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6 師匠の不安

 この小説は釣りです。


 違った。

 この小説はフィクションです。

 今回はラブコメパートです。


 2011 9/20改訂

〈魔術師、いや、世界最初の魔法士がどのようにして誕生したのか。これは永遠のテーマだ〉

〈精霊の姿は精霊に契約した魔法士にしか見えない〉

〈それならば、一体どのようにして最初の魔術師は精霊と契約したのだろうか?〉

〈諸説あるものの、それは……〉

 その先を読む手が止まる。

「いつまでそうしているつもりです?」

 そこは白い空間だった。白い大地に、白い空、白い机の傍にある白い椅子に腰かけた青年に、黒いレースの付いたドレスを着た少女が無表情に話しかけた。

「まだ序章(プロローグ)も読み終わってないのだが?」

 茶色の外套を着た青年は読んでいた真っ白い表紙の本を閉じて机に置いた。

 青年も少女も黒い目に黒い髪でこの白に満ちた空間では浮き出ている。

「それだけ読めれば十分でしょう?早く仕事をしなさい。さっさと行け」

 あどけない顔つきと違い少女の口は悪い。

 やれやれ、と青年は苦笑いを浮かべながら立ち上がる。いつの間にかその左手には漆黒の鞘に納められた刀が握られていた。

 その目前に黒い穴が現れる。

「じゃ、世界を救いに行きますかね」

 一言、心底面倒臭そうに肩を落としながら青年は告げる。

「いってらっしゃい。アッセル・リーヒニスト」

 振り返るのも面倒に感じたのか無反応に、青年・アッセル・リーヒニストは黒い穴を潜って白い空間から出て行った。

 首を振って少女は疲れたように溜息を吐く。それでも少女は無表情のままだった。

「やれやれ。蛇足にならなければいいのですが」

 それは彼女にとって常のセリフだった。



     ☀☀☀☀×❀❀❀❀



「はむはむはむ」

「もぐもぐもぐ」

 ……。

 補足すると前者がホムラ、後者がサクラである。

 サクラと共に道場に帰ってきたシンラはホムラから一喝受けたのだ。

「あ・さ・ご・は・んぅぅぅ!!!」

 ちなみに彼女は《日暮れの雨》を抜刀して斬りかかってきた。

 川瀬と話したが本当にいろいろ大変そうだったので、「ご飯どうします?」と聞くのがとても訊きづらかったのですとシンラの心情を付記しておく。


 赤髪の少女と、桜色の髪をした少女が一緒に食事をしているのはなかなかにシュールだ。

 といってもそう思うシンラもいつか見た目が魔力に順化し、髪や瞳の色が変わってしまうのだ。あながち他人事というわけでもない。

「……」

 ちなみにシンラは罰として朝食抜きである。まあ、すぐに昼食の時間になるわけで、特に罰とも思わない。それに味見の時に彼はこうなることを予想して多めに食べていた。

「シンラ君、それでこの娘は誰なのかな?」

 いかにも興味ありませんと敢えてシンラを見ずにサクラを見ていたのだが、明らかに気にしている。答えによってはすぐさまシンラを焼き尽くす気満々だ。そのあとはベッドに連れ込む気であるのは敢えて言うまでもない。

 シンラにとってはただの精霊で、パートナーなのだから、変に動揺もせず答えられるはずだった。しかし、その言葉をいうことはできなかった。

「わたしはシンラさんの一生のパートナーです!!」

 頬や口周りにご飯粒を付け、堂々とサクラはシンラが口を開く前に宣言した。

 なぜ一生なのか。確かに精霊は契約した魔術師が死ぬまで契約解除はしないのだが、それでも自己紹介が先だろう!とツッコむより先に、ホムラの呪詛の言葉が聞こえてしまった。

「ほぉ~」

 動揺からか「ふぉ~」と甘噛み気味に言ったのでどこかの宇宙忍者のような声になったが、シンラには込められた感情がビシビシ伝わっていた。

 即ちそれは怒りである。

 もちろんシンラは弁解しようとした。

 しかし、こういう場で男の弁解は女性には信じられないものである。

 結果だけ言うと、借家の道場は無事であったとだけしか言えない。

 シンラはこの先いかな状況であってもサクラより自分が先に話をしようと心に決めた。



《不死炎》を使った追い駆けっこを繰り広げ、ぐったり柱に倒れこむシンラとホムラ(彼女は食後に走り回って消化不良を起こしたため)の前に回ったサクラは、

「改めました。始めました。わたし、シンラさんの契約霊のサクラと申します!」

 台詞の初めでシンラとホムラは内心で(何かの事業でも起こすのか!!)とツッコミを入れていたが、二人とも気力を失っていたので口にはしなかった。

「あ、っそう」

 なんかもうどうでもいいやとホムラはシンラを見る。

 この少年が見た目美人で儚げなこの少女とどうにかなっているはずがないのだ。そもそもこの少年にはそんな気概もない。

 実に今更な思考で少女は自分の湧き上がる黒い感情を抑え込んだ。

「シンラさん、この人はシンラさんのいい人ですか?」

 へたり込んでいた二人が数センチほど飛び上がり、

 俊足で駆け寄ったホムラがギュッとサクラの手を握り締めた。

「サクラちゃん、あなたいい子ね。ご褒美にアメを上げるわ」

「へ?ああ、ありがとうございます」

 なんだかわけのわからないと呆然としたまま、どこから取り出したかわからない飴をサクラは口に含んだ。ちなみにイチゴ味である。

「いや、この人は俺の魔術の先生だよ」

 再び柱にもたれかかったシンラが修正した。

「!」

 キィィンという音を立てて銀光が煌めく。

「お願いですから一々日本刀を抜刀しないでください!!」

 バシッとホムラの一閃を両掌で挟み込むことで防ぐシンラ。

「おお! 真剣白刃取りですね!!」

 なぜか興奮して目を輝かすサクラ。

「っぅぅっぅ~~~~~!!??」

 声にならないホムラの文句に、シンラは頭を悩ませながらもサクラを見た。

「ところでいい人ってどういう意味だ?」

 ぽかんと覇気を納めてホムラは首だけサクラに向け、

「もちろん恋仲よね!!」

 日本刀持ったままいう彼女の言葉は脅しじみているが、サクラは意に関せずあっけらかんという。

「いいえ、シンラさんに優しくしてくれるいい人という意味のいい人ですよ。

 先生なら、いい人ですよね。シンラさん」

 はじける笑顔で言ってのけるその精霊を見ながら、もうこの娘の発言は真に受けまいと誓い、師と弟子はだらりと脱力するのだった。



「ところで師匠、サクラのような人型の精霊なんて、この世に居たんですか?」

 気を取り直して昼食時、三人は円卓を囲んでいた。

 ちなみに朝食|(本人主張)から一時間ほどしか経っていないのにホムラは苦も無くご飯と豚の角煮と野菜サラダをペロリと食べた。

「居るには居るわね。過去に四回出現しているわ。

 一番新しい事例だと、二四年前に現れた精霊王と呼ばれる《フェンリル》が人型の精霊だったらしいわよ」

 文章や何かで読んだことを思い出すように、顎に人差し指を当て考えるホムラもシンラを悩ますほど可愛い。

「それに、もっと気になることがあるのよ」

 ホムラはちらっとゆっくりと昼食を食べ進めるサクラに目をやり、シンラの目を見た。

 言うべきかどうか迷っているという表情だった。

『精霊は契約者以外には干渉不可能。でも、サクラにさっきホムラは触ってたわね』

 聞きなれない声が天井からした。そこには枝につかまったように空中に停止している文鳥サイズの赤い小鳥がいた。

 ばさばさと羽ばたいて、その鳥《天照》はホムラの肩に本当に留まり、

『始めましてシンラ君。というのは何か変な感じね、私はあなたをずっと見ていたから。私がホムラの契約霊、《天照》よ』

 柔和な声に慌ててシンラは頭を下げた。

「ど、どうも。改めまして、シンラ・ミトセです」

 まじまじとシンラは《天照》を見つめる。

『どうしたの?』

 気になった《天照》が尋ねると些か恥ずかしそうにシンラは、

「いえ、いつもは《不死炎》になった時の姿しか見ていませんでしたから、まさかこんなに小さい小鳥の姿をしているとは思ってもみなかったんです」

 シンラがイメージしたのは雄々しき怪鳥のような鳥だ。それこそ人を運べるような巨大さを想像したのだが、全然違った。何これ。インコ?

 深窓の令嬢とかが飼ってそうなイメージがあるシンラなのだが、

「うん?」

 目の前にいる彼の師はどう見てもお転婆な娘だ。いや、少々恋愛面に奔放的過ぎるが。

 まあ、精霊は契約者の外見ではなく、内面を判断するのだが。

「精霊に干渉できるのは契約者だけでしたよね」

《天照》だけでなくホムラにも確認するように顔を見た。

「うん。その通り。《天照》はあたしんに触れてるけど、シンラ君には触れられないよ」

「そうなんですか?」

『何なら試してみる?』

 いたずら少年みたいな声に何をです、と聞く前に。

 鳩尾に赤い鳥が突進してきた。

 ごぶぅっ!? と何かを吹き出す動作をしたところで、気付く。

「……。何ともない?」

 振り返って見ると、《天照》は優雅に飛翔していた。

「この通り、精霊は物体に触れられなはずなのよ。さらに言えばご飯を食べることなんてできるはずない」

 二人は一心不乱に食事に取りかかるピンク髪の少女を見る。

「思いっきり食べてますけど」

「……そうね」

 首を捻っている二人を尻目に、知ってか知らずか当の本人はとぼけたようにも見える笑顔を浮かべていた。



 食後に二人はまあ精霊ならいいかという結論に至ったのだが、そこからまだシンラがサクラから魔力の譲渡をしてもらっていないことに気付き、急遽道場に三人は集まった。

 そこに思わぬ(というべきかどうか分からないが意外ではある)来客があった。

「うお!! なんか一人増えてる!!」

 来て早々その客、御子柴銀は驚いた。

「銀、どうした」

「いやー、お前が契約するなら今日ぐらいかなと思ってな。陣中見舞いってやつだ。ところで、そちらの御嬢さんはどちら様だ?」

 籠に入った色とりどりの果物を指しながら銀は道場に入った。それに反応したホムラが「りんごちょ~だ~い」と駆け寄った。……まだ食べますかとシンラは呆れる。

「え~、説明し難いんだが、これが俺の契約霊らしい」

 ピンクブロンドの髪を揺らして、サクラは一礼した。

「始めました、じゃなかった。初めまして、シンラさんのパートナーのサクラです」

 シンラと《天照》のやり取りから学んだのか、サクラは初めて正しく自己紹介をした。

「……」

「どうした?銀」

「いや、見目麗しい女の子が男のパートナーと名乗るのはどうかと思ってな。

 魔術師でも精霊って分からんのだから、普通に二人がこれなのかと誤解されるぞ」

 ホントに興味ありませんよとでも言いたげな表情のまま、小指を立てる銀。

「小指を立てることに意味があるのですか?」

 サクラの疑問に表情を変えずに銀は言う。

「どうだろう?ただ、一般的に運命の赤い糸は小指に繋がっているそうだ」

(どこの一般だ?それと意外とロマンチックな例えをしやがるな)

 この巨漢(シンラ目線)はもっと無骨で無愛想な人間だと思っていたのだが、とシンラは微妙なことを気にした。

「しかし、人型の精霊か……」

 銀は怪訝な顔で、サクラとシンラを交互に見る。

『これはまた意外ですね』

 背後から浮遊する半月状の物体にしがみ付く猫のような生物が語る。

「これが銀の精霊か?」

「ああ、《アルテミス》だ」

『初めましてシンラさん。《アルテミス》と申します』

 猫は器用に半月に掴まったまま顔だけでぺこりとお辞儀をした。

「どうも、シンラ・ミトセです」

 今日は自己紹介してばっかりだとシンラは思う。つまりそれは彼にとっての門出であるということでもある。

 とにもかくにも、改めて初めてサクラの魔力をシンラは受け取るために、二人は向かい合った。

「ではいきますよ~」

 何となく不安を覚えそうなほどのんびりとした口調で、サクラは両手を上げる。

 魔力の譲渡はただ精霊がそう望めばいつでも行えるものだが、何故かサクラはわざわざモーションを付けた。そのことに疑問を抱いたシンラを除く面々だったが、気にする間も無くそれは起こった。

 シンラの体が輝きだすと、

 バコォォォォン!!!!

 爆発音とまばゆい光で、各人の視界、聴覚機能が奪われた。

「なに!? どうしたの?」

「おおお! なんかスゲエ」

 やがて見えてきたのは黒こげになったシンラが目を回す愉快な光景だった。

 見事に道場には危害無く、シンラだけが灰になっていた。

「ああ!? ごめんなさいっ! わたし、どうにも魔力の扱いが下手で」

 それで黒こげにされたのだからシンラとしては堪ったものではない。

「シンラ君? 大丈夫?」

 膝枕で支えられたのだが、その柔らかさや、いい匂いを気にする余裕も返事をする余裕もシンラにはなかった。

「シンラ君? 意識無いの? だったら人工呼吸してあげないと!!」

「一応言っておきますが、呼吸してるいる時に人工呼吸するのはかなり苦しいですからね!!」

「おお!! 黒こげのまま起き上った!」

「驚くのもいいけど、心配してくれ……」

 ちっと舌打ちするホムラを無視してシンラは立ち上がる。

「サクラ、もう一度だ」

「……でも」

 失敗を恐れているのかサクラは消極的になったように、シンラの言葉に素直に頷けなかった。

「大丈夫なのか?」

 爆発に巻き込まれないようにしっかりと距離を取った銀のセリフに、真面目にキレてもいいかと思ったがシンラだが、

「俺は紅ホムラの弟子だぞ、これぐらいなんともないさ」

 むしろ精神的には貞操の心配をしなくていいので楽だ。

 なるほどなと頷く銀の隣で頬を朱に染めたホムラが気になったが、今はそれよりもやることがある。

「サクラ、遠慮せずにこい!」

 ボロボロのくせに強がって笑う彼を見て、サクラは頷いた。

「いきますよ~!」

 ピカァァァ、バコッォォォンという光と音がシンラの意識を今度こそ刈り取った。



     ☀☀☀☀×☽☽☽☽



 眠ったシンラはそのそばに付きっきりのサクラに任せ、ホムラと銀は道場で向き合っていた。

「どう思う?本当に陰陽師たちが何か仕掛けるのかな?」

 日本軍最高位の魔術師である川瀬五郎の持ってきた依頼、京都の陰陽師の計画の阻止。

 二人が話し合っているのはそのことについてだ。

 銀は鋼拳流を最年少で免許皆伝したことで有名だ。同じ村にいるホムラも当然彼の話は知っている。

 ホムラは一人の魔術師として彼の意見を伺ったのだ。

「どうでしょう?

 あれは確か、地理的要因を使って魔法現象を起こすといわれてますからけど、……土地の開発が進んだ今の日本で、国家を転覆させるほどの力は出せないと思いますよ」

 だが一方で、窮鼠猫を噛むという。

 もしも彼らが衰退の危機にせめて最後に、と行動をとるかもしれない。

 そういう思いを込めて銀は懐疑的な言葉を口にした。

「そうね。……やっぱり見てみないとわからないか」

 赤い瞳を細めてホムラは心底嫌だと言外に語った。

 苦笑いを浮かべた銀と精霊たち。

「川瀬准将のことがそんなに嫌いですか?」

「嫌いよ。大がつくほど嫌い。気に食わないのはそれでもあの男に従わなければならない今の状況ね」

 特にシンラを利用して自分を引っ張り出すところが気に食わない。

 シンラを戦いに巻き込むのが腹立たしい。

 無論魔術師である限り、何かしら物騒な物事に関わらざるを得ない。

 まだまだ魔術は戦争関係で使われることが多い。戦争によって発展するのは、魔術も科学技術も同様だ。

 ホムラもまた、戦いを経て日本最強の四人の魔術師に数えられるようになった魔術師の一人だ。

 例え魔術師を成長させるからといえ、魔術師になったばかりの者を、そんな国家レベルの騒乱に参加させていいものではない。

(何より、シンラ君はその危険性を理解した上で、それでも進んで加わって来るっていうのが果てしなくムカつく)

 ぐぐぐぅっと歯噛みしてキッと何故か銀を睨み付け、

「銀君は実戦経験ある?」

 と若干脅迫気味に尋ねた。

 まあ、銀の答えは脅されようがどうされようが変わらないのだが。

「ありますよ。四、五回は」

 事もなく告げる銀。

 ホムラはマジマジと彼を見る。

 魔術学校を卒業する年齢は若くても十八。実戦を味わうのが二十過ぎというのが普通なのだが、銀の年齢はシンラと同じ十六歳である。

 その年でその数の実戦を踏むのは異例と言える。

 しかし、ホムラにはあまり重要なことではない。

「だったら今回の依頼に着いて来て、シンラ君をフォローしてくれない?」

 少し考えた後、銀は静かに頷いた。



 本当はこれで一章が終わる予定でしたが、

 

 まとまりませんでした。

 もう少ししたら続きができると思います。

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