいい返事だ!早速行くぞ!まずはレベル1〜50部門、予選A・Bグループ!
まだまだ青く若い果実だが、才能溢れる新人達の戦いに注目だ!
頑張れよ新人!それでは戦士達の入場だ!まずはAグループ―――』
一人一人プレイヤーの名前と職業を読み上げていくジェイと、それに合わせてフィールドに転移されるプレイヤー。
どれも顔を緊張に包み、装備もまだ新しい。
『全員揃ったか?準備はいいな?それじゃあもう待たせるのもあれだろう!
早速始めるぞ!全員声を合わせろ!行くぞー!3、2、1!』
観客も司会者も、一丸となって声を張り上げる。
「「「「「「バトル、スタート!!!」」」」」」
合図と共に、フィールドのプレイヤーがいっせいに駆け出した。
『全員お疲れ様!これにてレベル1〜50部門の予選はつつがなく終了だ!若さ溢れる戦いをどうもありがとう!
勝った奴にも負けた奴にも、盛大な拍手を!』
会場が割れんばかりの喝采に包まれる。
『いやぁ、やっぱいいなこういうの!
これだから司会はやめられない!』
『楽しそうだね本当、いや自分も見てて楽しかったけど』
『だろだろ!にしても今回、よさ気な新人が何人かいたな!
こりゃ決勝トーナメントの結果次第ではスカウト来るんじゃないか?』
『だね。Eグループのコールさんとか中々いいと思うよ。彼女は伸び代あるね』
『そういうこと言って、新人調子づかせるなよな!
さてとにかく次だ!レベル51〜100部門!』
『この辺から戦闘が派手になってくね。魔法職による開幕大魔法ぶっぱも出てくるし、詠唱時間中に潰せるかどうかが鍵になるね』
『魔法職はこういう所だとメリットもデメリットもでかいんだよなー。
上手く行けば開幕ぶっぱで一気に削れるけど、それ故に狙われやすいからなー』
こういう合間合間のトークも、彼の人気の一つである。
そのトークに自然に合わせられるのも、リア友であるというヤズマの為せる技か。
会場は今のうちにと食べ物や飲み物を買ったりでごった返している。
『注目プレイヤーはやっぱりグロスとディドかな』
『ほうほう、その心は?』
『グロスは前回PVPのレベル1〜50優勝者だし、今回はさらに腕を上げてるでしょ。
前回は剣士だったけど、今回は魔剣士での参加だからね。前回よりさらに洗練された剣技と、新たな魔法を見せてくれるのを期待するとしようかな。
んでまあディドさんは……ねぇ?』
『なんだよwwwわかるけどさwww』
『だよねぇwww会場の中でもスレ見てる人いるだろうしねwww
わかる人にはわかるんじゃないかな?』
そこで観客の一部が苦笑。
どうやら、ディド目当ての人が何人かいるようだ。
『まあそれはそれとして、実際注目度は高いよ。なにせ妖拳士というジョブ自体PVPに出るのが初めてだし、固有スキルである妖拳術もあまり表に出てないから、対策も立てづらいだろうしね。
拳闘士は0距離っていう固定観念もあるし、もしかしたらもしかするかもね』
『なるほどね。っと、そろそろ時間だな。それじゃあレベル51〜100部門へと移ろうか!』
その宣言に、再び会場が沸き上がった。
「はぁ……」
参加者控室の中の女は、鬱々としたふいんき(何故か変換できない)で溜息をついた。
妖精族特有の少々小柄な体格のその女性は、しかし纏う衣装と存在感がアンバランスな妖艶さを引き立てていた。
彼女の名前はディド。一部では良く知られたプレイヤーの一人である。
紺色のボディスーツの上に着物を羽織り、手足はバンテージで覆われ、長い銀髪を一纏めにする美女。挑発するように組まれた足の脚線美や組まれた腕、閉じられた瞳。
同じ控室のプレイヤーは、その存在感に目を離せないでいた。
「……行くか」
ふと目を開けて立ち上がるディド。
レベル51〜100部門、予選Eブロック、8番。それがディドのエントリーナンバーだった。
そしてたった今、Eブロック7番のプレイヤーがフィールドに立った。
つまり、次がディドの出番である。
『Eブロック8番!
PVP初参加プレイヤーにしてPVP初登場となる妖拳士!
自身に制限をかけながらも物凄いスピードで攻略を進める孤高勇士!ディド!』
「何その説明……別に間違っちゃ無いけどさ」
愚痴りながらも転送ポータルに乗り、フィールドに降り立った。
『さーて全員揃ったな!それじゃあ予選Eブロック!』
「「「「「バトル、スタート!」」」」」
お馴染みとなった掛け声とともに、魔法職と思われる装備のプレイヤー二人が詠唱を始める。それに向かって殺到する三人の戦士系プレイヤー。
残りの3人は……
「……なんでこうなるのさ」
「注目選手の一人って聞いてるからな」
「そっちを先に落とせば後が楽になるし。誰だか知らないけど背水の陣なんて馬鹿なスキル使ってるみたいだし、さっさと狩られな!」
「……はぁ」
どうやら司会の二人が注目していた選手ということでこちらの危険度が高いと見たのか、ディドに狙いを定めた選手が二人。
一人(前者)は男で刀に着流しの典型的な侍、側頭部に角が生えているので竜人だろう。もう一人(後者)は猫耳女。短刀を両手に構え、鎖帷子に加えて軽そうな装備で固めている。間違いなく獣人の盗賊か忍者辺りだろう。
「……恨むぞ司会め。まあいいけど」
「行くぞ!」
「せいぜい早く退場することだね!」
同時に駆け出してきた二人に一つ溜息をつき、顔を引き締め臨戦態勢を取った。
「そらっ!」
まず仕掛けたのは短刀の女。
素早く繰り出された右の短刀を一歩後ろに下がることで避け、続いて振るわれた左の短刀の突きは半身になることで避ける。更に続く軽さを活かした連続攻撃を、無駄に無駄の無い動きで避け続ける。
「ああもうっ、避けるな!"投擲"」
「そんな無茶苦茶な」
女が手に持つ短刀を鋭いスナップで投げるも、それも服を掠めただけに終わる。すぐさま次の武器を取り出そうとするが、その隙を見逃すディドでは無い。
「ふっ、はぁっ!」
「っぐぅ!」
開いた胴に左拳で一撃入れ、間髪入れずに右の拳を叩き込んだ。
苦痛に歪む女の顔。それを気にも止めずさらに追撃を試みるが、宇宙世紀なら「ピキィン」と脳に走るであろう直感(「見切り」スキル)を頼りにその場から後退する。
直後、ディドがいた所を白い斬撃が通過する。飛んできた方向を見てみれば、振りきった刀を正眼に戻す侍の姿。
『鎌鼬か、遠距離侍とはずいぶん珍しい型を使ってるね』
『えーと、名前はラルフ、種族竜人の職業侍、レベルは72。おお、アーリヤの所のか。
あえて遠距離攻撃中心のスキル構成にすることで意表を付く作戦か?』
『侍の遠距離スキルって意外と優秀だしね、破綻はしないけど……わざわざそれだけの為に優秀な近距離スキルを使わないっていうのもちょっとわからないかな。
もう一人の短剣の子は?』
『こいつもアーリヤの所の新人だ、どうやら組んでるみたいだな。
名前はネリー、職業盗賊の獣人、レベルは70。スキル構成もオーソドックスな感じだ。
……確かアーリヤのギルドはまだタイトル持ちはいなかったよな?』
『欲が出たかな?ギルド初のタイトル持ちとなれば、名声も上がるだろうしね』
『まあ組んじゃいけないっていうルールは無いし、同じギルドじゃなくても何回か組んだ奴もいたし、そもそも組んで挑むのも作戦の一つとして認めてはいるが……』
『PVPで組んだ人ってだいたい負けてるよね。コンビ組みは敗北フラグ』
『おっと、動き出したな』
「っ!」
「く、ぅっ!」
短刀を振ろうとした右腕を左手であっさりつかみ取り、当て身で態勢が崩す。そのまま一本背負いでネリーを地面に叩きつけるが、即座に手を離して前転しつつ小さく"ジャンプ"。後ろからの"鎌鼬"をかわし、そのまま踵落とし。ギリギリで硬直から解けたネリーがなりふり構わず転がってかわす。
ドゴォ、という音とともに地面が砕けた(・・・)。
「んな……!」
「ああもう、避けるな……」
「そんな無茶苦茶な!」
さっき聞いたようなやり取りをしつつ、再びディドが駆け出した。
(くっそ、なんだってのよこの女!)
私は焦っていた。
「ディド」のことは知っている。初の妖拳士、裏ボス初出現2回なんていう経歴を持つ新人。
まだこのゲームを始めて一ヶ月くらいしか経ってないと聞いて、たったそれだけの期間で記録を打ち立てた。そんなプレイヤーに嫉妬してた。
何か汚い方法でも使ったんじゃないか。どうせただの偶然だろう。
そんな甘い考えは粉々に打ち砕かれ、現在進行形で苦戦を強いられていた。
もともとは、私が前に出て撹乱しつつラルフが一撃を決めて終わらせるつもりだった。盗賊である私のAGIはかなり高いし、火力は低いけど撹乱はかなり得意だ。元々パーティでの役割だし。
でも……いくらなんでも、これはない。私の攻撃は全て見切られダメージを与えられた様子はない。まずこの時点でおかしい。
高速で切り付けたはずの右手の短刀はかすりもせず、その影から振った左手の短刀は肘の裏を掴まれて止められる。しかも掴まれた左腕を支点に身体を引かれ、重い一撃を入れられるというおまけつき。
試合開始から5分も経たず、私のHPは半分以下にまで削られていた。しかも完全なインファイトを仕掛けられている上に私が劣勢なので、ラルフも大技を打てないでいる。
……っぐ!
「よそ見しない」
「くそっ!舐めるな!……っわきゃ!?」
「足運びが甘い」
ついカッとなって大振りになった攻撃を軽く避けられ、足払いで転ばされる。
私が倒れたことでスペースが空き、そこを見逃さずにラルフが飛ばした斬撃は、目線すら寄越さずに"ジャンプ"で回避された。
嘘でしょう!?
「"鉄拳"、呆けてていいの?」
「っ、ぐほ!」
思わず呆けた私の腹のど真ん中に、空中から勢いをつけた"鉄拳"がクリーンヒットした。
『うわぁ、ありゃ痛そう。ど真ん中入ったよ』
『痛覚は最小設定だが、衝撃はそのまま入るからなぁ。そりゃ飛ばされるわな』
『鉄拳1発で2割弱飛んだね。スキル構成のおかげでダメージが物凄いね。
いくら装甲の薄い忍者だからって、あそこまで入らないはずだし』
『単純に魔拳+背水で4倍だからな、そりゃダメージおかしくもなるか。
あと拳闘士の職業も入って、だいたい基礎ダメージ5倍くらいか?』
『基礎ダメージ6倍とかwww頭おかしいwww』
『ほんとだよ全くっと、笑ってる間にネリーが落とされたな。遠距離型の侍一人でディド落とすってのは流石に難しいだろ』
(……こいつ、本当に人間の動きか!?)
相方がやられ一対一となり、やはり俺は苦戦を強いられている。
元々侍という職業は他の前衛職と比べると、ステータスが全体的に少し低い代わりにスキルが優秀であると言われる。そのため対モンスターにはかなり強いが、対人戦では相手の対応力次第では完全に置物になることもあるとも言われる。
だがこの女、ディドはそういうレベルじゃない。そもそもスキルを出させてくれないのだ。
流れるように極自然に繰り出される連撃は捌くので手一杯で、とてもじゃないがスキルを打つ隙などない。
左の拳を弾いたと思えば右の裏拳が迫っていたり、左中段蹴りを防いだなら即座に右肘鉄を食らったりと、とにかく無駄も淀みも無い。
ある種幻想的なまでに綺麗な舞踏(武闘)に、俺は攻撃を捌きながらも見惚れていた。
だが両手両足を自由に武器にする彼女と、刀という武器を持つが故に手数の失われた俺では明らかに不利で、限界もすぐそこに見えていた。
一瞬の判断ミスから腕を弾かれ、ボディががら空きになる。しまった、と思った次の瞬間には、顎に右拳の一撃を受けた。
思考が停止し、脳が揺さぶられる。身体が言うことを聞かず、その場に倒れ伏す。最後に見えたのは俺を踏み付けようとする彼女で。
「"爆砕脚"」
無表情で踏み潰された俺は、(これ、イイ……っ!)という思考とともに気絶した。
『ここで"爆砕脚"が決まったーー!ディド選手、一撃ももらうことなく一人で無傷のプレイヤー二人を撃破した!』
『他の5人は乱戦になってるし、ここからガン逃げでも逃げ切り確定かもね』
『だなぁ。まあそれはそれとして、ディドさんすげぇ』
『そこら辺のランカーより上かもしれないね。51〜100帯で連携もほとんど出来てなかったとは言え、ほとんどスキル使わないであそこまで出来る人は限られるんじゃないかな』
『ディドさんこのゲーム始めて一ヶ月ちょいくらいだったよな?
そう考えたら相当なもんだなぁ……おっと、ここで大きく動いた!魔法職2人が倒れて疲労困憊となった3人を、ディドが背後からの奇襲で一気に撃破!
この瞬間、予選Eブロックの勝者が決定した!
戦闘時間6分37秒!圧倒的な強さを見せ付けた、妖拳士ディドが決勝トーナメントに進出だ!』
これまでにないほどに盛り上がる会場。
例を見ないほどの大型新人の登場に、会場はざわめきが収まらなかった。
「……ふう」
決勝トーナメントまでは予選19試合と各休憩時間とトーナメント8試合とかなり時間が空くので、動いた拍子に減ってきた腹を満たすために一度会場の外に出て腹拵えをしようかと思い、コロシアムをあとにする。
選手用入口を出たところで、声をかけられた。
「お疲れ様」
「……お前か、全くなんで私がこんなことしなきゃいけないんだか」
「そりゃーまあ、どっかしらでディドの初お披露目はしなきゃだし、そうなると早い方がいいでしょ?」
「……別にいいじゃない、そんなのしなくても」
「いやいや、流石に直接見るか動画見るかじゃあね。それに楽しかったでしょ?」
「……まあ、ね」
「今のディドならまあ間違いなく優勝出来るだろうし、頑張ってね〜」
「人事だと思って……だがまあ、なんだかんだで楽しいからね……と、時々なら」
「それでこそだね、ディド。決勝トーナメントも頑張ってねー」
「言われなくても頑張るさ」
見た目が変わっても、いつもと変わらないやり取り。それにどこか安心感を覚えつつ、会場を後にするのだった。
さて、何を食べようかな。
テーマソングは自分が盛り上がれるお好きな曲を脳内再生してください。
個人的にはSession 9 -Chronicles-とかオヌヌメ。
各プレイヤーの声も脳内で好きな声をあててください。
ジェイを勇者王ボイスにすると、とてつもないこれは違う感を味わえます。
用語解説
・PVP
プレイヤーバーサスプレイヤー。その名の通り、プレイヤー同士が真剣勝負する公式イベント。
現在のムラクモで一番人気のあるイベントであり、十万人を越すプレイヤーが集まる巨大コロシアムで行われる。周期は2週間に1回となっている。
当然参加志願者が多いので、軽い試験がある。試験内容は「一定期間内の特定のモンスターの一定数撃破」と「運営が用意したテストモンスターのソロ撃破」で、それをクリアした順にエントリーが決まる。
・司会、解説
公式が募集しているアルバイト。PVPなどイベントの司会を任せられる。当然試験あり。戦闘に色んなアイテムを使う奇術士は少しでもお金を稼いでおきたいため、ジェイにとってはとてもありがたい。
現在はジェイ以外にこのバイトをやっているプレイヤーは数人しかいない。
・投擲
アクティブスキル。
(「奇襲こそ裏方の華。」
効果:敵1体にダメージを与える。ダメージ量と追加効果は消費したアイテムとスキルレベルによって決定する。
習得条件:スキル「短剣術」習熟度2000
発動条件:「短剣」系武器を1個消費
発動制限:発動後30秒間「投擲」使用不可)
・鎌鼬
アクティブスキル。
(「見えぬ太刀筋、見切ってみせよ。」
効果:敵1体に小ダメージを与える。
習得条件:スキル「刀術」習熟度500
発動制限:発動後45秒間「鎌鼬」使用不可)