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短編集

俺の頭の中の魔王

作者: 毛賀深輪

一時期、某サイトで電撃チャンピオンロード企画のお題、「魔王」をテーマにした掌編を書くのが流行っていまして…そのときに便乗して4000字縛りで書いた作品です。

「あ……」

 道端に財布が落ちていた。高級そうな長財布である。おもむろに拾い上げて、ほぼ反射的な動作で中身を確認してみる。

「うわ……結構入ってるな……」

《ケケケケ……》

「はっ!?」

 その時、頭の中で声が響いた。何奴だ!!

《ケケ……ケンジよぉ。良いモン拾ったじゃねえか……。お前、その財布どうするつもりだい?》

「俺の頭の中の悪魔!!」

《オイオイまさか、正直に交番に届けるつもりかい? 貰っちまえよ》

【騙されちゃダメよ!! ケンジ!!】

 脳内でまた別の声が響く。何奴!?

【悪魔の言う事を聞かないで!! ちゃんと拾ったものは交番に届けなくちゃ!!】

「俺の頭の中の天使!!」

【あなたのその行為に感謝する人はきっといるよ!! むしろ、あなたがそれを持ってっちゃったら誰かが悲しむことになるの!!】

うん。確かにそうだ。

『フッハハハハハハァッ!!!! 小さい!! 実に小さいわァァ!!』

 心の声がもう一つ。何奴ぞ!?

『どうせならこの世界まるごと思うがままにしようぞッ!!!』

「誰だお前!!!」

『貴様の頭の中の魔王じゃ!!!』

「誰だよ!!!」

【ちょ、ちょっと悪魔ぁ! 頭の中にヘンな奴呼び込まないでよ!!】

《オレじゃねえよ! オイお前!! さっさとでてけ……》

 その時、突如頭の中で風を切るような音が聞こえた。

 それが何を意味するかを分からないまま、次の瞬間聞こえたのが……。

《ぐふっ……》

 断末魔の呻き声だった……。

「おい……。どうした……?」

【……ケンジ、いい? 落ち着いて聞いて?】

「……ああ」

【今、あなたの頭の中で悪魔が、魔王にワンパン喰らって10m近く吹っ飛ばされたわ】

「早くそいつを追放しろ!!」

《うぅ……》

【ケンジ! 悪魔に息があるわ!!】

《ま、魔王なのに……めっさ重い物理攻撃してきやがった……》

「どうでもいいよ!!」

『ブワハハハハァ!! 転生は大成功のようだな!! 力が満ち溢れておるわッ!! 脳壁に風穴を開けてやったぞッ!!』

「ねえ! 今俺の頭の中大丈夫!?」

【ちょっと待って!! 今、転生と言ったわね!? あなたは一体何者なの!?】

《な……なにが目的……なんだ》

『フフフフフ……。力無き者は実に愚かしい。いいだろう、説明してくれるわ』

「いいからでてってくんねえかな……」

 脳内会議もそっちのけで、魔王の思い出話が始まる。


 彼は今から数億年前、忌まわしき勇者との聖戦に敗れ、果てた。しかしその魂は完全に朽ちてはいなかったのだ。

 意識体だけの体となった彼は様々な次元、様々な時代を彷徨い続け、彼が意識を憑依できる器を探した。そして今、俺の体という、実に住みやすい居城を見つけたという訳らしい。


「いいよそんな設定~……。ていうか財布の会議どうなったんだよお……」

「あれ、ケンジ君?」

「え?」


 聞き覚えのある声に振り返る。そこには同じクラスの女子であり、俺が密かに思いを寄せている森山さんの姿があった。

「も、森山さんっ!? き、奇遇ですね!!」

「ほんとだね~」


 頭の中で囁き声が聞こえてくる。

【ケンジ!! 森山さんじゃない!! こんな日に会えるなんてすごいラッキーだわ!!】


「こんな日……? はっ! そ、そうだっ、今日はクリスマスだ!! うわ、全く予定無いから忘れてた!!」

「えっ。あ、そうだね……」


【森山さんに予定が無いか聞いて!! この機会を逃したら次は無いよ!】

《ケケケ……どうかな? こんな可愛い人だぜ? どうせ彼氏がいるに決まってるじゃないか》

 ニヒルな笑い声とともに、悪魔も囁きだす。

【そんなの分からないじゃない!!】

《やめとけって。どうせ自分が傷ついて終わりだ……。おとなしく家に帰ろうぜ》


「そうだよな……。森山さんが、彼氏いないわけないもんな……。ましてや、クリスマスに予定を入れてないなんて事……」

「なに……? なんでさっきからこれ見よがしに予定無いよアピールをしてくるの……?」


《魔王はどう思う?》

『どうせなら世界中の女共をはべらせて暮らしたいという発想は貴様等にはないのか?』


「そんな壮大で汚い野望を一介の男子高校生がするか!!」

「そこまで汚い事考えてたの!? やめて!!」


【ちょっと! ケンジを混乱させるようなこと言わないでよ!!】

『フフフ、暢気な事を……。お前達の世は近いうち、再び我が手中に収まるのだというのに……』

【どういう意味よ……?】

《はっ……まさかお前の真の目的は……》

『フハハハハ!! そうだ!! 我輩は初めから貴様等と友達ごっこなどをするつもりなどないのだ!! 我輩は貴様達の主の脳を完璧に乗っ取るつもりで憑依したのだよッ!!』

【な、なんですって……】

『この脳の主権を我が手に収め、意識を完全に奪うッ!! そして新たな器を得た我輩は、再びその魔力を持ってしてこの世界を支配するのだァッ!!!』

《ま、まさか……そんな……》


「おいおい、茶番はもういいからちゃんと脳内会議してよ……」

「…………」


『ほう? ケンジ、と申したか……。貴様の想い人の森山とやら、なかなかに上玉ではないか……?』

「!?」

『丁度いい。貴様の意識を奪ったらまずは、この小娘を肴に祝い酒と洒落込もうではな――――ッ!!』


 ばきぃっ!!!


 脳内に響き渡る音。その音の主は……。

【ケ、ケンジ!?】

《なっ!? ど、どうしてここへ……!?》


『頭の中』に降り立った俺の、怒りに震えた堅い拳だった。


「俺の頭を支配するとか、世界を手中に収めるとか、そんな夢物語はどうだっていい……。けどなあっ!!」

 ファイティングポーズを構える俺は、頬を軽くなでる魔王に真っ直ぐな目を向けた。

「森山さんに手を出すなんてことだけは!! 絶対にさせねえし、冗談でも言わせねえッ!!!」

『フフフ……面白い……』

 空間が歪み、魔王がその渦に腕を突っ込むと、その中から大鎌が取り出された。大柄な魔王の身長ほどもある巨大な得物である。

「く、くそっ!! 大きけりゃいいってもんじゃ……」

 思わず身がたじろぐが、ここまで来れば引き下がるわけにはいかなかった。

【待ってケンジ!!】

「……!? な、なんだ!?」

 俺の体が光に包まれる。何か分からないが、まるで力が湧いてくるような感覚が押し寄せた。

《オレ達の力も使ってくれ!!》

「う、うおおおおおおおおお!!!!」

 光が収まる。ゆっくりと目を開けた俺は輝く光の鎧を身に纏い、漆黒の剣と盾を手にしていた。

『き、貴様!! 何をした!!』

 魔王が驚愕の声をあげる。

 俺の全身から、彼らの声が伝わってきた。

【私達一人一人だけの力じゃどうしようもないけど……】

《オレ達三人の力を合わせれば!!》

「天使、悪魔……。よし!! やってやろうぜ!!」

『おう!!!!』

『く、くそ……小癪な……。いいだろう!! まとめてかかって来るがいいわァァァァ!!!』

「うおおおおおおおお!!!! 行くぞまおおおおおうううう!!!!!」



 次に瞼が開いたとき、俺は風のそよぐ草原で大の字に倒れていた。

 起き上がろうとするも、全身が軋むように痛んだ。

「そ、そんな……。俺は……負けたのか……」

『……いや』

 はっ。

 野太い声に気づき、首を横に曲げる。そこには、魔王の巨体が同じように横たわっていた。

『我輩の……負けだ……』

「ま、魔王……」

『ようやく分かったぞ……。我輩がこの体に憑依できた理由……。それはやはり、貴様と我輩の数億年前の因果関係の強さによるものだったのだな……』

「魔王、お前……」


 魔王の体が光に包まれていた。


 意識体のみとなったうえ、俺との死闘で儚い存在となってしまった魔王の魂が……今度こそ消えようとしているのだ……。

『貴様は……勇者の素質を継いだ者だったのだな……』

「…………」

『勇者ケンジよ……。時には魔王の心を胸にな……。貴様が手に入れたいと心より願うものを、貪欲に追い求めることは……決して悪ではない……』

「時には、魔王の心を……」

『さらばだケンジよ……! 我輩の魂を解放してくれて……礼を言うぞ……』

「魔王!!」

《さて、魔王が消えるなら、オレ達もお別れだな……》

【あなたと過ごしてた毎日、すごく楽しかったよ……】

「な!? 悪魔!! 天使!!」

 いつの間にそこにいたのか、俺を覗き込むようにして、二人は俺の傍らに座り込んでいた。

《さっきの激闘で、オレ達の体はもうズタボロさ……》

【全く魔王のヤツ……加減ってものを知らないんだから……】

「悪魔……天使……。まさかお前達、俺をかばってそんなにもダメージを……!!」

《勇者に目覚め、魔王の心を手にしたお前は、もう何も怖れるものはない……》

【もうあなたは、一人でもちゃんとやっていけるんだからね!!】

「そんな……俺はまだ、お前達に!!」

《あばよ……ケンジ……達者で暮らせよ?》

【じゃあね、ケンジ……。 元気でね?】




 世界が、光に包まれていく――――




「うおおおおおおおっ!!! 天使!! 悪魔!! 魔王ううううううう!!!」

「うわぁ!! もうなんなの!?」

「はっ!! ここは!!」

「あの……大丈夫? ケンジ君……。なんか、5分くらい前にいきなり白目剥いて倒れちゃったかと思えば、いきなり叫び声をあげるし……。もしかしてケンジ君は悪魔憑きなの?」


 森山さん……。

 そうか、俺は戻ってきたのか。


 胸に手を当てる。

 俺の頭の中に、騒がしい脳内会議―ズはもういない。しかし、奴らの信念、そして、魔王の心は俺の胸の中に確かにある。

「あの!! 森山さん!!」

「えっ! な、なに……?」


 悪魔……天使……。お前達がいなくても……俺……。


「こんなこといきなり言うのはアレなんですが!!」


 時には、魔王の心で……だろ? 魔王……。


 俺はがしっと彼女の手を掴んで寄せ、甘く囁いた。



「……お前、俺のオンナになれよ……」

 おもいっきしビンタされた。

前書きで4000字と書きましたが、本来は2000字縛りなんですよね。2000字オーバーって!!


感想下さるとかなり喜びます!! よろしくお願いします!!

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