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5 春風の妖精

 この小説はフィクションです。

 この小説はやっぱり釣りでした。(再確認)


 キスが今回もでません。

 2011 9/20改訂

〈精霊がこちらの世界へ来るのは不老不死を求める故だという〉

〈人間の世界では精霊の命の時間は止まるのだ。故の不老不死〉

〈しかし、それだけならば人間と契約する必要はない。わざわざ人間一人に縛られるような生活を彼らが求めるはずもない〉

〈その訳は彼らの魔力だ〉

〈魔力とは彼ら精霊が自身の世界で役目を果たすための力だ。そのため彼らの力は自分意志とは関係なく勝手に生み出される〉

〈本来ならばその力は役目を果たすために使用されるのだが、人間界でその必要はない〉

〈魔力は消費されず溜まる〉

〈そして限界を超えたとき、彼らは消滅してしまう〉

〈それでは本末転倒である故に彼らは魔術師と契約し、己の力を消費するための蛇口として人間と関わるという〉

〈一部の精霊はまた違った目的を持つというが、一応これが魔術師の中では常識として知られている〉



     ☀☀☀☀☀☀☀☀



 スウスウと規則正しい寝息を立てる少年、シンラ・ミトセに音もなくその影は忍び寄っていた。

 月明かりさえも遮られたその寝室で、その影は熱と自分の力の残滓を頼りに彼の眠るベッドへ潜り込む。

 ベッドの中は温かい。人肌の温もりというのがこの世で一番心地よい温度だとその影は大真面目に思っている。

 毛布の中で、すうっと深呼吸する。彼の匂いがした。なんだか無意識に頬が緩くなってしまう。

 のそのそとほふく前進しついに影はシンラと顔を向き合わせた。

「……何をしているんですか、師匠」

 残念ながらシンラはしっかりと目を覚ましていた。

「ちっ、シンラ君。こういうときは黙ってお姉サンに任せるものだよ?すぐに昇天させてあげるから」

 おそらく昇天と言葉通りに受け取るものではないと思いながら、シンラはやんわり師を遠ざけるためにその体を押す。

 ふにゃん。

「ああんっ」

 ♡が飛び出しそうな声と柔らかすぎる感触にさしものシンラも体を硬直させる。

「って!」

 毛布をまくり上げるとそこにあったのはネグリシェ姿の少女の体だった。

 薄暗い中、まさに暗順応が働いてきたシンラの目にははっきりと映る。

 決して胸の膨らみが大きいわけではないが、バンランスのとれた華奢な体がはっきりと出るその姿は、思春期の少年をドギマギさせるのに十分な威力を秘めていた。

「なんて格好しているんですか!!」

「うん?ネグリシェ」

「名前聞いているんじゃありません!!人の家に忍び込んだ上にその格好はどういう意図があるのかを聞いているんです!!」

「襲ってほしいから?」

「ゴフゥ!!」

 疑問形であるのにツッコミを入れられないぐらいにシンラは動揺したらしく、頭から床へダイブした。

「ぐほぉ!!」

グルリングルリンと二、三回のた打ち回るシンラ。

「大丈夫?」

 さすがのホムラも心配したのか、ベッドの上から苦笑い気味の表情で見下ろしてくる。

「大丈夫に見えますか?」

 シンラは涙を湛えた恨み深い目で彼女を睨む。

 つい五時間ほど前まで二人は魔術を使った戦いをしていたのだが、既に二人はそのことを忘れたように振舞っていた。

 詰まる所日常のように、であるのだがさすがにこんなことは今までなかった。

「師匠、どうしたんですか?今日は精霊との契約術を教えてくれるんじゃなかったんですか?」

「教えるよ~。でもその前に、いい加減シンラ君も理解してほしいんだ」

 ジワリジワリと蛇のようにベッドからシンラに迫るホムラ。彼女はシンラに体が触れても、全く意に留めず這うように彼の瞳に迫る。

(まずいまずいまずい!!!)

 シンラは己の理性のリミットが外れかけているのを理解していた。

 なんだこの柔らかい体は!自分と同じ素材でできているのかとどこかに問いかけたい。

「師匠は攻略可能キャラなのだよ?その辺りきっちり踏まえて接すること。

 わかった?」

 はい、わかりました。とシンラはうわ言のように呟いた。ツッコミを入れる余力は間違いなく無い。

 満足げに頷いて漸くホムラは離れた。

 どことなくではなく、どこからどこまでも惜しい気がしたのだが、シンラは求める感情を一切消去した。これ以上考えたら彼は野獣になっていたかもしれない。もっともそんな根性も実際はないのだろうが。

 荒い息を整えてホムラに帰るように促そうと、

「じゃあ、あたしん汗掻いたから」

 まずい。話の流れがかなりまずい。

「先にシャワー浴びてるね」

 そのセリフだけなら勘違いする人が多発しそうだった。

 シンラの苦悩の夜は、まだまだ続く。



 朝、げっそりとし、目の下に隈ができたシンラとこれ以上はないってくらいの機嫌のホムラは共に朝の市に来ていた。当然ながらホムラの服装は普段着であるシャツとちょっと短めのスカートだった。断じてネグリシェではない。

 彼らの住む村は辺鄙なところではあるのだが、交通の要所が近いため商店の品揃えはその辺の大都市より多い。

「市に来るのも久しぶりだな~」

 ホムラは元々シンラが来る前まで、一年ほど一人暮らしをしていたのだ。ちなみにその家は今シンラに貸し出されている。当然の如くホムラも鍵を所持している。

 そのことに背筋の凍る思いだったが、もうなんかいいやとシンラは開き直っている。

「今は何が旬?」

「栗がおいしいと聞きました。それと秋刀魚ですかね?」

「じゃあ栗ご飯に、おかずは秋刀魚でお願いね」

「朝ごはんのリクエストですか?」

「楽しみにしてるね」

 話だけ聞くと二人は恋人か新婚夫妻のようだった。

 馴染みの店を二、三件回ってシンラたちは山中の道場に到着した。

 そこには二人が思いもしなかった客人がいた。

 若草色の襟付き服を着た白っぽい髪をした見た目は20代後半の男がそこには立っていた。

「……」

 ホムラの表情が一転して固くなっていた。

 そんな顔をシンラは一度も見たことがなかった。

 少し荒っぽく足音を立てながら、シンラたちはその男の前へ歩み寄った。

「お久しぶりです。川瀬さん」

 無愛想な声であいさつしたホムラの瞳は、普段殻は想像できないほど冷たい。

 ホムラに川瀬と呼ばれた男は一礼した。

「シンラ君、朝食を作ってて」

 反論は許さないといった雰囲気の師匠に、はいとシンラは言葉少なく返答した。



 ホムラとシンラの道場の中心、板張りの部屋はかつての剣道場の名残だった。その床に正座し、二人の魔術師が相対していた。

 片方は燃え盛る火炎の如き赤い髪に恒星のような自身の姓と同じ紅色の瞳を持つ女性。紅ホムラ。

 対するは氷のように透き通った白銀の髪に氷蒼の瞳をした男性だった。

 堀の深い頬に、スッとした鼻立ちは切れ者を思わせ、飄々としたようにも見える体はその実極限まで鍛えられた理想形であった。

 男の着ている濃い若草色の襟付きの服は現在の日本軍の軍服である。

 日本軍魔術師師団団長。それが男の役職名である。

 男の名は、川瀬五郎。『玄武』の名を冠する軍の魔術師だ。

「久しいな。紅元伍長。五年振りだったか?」

 低い声に脇に控えたオオカミのような獣が低い唸りを上げる。

 氷属性の精霊、《氷狼》である。

 薄い空色の毛皮をした《氷狼》であるが、凶暴そうなその顔に冷たい知性を秘めた灰色の瞳をしている。見た目は獣だが精霊界でも賢者としてその名が通っている。

 片や、伍長と軍位で呼ばれたホムラは極めて不満そうな顔をしている。

「川瀬さん、わざわざどうして軍の魔術師の最高位のあなたがここに?」

 ホムラは仕返しとばかりに階級を付けずにその名を呼ぶ。

 彼の位は准将。

 ホムラの言うとおり名実ともに日本軍最高位の魔術師だ。

「日本魔術師協会の正式な依頼書を持ってきた。君と今から魔術師としてデビューする君の弟子に引き受けてもらう」

 頼みではなく命令だった。

 日本魔術師協会とは日本中の魔術師を表向き統率している協会だ。時たま魔術師に厄介ごとを押し付ける(ホムラ主観)だけの組織だ。事実名前だけの組織なのだが、基本的に日本に住む魔術師はその依頼を断れない

 その実管理しているのは軍である。(もっとも、魔術師の人権等の問題からそのことは隠蔽されているが)

「……またその手ですか」

 あからさまに不機嫌なホムラ。その瞳は憤怒の炎に彩られていた。

「あたしん時と同じように、今度はシンラ君まで巻き込むつもりですか?」

「聞こえが悪いな。水戸(みと)()森羅(しんら)君もれっきとした魔術師。ならば、私の指示に従うべきだろう?」

「その手が同じだって言ってのよ!!」

 立ち上がり、ホムラは怒りで思わず立ち上がり、板張りの地を踏みあげた。

 対して男は冷淡に、

「紅君、これはすでに決定事項だ。

 それに日本という国家の存亡を掛けた任務を君たちに与えるのだよ」

 聞き逃せない言葉に、頭を冷やしたホムラは座布団に戻った。

 見計らったように川瀬は茶封筒をホムラに手渡した。

 慣れた手つきで開封し、書類を流し読みする。

「京都で陰陽師と呼ばれる魔術師が暗躍している。

 最近彼らが国家を転覆しかねない計画を立てていると情報が入った」

 日本の公式の見解では陰陽師は魔法士であると発表されている。

 現在世界を席巻する魔術師は精霊の魔力を使う精霊魔術師だ。

 陰陽師と呼ばれる魔術師は地理的な要因を用いた超常現象を起こすものだという。

 彼らの使う力は魔力ではないと主張しているが、式神という精霊と契約しているとも考えられている。

 魔術師は魔力がこの世にないと言っているが、陰陽師の主張は真逆である。

 実のところ陰陽師を魔術師の立場から解釈できない。

 逆もまた然り。だからこそ、双方には大きな確執がある。

「それであたしんたちに京都へ行けと?」

「前から思っていたんだが、君のその『あたしん』という一人称は『あたしの』が訛ったのか?間違っているから直した方がいい」

 ホムラはまた立ち上がり、

「うっさいわね!!あたしんだって直したいわよ!!!!」

 直したかったのかと川瀬は己の失言を恥じた。コンプレックスは誰にでもある。彼みたく軍という上下間に絶対的な隔たりがある世界に住む人物にしては軽率過ぎた。

 あえて咳払いをして話を進める。

「それで、私は日本最強と呼ばれる魔術師四人の中で『朱雀』の名を得た君に頼みたい」

『朱雀』のホムラ、『玄武』の川瀬というように日本最強の魔術師が四人いる。それはそれぞれ四方神である朱雀、玄武、青龍、白虎と対応する異名を得ている。だがそれはまた別の機会に語るであろう。

「でも、それはあたしんの事情でしょう?シンラ君には関係ないよ」

「水戸瀬森羅はかえって君に付いて行こうとするかもしれないぞ。

 彼は魔術について研究しているんだったな。陰陽師が使う力に興味を抱くだろうな」

「……」

 否定できない。

 あの少年は何故だか魔術の研究になると人が変ったように励む。

 それでこその芸術家であるのかもしれないが、こんなふうに川瀬に利用されるとは思っていなかった。

「まあ、話だけでも通しておいてくれ」

 結果を理解しているのに、この男は。とホムラは歯軋りする。

 では、失礼すると一礼をして川瀬は立ち去った。それについて《氷狼》も姿を消した。

 後には赤い髪の少女と赤い小鳥が残された。



     ❀❀❀❀❀❀❀❀



 やけに不機嫌だった師匠に何とか頼み込んでシンラはようやく精霊との契約魔術を教えてもらえた。

 といってもただ決められた呪文を詠唱するだけだから単純かもしれない。というのが今日までの魔術の考え方だったが、このシンラ自身がすべての魔術はイメージを補強するだけのものだと証明しているので、本当に簡単なのかどうかは定かではない。

 要はシンラのイメージ次第ということだ。

 道場から少し離れたこの場所、木々が生える山の中で少し開けた場所であった。

「開け、異界の門。我が声に答えし、かの地の者よ。ここに来たれ」

 詠唱を終えると黒い穴のようなものが彼の前に現れた。

 この魔術に失敗すればどうなるか分からない。本当ならホムラに習ったこの詠唱魔術(スペル)を3、4分毎に使うしかなかった。

 しかし、彼は芸術家、失敗することは当たり前で成功すれば万々歳という考え方がどこかにあったのだろう。

 手始めに彼は筆記魔術(ノート)をプラスすることにした。

 筆記魔術は詠唱魔術(スペル)から派生したという説がある。

 その説には口に出す詠唱を、空間に刻むことで魔力を行使するのがこの筆記魔術と言われている。

 しかし厳密には詠唱時にいう言葉と空間に書く文字は異なる。これは両方を使うシンラが証明している。

 おそらく言葉にする文字と書く文字には何かしらの違いがあるのだ。それが魔術を使う時に影響するとシンラは考えている。

 穴が消えたたのを見計らい、言葉と同時に右手で文字を書く。

「開け、異界の門。我が声に答えし、かの地の者よ。ここに来たれ」

『異界と繋がりし扉。かの界よりの使者を招け』

 意志的か無意識的にか、彼の二つの魔術は似通っていたが違う言葉で発動した。

 再び彼の前に黒いブラックホールのような異界への扉が現れた。それには先程と異なるところがあった。

 金色の円のような装飾が、その穴には施されていた。

(門?俺のイメージがこの魔術に門の形を与えているのか?)

 いずれにしても彼の試みは成功しているのだろう。不遇なことにこの魔術は成功したのか、失敗したのか分からない。

 次はより明確に形を与えることにしよう。

 また門が消えたのを見てから、そう思い立ち左手で図形を書き始める。その図形はこの場所を切り取ったようなものだ。図形の上に木や茂みなどを書き加えてこの魔術が発動する。

 図示魔術(グラフィックス)。範囲を決めるのにこの魔術は適している。

 この魔術は空間を切り取り、そこに魔力で具象を起こす魔術だ。まさしくイメージを絵に描くことで発動する。

 三度みたび現れた異界の門は金の装飾に加え、両開きの扉を備えていた。

 まさしく門である。それはシンラには覚えのある形だ。

(我ながら想像力が貧困だな。まさか見慣れたものをイメージするとは)

 別に彼の考えは酷く一般から外れたものではないのだが、彼には不満だったようだ。

 どうやっても人というものは自分の知ったものしか考えられないというのに。

 今回の門は黒い穴がない。つまりこれは自分か相手が開かなければならないものなのだろう。

 ゆっくりと門を押し開く。

 既に見慣れ始めた黒い異界への穴がそこには広がっていた。

「さて、次は演算魔術を足してみるか」

 座標を指定する必要がある演算魔術をどのように行使するか考えながら、ふと門をみると、

 薄い桜色の輝きが門の奥から差し込んでいた。

「……来たのか」

 何となく心残りがあるのだがそれ以上に彼の中には自分のパートナーとなる精霊に期待を膨らましていた。

 それというのも魔術師は契約した時に初めて精霊が見えるようになる。故に彼らにとって精霊との契約とは最大のイベントなのだ。

 まさしく彼らが一人の魔術師として世界に認められる瞬間である。

 桜色の光が黒の門の中を埋め尽くし、ついにシンラも目を開けてられなくなったとき、《それ》は来た。

 視界が回復したシンラが初めに見たのは陽光に透き通るピンク色の細い糸のような束だった。

こ の世のものとは思えない(事実この世のものではないのだが)輝きに目を奪われていると、次に金色に光る水晶が見えた。

 ゴンッと何かにぶつかったような擬音が聞こえて、彼の視界が、今度は真っ黒になった。



 嗅ぎ慣れない甘い香りを感じて、シンラは目を覚ました。

 いつの間にか仰向けに倒れていた彼はムクリと上半身を起き上がらせ、キョロキョロと周りを見た。

(確かに何かと頭をぶつけたと思ったんだけど)

 考え込むように顎に手を当て、ふと空を見上げると。

 ピンクの髪をした和服っぽい服を着た逆さになった少女目を閉じて浮かんでいた。

 桜色の和服っぽいというのは少女の服装がどう考えても日本古来のそれとは異なっていたからだ。

 帯など体に触れる部分は和服の面影があるのだが、手や足などの末端に行くとそれはもはや和服ではなかった。

 腕の部分にあるはずの袖が本体とセパレートの形で分けられ、しかも無意味に長い。歩いていて地面に付きそうなほどの長さだ。

 加えて本来足もとまであるはずの和服が膝上でカットされていて、言うなれば和服のミニスカートだった。

「な、なんだ?」

 驚天動地だった。精霊を呼び出すつもりだったのに何故人間の女の子がここにいるのか。

(いや、本当に人間なのか?)

 シンラの疑問は浮かんだ少女の容姿から浮かんだものではない。

 魔術師は己の身に宿した魔力の影響を強く受ける。

 例えばホムラは赤い髪に赤い瞳をしているが、これは《炎》の属性を持つ《天照》の魔力が影響したものだ。

 魔力にはそれぞれ象徴色というものがある。炎は赤、氷は白か青、光は白か金色などその属性によって色がある。

 炎の魔力を宿すホムラはその象徴色である赤に髪や角膜の色素が変化したために、その容姿を得ている。

 つまり魔術師にとって髪や目の色が変だからといってそれを問題にはしないということだ。

問題は彼女の中にあった。

(なんだ、この魔力は?)

 莫大な魔力がその少女から滲み出ていた。一応魔力を感知する能力は魔術師なら持っているのだが、それにしてもこの量は異常だった。

 例えて言うなら、人間の体に電流や血液中に鉄分が流れているのだが、その体内環境に影響が出るほどの強力な電磁石が目の前に浮かんでいるようだ。

 シンラの中に残るホムラの魔力が、溢れる魔力に呼応するように燃え上がっているように彼は感じた。

 その結果として少し頭痛がした。

 その属性は《光》。

 そこで彼はようやく理解する。

 その少女こそが、精霊なのだと。

「精霊は確か、この世界に来る時に人型から形を変えるんじゃなかったのか?」

 ある程度の知識は書物から得ているとはいえ、実際に初めて見る精霊がこんな姿だとは思いもしなかった。

「……うぅ」

 少し不快気に顔を歪める精霊の少女。

 どうしたものかとアタフタとしているシンラに構わず少女は目覚める。

 ばっちりと目が合った。上下逆転した二人の姿が瞳に映る。

「は!人間界は天地逆転しているのですか!?」

「違う!君がひっくり返って浮かんでいるだけ!!」

 金色の目が特徴的な彼女は一見すると神秘的な魅力を持っているのだが、どうやら中身はそれとはかなり違うらしい。

「はう!!」

 驚いたのか宙で一回転して地上に彼女は正座で着地していた。

「は、始めました!わたし、精霊のサクラと申しますっ!属性は光です!はい!!」

 ペコペコする彼女に言ってあげたいことは山ほどあったが、とりあえず事項紹介しなければならない(というより相手にしたら面倒だと思ったために)とシンラは一礼する。

「始めまして、俺はシンラ・ミトセです」

「シンラさんですか~。今日からあなたの精霊にならせていただきました」

 にっこり微笑むサクラは名前の通り桜の花のように頬を染めていた。




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