3 師弟対決
この小説はフィクションです。
この小説は、痛快バトルラブコメです!!!
……自信はありませんがきっとそうです。
〈魔法士の世界を震撼させた発見が精霊の発見である〉
〈過去には霊力や精神力という人間に宿っている(であろう)力こそが魔力であるという意見が主流であった。(副流として神への祈り等によって齎される神力が魔力という意見もあった)〉
〈精霊の発見はこれらの意見を衰退の道へと陥れた〉
〈現在では魔術師のほとんど全てが精霊の力を借りて魔術を使う精霊魔術師である。(魔術師だけに限った話であり、一部では未だに神力を使うと主張する魔法士もごく僅かに存在する)〉
〈精霊が人間と接触を持ったのは偶発的なものだった〉
〈精霊の世界と人間の世界は隣接しているらしい。そして、精霊の世界では存在するものは全て役割を持っているという。存在が壊れる決まった日まで、精霊は役目を果たし続ける。存在が壊れる時、後任の精霊が誕生する。故に役目を果たすものがいなくなることはない〉
〈あるときどこかの精霊がたまたま人間の世界に紛れ込んだ。精霊は壊れる日が間近に迫っており、この異界で死ぬのかと考えたようだがいつまで経ってもその存在が壊れることはなかった〉
〈その精霊は長い時間をかけて精霊界に帰還し、そのことを同胞に知らせたという〉
〈これが精霊の人間界来訪のきっかけだ〉
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赤く輝く瞳に弟子を映しながら、その魔術師は呟くように言葉を放つ。
「炸裂」
その一言だけで道場に灰色の煙がシンラとホムラの中間点から発生し、瞬く間にそれはシンラの視界を遮った。
「くそっ!」
シンラは舌打ちをして、すぐさま一言を風に乗せるように呟く。
「爆発」
瞬間、爆音が響き渡り、充満していた煙は吹き飛んだ。
視界が開いたシンラの前にはその師匠はいなかった。
ふとシンラは道場の入り口の引き戸を見る。
締める余裕もなかったのか、その戸は完全に開いたまま放置されていた。
ふっと微笑みシンラは獲物を追い詰めるハンターの気分で戸へ一歩踏み出した。
「ふぃ~~~」
気の抜けた顔で大樹の枝に座ったホムラはその樹を背もたれにしてため息を吐いた。
『いきなり逃げるなんて、らしくないわねホムラ』
どこからか聞こえた成熟した女性の声にホムラはむっと顔を顰めながら虚空を睨み付ける。
いや虚空ではない。そこには文鳥サイズの赤い小鳥が浮かんでいた。
飛んでいるのではない。まるでそこに見えない枝が有るかのように留まっているのだ。
この小鳥の姿をしたものこそ彼女が契約する精霊《天照》だ。
「うるさいわね。あたしんだって逃げたくなかったわよ」
『逃げたことを責めてるわけじゃないのよ? ただ珍しかっただけ』
ふふふと笑うように小鳥は全身を揺らす。
『まあ、彼といきなり道場で全力をぶつかるわけにはいかないけどね』
そんなことをしたら大変だ。あそこ借家なのよ~。と何やら妙に現実的なことを考えていたホムラだったが、周囲を警戒しながら相棒に一言漏らす。
「あたしんは全力出せないのよ? そこはわかってよ」
精霊との契約は現代の魔術師になる必須条件だ。
故に基本的に最終試練では師は弟子に対して本気を出さない。(そもそも借り物の魔力を使っている弟子は師に本気を出されると勝てない)
故に魔力に何らかの制限をつけるか、魔術式の種類を極端に減らすかしない限り、普通弟子が師に勝てる道理がない。技術も経験も圧倒的に足りないのだから。
根本的な人数が不足気味の魔術師界にとって新人の育成は急務であり、その関門を難しくするのは魔術師界全体の損失になる。
そのため、早く一人前として世間に出すよう、最終試験で師は手を抜くのだ。
加えてもう一つの理由として、精霊と契約するために必要な技量はそれほど高いものではないことが挙げられる。
精霊との契約は、魔術師が精霊に語りかけるだけ。それに精霊が答えれば契約成立。答えなければ答えてくれる精霊が来るまで何度でも繰り返す。そうすればそのうち精霊は寄ってくるものだと言われている。
精霊は技量やらの魔術師的器ではなく、性格や波長などが合う人物かどうかを契約者を決める基準としている。完全に自分の趣味で契約を決めてしまうのだ。(このため優秀な魔術師だからと言って、精霊が優秀だとは限らないことがままある)
その点このホムラは魔術師的な器だけでなく精霊にも恵まれていた。
「あたしんが本気だしたら、この山ぐらい消し飛ぶでしょう?」
『そうね。貴女の力じゃなくて、主に私の魔力が多いのが理由だけど』
《炎》の精霊の中でも、《天照》の力は特別なものだ。
まず魔力の桁が違う。魔力の桁は発動できる魔術の種類やその質(具体的には威力や規模)の違いを表す。
しかし、それ故の扱い難さが目立つ。(ホムラにはいまいちその辺りの事情が分かっていないので、らしい、という接尾語が付くが)
その力を行使できるホムラも特別な魔術師であるということだ。
「取りあえず《天照の業火》クラスの魔術は使えないね」
『なら、《不死炎》は?』
「その位なら使ってもいいわね」
にやりとホムラは笑い、後ろから迫り来る足音に耳を澄ませた。
道場から出てしばらくして、シンラは自身の魔法出力器に仕込まれた式の一つを起動した。
《数値化》と呼ばれる式である。
これは空間の座標をその目で見るための魔術だ。(事象を変化させている訳ではないので、厳密には魔法に分類される)
この《数値化》は演算魔術と呼ばれる魔術を使うためになくてはならない下準備のようなものだ。
演算魔術は発動する座標と効力を等式で表し、発動する魔術だ。
式の入力に時間はかかるが、座標指定の魔術のため他の魔術よりも正確な場所で発動可能なところが演算魔術の特徴だ。
数値化自体、本来は大規模魔術などの準備に手間がかかり、位置を間違えると大変なことになる魔術に用いられる補助用の魔術である。
他にも想像魔術、詠唱魔術(ホムラが使う魔術はこれである)、筆記魔術、図示魔術などがある。
しかし、シンラが使う魔術は実はこのどれでもない。
彼が使う魔術は複合魔術と名付けられた。オリジナルである。
ホムラは持ち前の魔力探査能力で《数値化》が発動したことに気付いた。
魔法出力器を握り直し、いつでも飛び出せるように準備をしていた。
そのことが幸いしたのだろう。
「《爆発》!」
そのシンラの声と共に目と鼻の先で発動した《爆発》の魔術を紙一重で回避したのだから。
《爆発》は魔力で可燃物質を生成し、少ない魔力で爆発起こす《炎》属性の魔術だ。
(あぶな~)
樹から飛び降りたホムラは爆風に飛ばされながらも、超人的運動神経で着地を成功させていた。
これこそが彼の魔術、複合魔術。
今のは演算魔術による正確な座標と、短い詠唱による発動時間の短縮化に成功したシンラ独自の魔術だ。
《爆発》自体炎の魔術ではありふれたものだが、詠唱魔術ではあまり効力がない。
精々爆風で視界を奪うのが関の山であるのだが、
(演算魔術で同時に位置を魔術式に入力することによって、任意の場所で発動させる、ね)
これにより爆風をもろに食らうことになり、気絶してしまっていたかもしれない。
これを初めてシンラが作り上げたとき、ホムラはこの弟子を誇りに思ったものだ。
この技術は魔術研究と魔術師の育成において大きな変革を齎せるものだ。
すぐさま樹を離れ森で息を潜め、静かに時を待つ。
魔術の研究で、想像、詠唱、演算、図示等の魔術はそれぞれ別の発生元があり、同種の魔法でも、術の違いがあるとされている。
先程シンラが使った魔術《爆発》を例にしてみると、演算魔術の《爆発》と詠唱魔術の《爆発》はそれぞれ別のものであるといわれていたのだ。
しかし、彼の使った複合魔術はこの説に反したものだ。
シンラは詠唱魔術の《爆発》に座標指定に演算魔術の《爆発》同時に発動したのだ。
魔術のそれぞれの特徴で欠点を補ったといっていいだろう。
詠唱魔術は一般に広く用いられている魔術で、これが基準と言われている。
想像魔術は、魔術の発動した場面を文字通りイメージするだけなので、速度に秀でている。しかし、発動位置や威力が曖昧なまま発動するのが欠点と言える。
演算及び、図示魔術は座標を指定して魔術を発動できるため、その正確性が特徴の魔術だがそれと引き換えに発動速度を失った。
シンラの複合魔術はこれらの魔術の根源にあるのが想像魔術であることを証明した。
全ての魔術は魔術師の想像力を使う想像魔術によって発動する。そして、他の魔術はその想像を補強するために生まれた魔術であることが真実だった。
(……あたしんがいつまでも隠れている訳にはいかないね)
(反撃開始、ね)
契約した精霊と魔術師はその意識をリンクさせ、他の人には聞こえないように会話ができる。
ホムラは音もなく森を走り抜けた。
「放て炎の矢!」
ホムラの叫びとともに彼女を頭上、左手と右手の周囲の計3か所に炎が発生した。
その炎は瞬く間に矢の形を成してシンラのもとへと飛翔する。
シンラはいち早くその魔術の発動を感知したのか、自身の杖の形をしたデバイスを正面でバトントワリングのように片手だけで回転させる。
デバイスには無属性の魔力が込められていた。
無属性魔力とはホムラのように特別な事象を起こせるものではないが、魔力同士の衝突時において万能な力を持つ。(魔力同士の相性などのため、属性を持つ魔力は万能とは言えない)
故に無属性魔力は防御魔術として多用されている。
なお、魔力を無属性化するには人間が体内で魔力を操る必要があり、精霊から与えられた時点では魔力は精霊の属性を反映している。(ちなみに《天照》は《炎》に属している)
(甘いんだよ、シンラ君)
赤い少女はにやりと笑う。
そして右手の親指と人差し指を合わせ、
パン!という大きな音をたてた。
それと同時に3条の炎の矢がシンラの手前で爆散した。
これは指の鳴る音を発動キーとしたホムラの詠唱魔術の一種だ。爆発に一番近しい音を発動のための詠唱として使い、魔術の式に仕込まれた起爆装置を起動することが可能になる。
つまり、ホムラの魔術は全て魔術を構成する式に爆弾が仕掛けられているのだ。
爆風の起こした土煙りで見えない弟子に向かってホムラは刀の形状をしたデバイス『日暮れの雨』を構える。
喜ばしいことか否か、彼女の弟子はこれぐらいで倒れるようなやわな男ではないのだ。
「師匠、これはマジですね。俺を殺してもいいとか考えていませんでしたか?」
「いんやー、あたしんはそんなことは考えてなかったよ?ただ、吹き飛ばされて肋骨の1、2本でも折れてくれればなぁ~と思ってただけだよ」
「いやいや、目の前で《爆散》を発動した人が何を言いますか」
「それを言うならシンラもあたしんの目の前に《爆発》を発動させたよね?あれは素人なら死んでるよ?」
「玄人がなにをほざきやがりますか」
いまさら思うがこの弟子の態度は師に対するそれではない。
煙が去ったのちに見えてきたシンラは、服装こそ汚れていたが目立った外傷もなく無傷だった。
彼のその手にあるデバイスが先ほどまでの片手に持ちやすいサイズから2倍近くにまで伸びていた。
これこそが彼のデバイス『如意』の最大の特徴だった。
機械技術を用いた『如意』はその長さを約0,8mから最大で2mまでの間で伸縮させることができる。それも一瞬のうちにだ。
『如意』を一振りすれば、既に彼の獲物の長さは変化している。
「次はこちらから行きます」
わざわざ宣言するということがどういうことなのか、当然ホムラにも分かっていた。
(挑発ね。乗る必要はないわ)
そんな冷静な『天照』の結論が正しいとは思う。
(だけど、弟子の自信を正面から叩き潰すのが師匠の役目だと思うんだ)
(あのね……。貴女、自分の価値観で動きすぎよ)
どう言われようとホムラはシンラの攻撃を受け止めるつもりだ。
それを理解しているため『天照』も呆れ声で話しただけで、特に止めはしなかった。
これが命のやり取りをする戦場なら二人の判断も違っていただろうが、弟子との戦いにその価値観を持ってくる必要はない。
シンラは伸びた『如意』を先ほどとは違って両手で回転させ始めた。
その両端に炎が宿り、その軌跡が円を描く。
「火円」
それは短い詠唱だった。それとともにシンラは回転を維持した状態で『如意』を放り投げた。
しかし投げられたのは描かれた炎の円であった。
炎というより朱色の円は旋回しながら少し不規則な動きをしながらもホムラに向かって飛ぶ。それはまるで円形ののこぎりが射出されたようだった。。
ホムラは『日暮れの雨』を大地と垂直に構え、左手でその刀身を支える。
(受け止めてあげるよ、君の愛を!!)
(本当に貴女は、お願いだからストーカーにはならないでね)
『天照』は少し離れた位置からホムラを見下ろし、心配げな瞳でその契約者を見ていた。 ガキイイイインという音を響かせ火円と刀がぶつかり合う。
見た目それほど速く移動したわけではないのだが、刀を構えたホムラは地面を靴で抉りながらじりじりと火円に押された。
(ぐぅ、この魔術、かなりの硬度だね……)
硬度とは魔術の壊れにくさを示している。
汗が彼女の首筋を流れていく。それは火の熱さからではなく緊張によるものだ。
気を抜けばこの術は彼女の刀を弾き飛ばし、その身を胸の辺りで両断してくれるだろう。それも熱で焼き切ってくれるのだ。さぞかし痛いに違いない。
数m押し進められたところで、ホムラの『日暮れの雨』が火円を真っ二つに斬り裂いた。
「はぁ、はぁ」
彼女は数度息を整えるとシンラに向かい構えをとる。
「どうしたの?まだまだここからだよ?」
フッと笑うシンラにも、クスリと笑うホムラにもまだまだ余裕があった。
まだまだ前哨戦が終わっただけということである。
どうでしたか?
本当は3話で終わる予定が長引きまして次話も師弟対決は続きます。
たびたび修正して申し訳ありません。
だらしねぇ作者だと笑ってください。